神殿騎士の殴り込み!!

ファイセル達が故郷こきょうのシリルに近づいていた頃……。


今日も学院がくいん闘技場コロシアムは生徒でまっていた。


長期休暇にも関わらず彼らはけと勝負に熱中している。


ここはお世辞せじにも上品じょうひんとはいえないが、学生の娯楽ごらくとしてはとても人気があるのだ。


今日はいつもよりギャラリーが多い。


それもそのはず、なぜなら特別招待試合インヴィテーションマッチが行われるからだ。


アナウンサーが興奮気味に解説を始めた。


「ヘーイ!! ガールズ・アンド・ボーーーーーイズ!! 今日は”インヴィテーション・マッチ”だぜ~~~!!」


観客席がれんばかりの歓声かんせいに包まれた。


アナウンサーの隣の眼鏡をかけた解説役は冷静だ。


「えー、みなさんご存知かと思います。今日は学院の教授が推薦すいせんした生徒同士が対決する親善試合しんぜんじあいです。親善試合しんぜんじあいとは言っても、教授きょうじゅのメンツがかかってきますので、代理戦争だいりせんそうと言っても過言かごんではありません」


過去の特別招待試合インヴィテーションマッチはどれもハイレベルなものだった。


約束された名勝負めいしょうぶにギャラリーは心躍こころおどらずにはいられなかった。


「じゃあ~!! まずは教授を紹介するぜ!! 愛のマシンガン鉄血制裁てっけつせいさい、バレン先生だぁーーー!!」


色黒いろぐろアフロは右手を天高てんたかき上げた。


ムキムキの肉体がはじけんばかりである。


もし、彼にこぶしを振るわれたらはじけてしまうだろう。


思えて学生たちは戦慄せんりつした。


分厚ぶあつくちびるのわきはニヤリと上をむいていた。


「対するは‥‥ホントに大丈夫かアぁ⁉ 万年虚弱体質まんねんきょじゃくたいしつのモヤシ先生!! スヴェイン先生だーーーー!! 」


会場はブーイングのあらしだ。


どう考えてもバレンとスヴェインでは招待しょうたいできる生徒の質が違う。


通信、探索、索敵さくてきがメインのスヴェインには、対戦試合を任せられるようなうでぷしの強い生徒がいないのだ。


「お~っと待て待てみなしゅう、今回スヴェイン先生は苦労してかなりのこうカードを引いたようだぞ!! ではスヴェイン先生側の選手の紹介からだ!! 小さくても百人力ひゃくにんりき、テンプル守護しゅごは私におまかせ!! アンナベリィィィーーー・リィィィーーゼーース!!」


桃色ももいろあざやかな長髪ちょうはつをなびかせ、えんじ色の制服を着た女性があらわれた。


連れてこられたのは、トーベの鉱山事故こうざんじこでエンシェント・ドラゴンを撃破げきはしたアンナベリーだった。


研究生エルダーからの参戦さんせん大歓声だいかんせいが上がる。


「まさかの研究生エルダーの2年生です!! スヴェイン先生、意地いじを見せてきました!! 神殿守護騎士テンプルナイトはおカタいはずですが、どうやってスカウトしてきたのでしょうか?」


待合室まちあいしつではアンナベリーとスヴェインがなにやら話していた。


非常に小柄こがらな女性はまゆをハの字にして困惑こんわくしていた。


「先生、私、コロシアムでたたかったこととかないッスよ? 一応、神官見習しんかんみならいの身なんッスが、本当にいいんッスかね?」


スヴェインは両手りょうてを合わせて頼み込んだ。


合わせた手をスリスリしながら頭を深くれる。


端正たんせい顔立かおだちはシワだらけで焦燥感しょうそうかんが隠せない。


美しい藍色あいいろ長髪ちょうはつはボサボサだ。なりふりかまわぬと言った様子である。


「頼む。教会の方々かたがたは私から説得しといたから。手荒てあらにやっても大丈夫!! 君は私の救世主きゅうせいしゅなんだ!! 今度こそ汚名返上おめいへんじょうできるチャンスなんだよ!! これも何かのえんと思ってさ。このとおりだ!!」


神殿守護騎士テンプルナイトは横目で招待席しょうたいせきを見た。


「だからって、わざわざ教会のエラい人呼ぶ意味あったんッスか?」


取りみだしたの教授はもうわけ無さそうに視線を逸らした。


「それは、その……、試合に出していいかって聞いたら、ぜひ日々の研鑽けんさんの成果を見てみたいって言われれてしまってね……」


大剣だいけん背負せおった女性は深い溜息ためいきをついた。


そして、彼女はワシャワシャと後頭部こうとうぶをかいた。


クセのように穴開あなあききグローブをはめなおす。


すると、すぐに顔ををきりりと引きめた。


「さて、コロシアムでの実績じっせきは無いものの、エースであることは間違いないアンナベリー選手。これに対してバレン先生がぶつけてくるのは~~~~?」


闘技場コロシアムしずまりかえった。


アナウンサーは大声をあげてエントリーを発表した。


「ウィザードのそこないとは言わせない!! 今日もコロシアムの修羅しゅらを往ゆく!! 狂犬きょうけんのザティーーーーーース・アルヴァーーーーールだぁ~~~!!」


会場は歓声とブーイング、ぷたつにれた。


解説者は両者りょうしゃを見ながら解説した。


「えーっと、意外ですね。バレン先生は武闘派ぶとうはなので、多くの候補こうほるはずです。それなのに、この間のちゃぶ台返だいがしでしずめたザティス選手を選んできました。なお、初等科エレメンタリィ研究生エルダーがぶつかるのは珍しい取り組みです」


オッズの予想が監督教授かんとくきょうじゅたちによって話し合われている。


決定は難航なんこうしているようだった。


「ただいま、予測よそくを立てております!! 結果が出る前に先生と出場選手にインタビューしてみましょう」


コロシアムの中央に両者りょうしょが歩み寄って対峙たいじした。


「ではまず予想外の選手を選択したバレン先生にその選出理由せんしゅつりゆうを聞いてみましょう」


バレンがマギ・マイクを持って説明し始めた。


「この間のちゃぶ台返だいがえしの様子を見た奴はなぜ俺がコイツを選んだかわかるだろう。なんていうかこう、あぶらが乗ってんだよ。自分よりデカイ化け物に食いついていくようなハングリー精神せいしんがコイツにはある。


マッチョアフロの教授はザティスのかたをバンバンとたたいた。


本当にいたかったのか、ザティスの顔はゆがんだ。


「こっちも成績の良いエルダーで対抗することはできるが、そりゃじゃ面白くねぇだろ。俺とコイツにけてみねぇか。勝っても負けても、おもしれぇと思うぜ?」


バレンのインタビューが終わるとその場は再び熱気に包まれた。


「おい、バレン先生があんだけいうってどんなやつなんだよ」


「前のちゃぶ台返だいがえしてバレン先生に一発アッパーくれたらしいぜ」


会場全体がさわがしくなってああだこうだと生徒たちが話し始めた。


悪名高あくみょうだかいザティスは非常にトリッキーな戦い方をする。


そのため、ジャイアント・キリングを決める可能性も大いにある。


普段の闘技場でもそんな感じで勝っているわけであるし。


けにどっぷりハマっている学生たちはザティスに期待を寄せていた。


今度はマギ・マイクがスヴェインにわたった。


「えー、では対するスヴェイン先生に話をうかがってみましょう」


彼は咳払せきばらいをしてインタビューに答えた。


「え~、今回、彼女を選んだのはトーベの鉱山こうざんでの活躍をみとめてのものだ。驚くことかれ、彼女はエンシェント・ドラゴンをほふった実力の持ち主だ!!」


怒号どごうにも似た歓声がコロシアムに響き渡る。


「ちょ、ちょっと。私一人の力じゃないッスし……むぐっ!!」


口をはさむアンナベリーの口をふさいで制止せいしし、スヴェインは続けた。


「ごほん、と、ともかく、彼女が神殿守護騎士テンプルナイトとして一流の腕前うでまえを持っているのはまぎれもない事実だ!! 小さいからと言ってみくびっていると痛い目を見ることになるぞ!!」


彼は千載一遇せんざいちぐうの機会に恵まれたが、肝心かんじんな時に冷静さを欠いていた。


(あ~、可哀想に……毎回負けてるとこんな執念深しゅうねんぶかくなってしまうんッスね……)


アンナベリーは彼に同情し、仕方なく選手をやりきろうと決めた。


「では~、アンナベリー選手、意気込いきごみは?」


一応は大人の女性であるアンナベリーは胸を張って答えた。


だが、あまりにも凹凸おうとつのない体格だった。


「たとえ相手が初等科エレメンタリィであろうと、手加減てかげんはしないッス。どんな相手でも真剣真しんけんまこう勝負するのが筋ッスからね!!」


彼女はクセかのように、指出ゆびだしグローブをギュウギュウとはめながらそう宣言した。


巨大な大剣だいけん片手かたてで持ち上げて腕をぐるぐると回す。


ギャラリーからは指笛ゆびぶけと黄色い歓声かんせいが響いた。


何気なにげにアンナベリーは女子にも人気があるらしい。


「では最後にザティス選手、コメントをどうぞ」


彼はダークブラウンの髪をおってると、堂々とした態度たいどで語りだした。


にたりと笑うとそのりの深い顔が際立きわだった。


初等科エレメンタリィとは思えないほどの貫禄かんろくちていた。


「正直、俺より強ェ選手はごまんといる。だけどバレン先生が俺を選んだのは、俺の戦い方が“面白ぇ”からだ。そういうわけで今回も面白おもしろおかしくやらせてもらうぜ」


ザティスはボキボキとこぶしを鳴らしながらそう言った。


アナウンサー席の解説役の生徒がマイクに向けて喋る。


「さて、ザティス選手、ハッキリ言って勝ち目がうすい。果たしてミラクルを起こすことができるでしょうか? 注目の一戦、まもなく始まります。おっと、ここでオッズが出たようです。今回の試合のオッズは――」


観客席が静まり、けの倍率ばいりつに耳をそばだてた。


「出ました!! 今回のオッズはアンナベリー選手2.2、ザティス選手11.6です!! それではベッティングです。参加する方は学生証から入力してくださいい」


一斉いっせいに学生たちが学生証の裏をいじって入力し始める。


ザティスはこのオッズ聞いてにんまりと笑った。


上等上等じょうとうじょうとうォ!! こういうをひっくり返すのはおもしれぇよなぁ!!」


そう言いながら気分を戦闘せんとうモードへと切りえていく。


「――はい。受付終了です。それでは早速試合を開始していきましょう。両者見合ってー」


教授たちは戦場の外のベンチに入った。


そしてザティスとアンナベリーは互いに《にら》にらみ合った。


「レディ……ファイッ!!」


け声とともにゴングがけたたましくひびき、戦いは始まった。

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