第4話 ゴーストの正体見たり
数日後、出版社から彼らの自宅の電話に連絡があった。
「え? はい、居りますが……」
固定電話に出た母が、なぜか明日香ではなく京輔を呼んだ。
嫌な予感がしたが、出ない訳にはいかない――京輔は渋々電話に出た。
「四季京輔君? 編集長の
「はい、そうですが……妹とお間違えではないでしょうか?」
冷や汗が流れるのを感じる。
「いえ、間違えていません。うちの出版社から出している雑誌のインタビューについてなのですが――」
インタビュー?
そういえば、明日香が友人と出掛けると言って帰りが妙に遅かった日があったが……まさか!?
「そのインタビューで、本当に書いているのは君だと――」
明日香の奴、やりやがった!
その後は頭が真っ白でしばらく聞いていなかった。
「――それで、本当のところはどうなんですか?」
編集長の向井の言葉はまだ続いている。
口調こそ丁寧だが、取調室に居る犯人の気分だ。
「いえ、何かの間違い――」
「京輔君」
「はい?」
「もう嘘はやめようよ」
口調が変わって、子どもを諭すように言った。
「い、いえ、妹が川村さんとずっと打合せして……それでおかしなところはなかったじゃないですか!?」
これでは打ち合わせの内容を知っていると自白しているようなものだが、彼は気付かない。
「私はね……これまでも多くの作家の作品を見てきた」
「は、はあ?」
「作品には、その作家の個性、人となりが反映されるものだよ。そのどれもが、妹さんに合わない。別人の書いた物だと分かった」
彼の喉がゴクリと鳴った。
「じゃあ、川村さんも……」
「いや、あの子はまだ日が浅いからね。気付いてなかったようだが……私は最初からおかしいとは思っていたね」
「そ、それならなぜ黙って……」
「作家のことを気遣うのも、編集部の役目だからね。何らかの事情があるのだと思って、そのままにすることしていたが――」
今回のインタビュー記事で、そうもいかなくなったのだという。
「で、ですが……今更明かしてしまったら、明日香が築いてきた物が……」
「いいじゃん! もう本物の作者だって言っちゃえば!」
いつの間にか、明日香が背後に立っている。
「お前、いいのか!? ずっと騙してたって言われても!?」
「私は良いの! お兄ちゃんが認められれば!」
京輔は受話器を握りしめながら呆然とした。
随分と時間が経ったのに、相手が受話器を置く気配はない。待っているのだ。
「あ、あの……」
彼は意を決して言った。
「決心、できたみたいだね」
「はい、俺が……私が、書きました」
その後は少し大変だった。
翌月に発売されたその雑誌で、本当の作者は京輔だと明かされた。
それは大きな話題となり、彼に関するあらゆることが取り上げられた。ブラック企業で精神を病んで人前に出るのが辛かったのだと同情する意見もあれば、美少女である妹を餌に読者を釣ろうとした卑怯者だとする意見もあった。
当然、その影響は彼だけに留まらず妹、明日香にも及んだ。彼女のことを嘘つきだとする誹謗中傷も少なからずあったそうだ。ちなみに、千絵については「やっぱり」という顔をしたが、それ以上の追及はなかったらしい。
また、読者の中にも「読むのをやめる」という宣言が相次いだ。もっとも、熱心な読者はそんなことでやめないので、流行りに釣られた一部の読者だけだろうというのが向井の弁だったが……。
カタカタ、カタ……。
今日も、京輔の部屋の中にはPCのキーボードを叩く音が続いている。
突然ドアが開いて、明日香が飛び込んできた。どさりと机に置く。
「はい、これファンレターとサインの依頼ね。全く、お兄ちゃんだって分かっても預かるのは結局私なんだから――」
外からは明るい日差しが差し込み、鳥の鳴き声が聞こえていた。
引きこもりのゴースト 異端者 @itansya
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