第6話 離れられない!?
「俺が生きてる? どういうことだよ?」
桐ヶ谷先輩が、驚きの声を上げる。
すると今度は、春風先輩が。
「そうそう。それなのにいきなり、響夜が亡くなっただの幽霊だの言ってきたから、なに言ってるのって思ったよ。だけどデタラメ言ってるわけじゃなさそうだし、どういうこと?」
「わ、私にもなにがなんだか? 桐ヶ谷先輩、どういうことですか?」
「むしろ俺が聞きたい。こうして幽霊になってるってことは、死んだってことじゃないのか?」
桐ヶ谷先輩も事情がわからずに、混乱してるみたい。
「響夜と話しているのか? どうやらそちらは状況を把握していないみたいだけど、響夜が生きてるのは本当だ。この病院に入院している」
「ああ。俺達さっき、響夜さんのところに行って確かめてきたんだ」
「もちろん君がウソをついてるとは思ってないけど、どうなっているんだろうね? そうだ、響夜の様子を見てみるかい?」
春風先輩に言われて、私も桐ヶ谷先輩もうなずく。
全員で病室を出て、向かった先は病院の奥にある別の病室。
入ってすぐに仰天する。
中にあったベッドの上には、患者服姿の桐ヶ谷先輩が横になっていて、目を閉じていたの。
側には、心拍数を示すモニターが動いてる。
「この通り、桐ヶ谷はちゃんと生きてる。もっとも、事故の後はずっと眠ったままだけど」
なるほど。
それじゃあ学校で聞いた桐ヶ谷先輩が亡くなったっていうのは、デマだったんですね。
昏睡状態が続いているのを、誰かが勘違いしてウワサを流したのかな?
なのに私は、桐ヶ谷先輩が亡くなった前提で話をしてたもんだから。
そりゃあ拓弥くん達だって、怒るよね。
桐ヶ谷先輩を見ると、自分の体を前にして驚いてる様子。
「俺の体だ。こうして自分の体を見るのははじめてだけど、不思議な感じがするな」
「え? 見るのはじめてなんですか? 幽霊になってすぐとか、見てなかったんですか?」
「ああ。事故に遭ったあと、気がつけば今の状態で、学校にいたんだ。そしたら誰も俺のことが視えてないみたいだし、俺が死んだなんて言ってるやつもいて、それで自分が幽霊だって思ってたんだけど」
幽霊になったとき、体が近くになかったんだ。
「つまり、先輩は自分が亡くなったって、ちゃんと確認したわけじゃなかったんですね。だとしたらこれは……」
私は桐ヶ谷先輩や拓弥くんたちを1人ずつ見る。
「状況がわかりました。ここにいるのは、桐ヶ谷先輩はの生霊です」
「生霊? それって、源氏物語で六条の御息所がなったっていう、生きたまま幽霊になるやつのことかい?」
「はい。みなさんには視えていないかもしれませんけど、桐ヶ谷先輩の幽体は私の横にいます。桐ヶ谷先輩の魂が、体から離れてしまっているんです」
「つまり幽体離脱して、戻ってないってこと? 俺、幽霊とか詳しくないけど、それってヤバいんじゃないの? 魂が体に戻らなかったら、響夜は目を覚まさないってことない?」
そうなります。
昏睡状態が続いているのは、きっとこのせい。
魂が抜けた状態だと、ずっとこのままなんです。
「桐ヶ谷先輩、体に戻ることはできますか? さっき私に憑依したときみたいにやれば、戻れると思うんですけど」
「あのときは自分でもどうやったか分かってないんだが、やってみる」
先輩は自分の体の前に行くと、覆い被さるように重なる。
だけど……。
「ダメだ、すり抜けるだけで戻れねー」
そんな。
自分の体に戻るだけなんだから、私に憑依するよりも簡単な気がするのに。
「響夜、戻れないのか。どうして?」
「わかりません。けどたしか、幽体が離れて戻れないのには、原因があるはずなんです。肉体の損傷が激しかったり、心に何らかの問題を抱えていて、戻るのを拒んでいたり」
「さすが専門家。詳しいね」
春風先輩は言ったけど、別に専門家というわけでは。
けど昔から幽霊が見えていたから色々調べていて、知識はあるんです。
すると染谷先輩が、難しい顔をする。
「体は問題ない。大きな外傷はなくて、いつ目を覚ましてもおかしくないはずなんだ。逆に言えば、いつ目を覚ますか分からないってことでもあるけど」
「ちょ、縁起でもないこと言わないでくださいよ。けどそれじゃあ、響夜さんが拒んでるってこと? なんで!?」
拓弥くんの言葉で桐ヶ谷先輩を見たけど、先輩は自分の体をじっと見つめている。
「俺が拒んでる? そんなはずは……」
「先輩?」
すると先輩は、ハッとしたように言う。
「原因はわかんねーけど、戻れないもんは仕方がねー。それより皆元、お前はもう帰った方がいい。あんまり遅くなってもいけねーし、俺の体は生きてるって分かったんだ。あとはこっちでなんとかするよ。色々世話になったな」
「いいえ、私はべつに」
本当は、桐ヶ谷先輩が体に戻るお手伝いまでできればよかったんだけど、残念ながらこれ以上はなにもできそうにない。
先輩の言葉を拓弥くんたちに伝えると、みんな納得したようにうなずいた。
「たしかに、これ以上君を巻き込むわけにはいかないか。うちの者に、車を用意させるよ」
「そんな、1人で帰れますから」
「そうはいかない。もう遅いし、無理をさせた責任が、僕にはある。響夜も、そう言ってないかい?」
「晴義の言う通りだ、送ってもらえ。俺はここに残って、戻る方法はないか色々試してみるよ」
まあ、それなら。
言われた通り染谷先輩に車を用意してもらって、みなさんに別れを告げる。
全然スッキリしないけど、仕方がないよね。
だけど、病室を出て少し歩いたその時。
「うわっ、なんだ!?」
「え、桐ヶ谷先輩?」
すぐ後ろから、病室に残してきたはずの桐ヶ谷先輩がついてきていたの。
「どうしたんですか? また何か、みなさんに伝えてほしいことがあるとか?」
「違う。急に何かに引っ張られるような感じがして、気づいたら皆元の後を追ってたんだ」
「え?」
驚いていると、話してるのに気づいた拓弥くんたちが「どうした?」って、廊下に出てくる。
「あの、実は響夜先輩の生霊が、なぜかついてきてしまっているんですけど」
「え、ひょっとして響夜、美子ちゃんのこと気に入って、離れたくないとか? 地味系がタイプだったの? 」
「なっ!? 本当ですか響夜さん!?」
騒ぐ春風先輩と拓弥くんだったけど、それは絶対に違うから!
桐ヶ谷先輩の話しだと、自分の意思とは関係なしに追いかけてきてしまったってことだけど……まさか!?
「ひょっとしてこれって……」
「なにか分かったのか?」
「たぶんですけど、桐ヶ谷先輩は私に、とり憑いちゃったんだと思います。きっかけはたぶん、憑依したとき。あれで魂の契約がなされたと言うか……」
「待て、そんな専門的なことを言われても理解できねー。もっと分かるように言ってくれ」
「ええと、つまり桐ヶ谷先輩は私から、離れられなくなってしまったんです!」
病院なのに大きな声を上げてしまったけど、気にする余裕なんてない。
桐ヶ谷先輩はもちろん、聞いていた拓弥くんたちも驚いてる。
「離れられないってどういうことだよ? 響夜さんの生霊が、美子にずっとついて回るってことか?」
「たぶん……」
「なんてことだ。何とかする方法はないのか?」
そう言われても。私も対処法までは知らないんです。
けど先輩の焦る気持ちもわかる。
病室に残って元の体に戻る方法を探さなきゃいけないのに、私についてくるならそれもできなくなるんだもの。
はっ、それにこのままだと……。
「あの、先輩。大変申し上げにくいのですがとり憑いている以上、私の家までついてこなきゃいけなくなるんですけど……」
「……マジか?」
顔を見合わせながら、何とも言えない気まずい空気が漂う。
さらに、それを聞いていた拓弥くんがなぜか、「ウソだろぉ!?」って、崩れ落ちるように膝をついた。
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