トリッキー・スペル

ゴングと同時にアンナベリーが素早く抜刀ばっとうした。


大剣だいけんあつかっているとは思えない軽快けいかいな動きだ。


それと対してザティスは呪文じゅもん省略ショートカットして詠唱えいしょうした。


通常より出が早い。この小さな差が時に勝利を決する。


「リフレッカジリティ・ツーテンドッ!!」


相手が大剣を振りかぶって切りかかってきた。一気に距離をつめられる。


ザティスには魔法のおかげで、この斬撃ざんげきがややゆっくりに見えた。


ななめ切りをよこステップでかわす。 



「おおおおおおおっと!! ザティス選手、無駄のない回避かいひだ!! すかさず大剣の横薙よこなぎ攻撃ーーーーッ!!」


狂犬きょうけんは激しい大剣の連撃を無駄のない動きでひらりひらりとかわしていく。


「へっ、バレン先生に比べりゃこの程度の速さ、でもねぇぜ!!」


彼は回避に専念せんねんして相手の出方でかたをうかがった。


「ザティス選手、けるけるーーーーー!!」


だが、まだ相手にダメージを与えていない。


冷静に解説役は状況を読んだ。


「防戦一方ですね。頑丈がんじょうなアンナベリー選手に有効打ゆうこうだを与えることができるか、まだわかりません」


アンナベリーは大剣を空振からぶった。


その直後、姿勢をくずしてすきが生まれる。


ザティスはそれを見逃さず攻撃をかけようとしたが、カウンターが飛んできた。


「しまった!! フェイントか!!」


彼女は地面にさきを叩きつけて振りぬいた。


「もらったっ!! ランドスマッシャーっす!!」


地面から土煙つちけむりがあがり、とがった岩が物凄ものすごいスピードで隆起りゅうきしていく。


さらに割れた地面から飛び出した無数むすうの岩のつぶてが高速でザティスを襲う。


さすがにこれを全回避ぜんかいひするのは無理があった。


「ソイル・アブソー・レジスステン!! トリプルレイズ!!」


呪文じゅもんとなえながら飛び交う石の嵐の中に、ザティスは消えた。


「あーーーーーっと!! これは強力な打撃&土属性つちぞくせいの攻撃!! 大ダメージ必至ひっしだーーー!!」


土煙つちけむりでよく見えませんね。ザティス選手、無傷むきずとはいかないでしょう」


アンナベリーはすぐに高めの位置に剣を構え直し、追撃ついげきの構えでけむりが引くのを待った。


「げほっ、ゴホッ……レイピッド……オウンヒール・セカンドッ!! リリーブ・ペイン!!」


少しして狂犬きょうけんの姿が浮かび上がってきた。


その口からは血がしたたっていた。


「ザティス選手、直撃を受けたもののえたーーーーーーーー!!」


「だいぶダメージを負っているようです。特に内臓ないぞうをやられているようです」


アンナベリーは容赦ようしゃせず、追撃をかけた。


突き攻撃から再び流れるような連撃に入った。


まるであざやかにおどるよう、重い大剣を振り回しまくる。


呪文じゅもん痛覚つうかくをごまかしながら、青年はギリギリでこれをかわし続けた。


「てめぇ……わざと軽めに振ってやがんな!」


ザティスは間一髪かんいっぱつでの回避を続けながら、相手が全力を出していない事に気づいた。


「い~や? 別に手を抜いているわけじゃないッスよ?スタミナには自信があるので、君が先にバテるのを待ってるッスよ。これも作戦のうちってやつッスね」


やがて即効性そっこうせいのあるオウン・ヒールが効いてきてザティスにキレが戻ってきた。


再び大剣の攻撃を回避し始める。


「やっぱ手抜きじゃねぇか。ナメやがって。最初から本気でやらなかった事、後悔させてやるぜ!!」


青年は軽くいきどおりつつ、後ろに飛び退いてすかさず呪文じゅもんとなえた。


「リフレクター・ライトシェ!!」


彼のてのひらからはなたれた光のかけらが空中で反射はんしゃしてアンナベリーを攻撃した。


「おっと、近距離きんきょりみ型の貫通性光弾かんつうせいこうだん、リフレクター・ライトシェだーーーー!!」


解説は魔法の種類と効果を見切った。


「これは自分を中心に光弾を発生させる奇襲攻撃ききゅうこうげきです。ただし、自分を中心に展開てんかいするので自分自身じぶんじしん光弾こうだんはじくか、けるかしないとダメージを受けてしまいます!!」


ザティスはれた様子で、背後から飛んできた光弾こうだんをかわした。


見えていないはずだが、バターンで身体にきざまれている。


一方のアンナベリーも大剣を盾のように駆使くしして、迫り来る光弾こうだんはじいてかき消した。


「さすが研究生エルダーの剣士!! 魔法強化マギエンチャントもかけずに光弾を防いでいるーーーーッ!! ザティス選手、これがノーダメージとは想定外そうていがいかもしれません!!」


ザティスは光弾こうだんをよけながら指と腕でいんを組み始めた。同時に呪文じゅもんとなえる。


幾千いくせん揺蕩たゆた水龍すいりゅう眷属けんぞくよ、我が声を聞け、そしてなんじのあるべき姿を取り戻せ。荒れくるたけ濁流だくりゅう螺旋らせんを!!」


大剣使いは水属性みずぞくせい攻撃呪文こうげきじゅもんが来るとんで、素早すばやく武器でガードした。


「これは何でしょう? いんをかけて呪文じゅもん強化エンチャントしているようにも思えますが……」


狂犬きょうけん詠唱えいしょうを終えると更にいんを組み続けた。


「かかったな!! 詠唱えいしょうの方はおとりだ。ねらいはこっちだぜ!! 呪印カーズド・マーク!! ウエポン・バインドッ!!」


ザティスはいんの仕上げに両手をパンッっと合わせ、グッっと指を組んでにぎった。


すると、アンナベリーの大剣が彼女の体にピタッと張り付いた。


「おおおお!! 片方かたほうはダミーで、マークの方が本命ほんめいだったーーーー!!」


呪印じゅいん特性とくせいに話が及ぶ。


「ウエポン・バインド。対象の持つ武器を相手の体にり付けてしまうというのろい系の魔法ですね。ザティス選手、多彩たさいです。魅せてくれますね!!」


アンナベリーは力づくで大剣をがそうとしたが、むねから胴体どうたいにかけてガッチリくっついている。


くというよりは完全に接着せっちゃくされていた。


両腕りょううでも大剣ごと押さえつけられていて、身動みうごきがとれない。


「どうしたどうした!! 神殿守護騎士テンプルナイトさんよ? 解呪かいじゅはお手のもんじゃないのか? まぁこれだけぐちゃぐちゃな術式じゅつしきで組んだらそう簡単には外れねーぜ。かけた俺にも解呪不可能かいじゅはかのうだ」


ザティスがそう挑発ちょうはつし、相手のペースをみだす。


テンプルナイトは解呪かいじゅを試みて集中コンセントレートしようとした。


しかし、狂犬きょうけんはすかさずそれを妨害ぼうがいした。


時間差発動ディレイレイズ!! ウォルタ・クイク・サンド・ウォルタ!!」


水色みずいろ渦巻うずま模様もようじんがザティスの足元に出現した。


おとりにした水属性みずぞくせい詠唱えいしょう時間差じかんさで発動させたのである。


アンナベリーは蟻地獄ありじごくのようにそれに引きまれ、彼との距離が一気に縮まっていく。


「時間差発動魔法です。この呪文は相手を引き込む能力があります。ザティス選手、自分を中心とした呪文が得意ですね~。というかそれしか使えなのですが……」


そうこうしているうちにどんどん渦巻うずまきの中心にアンナベリーは引きこまれていく。


「レディに暴力ぼうりょくをふるうのは気が引けるが、まぁこれはおたがさまだなッ!!」


ザティスはグッと拳を握ると女性の顔面がんめんを思いっきりぶんなぐった。


レディに対する容赦ようしゃないパンチに会場からはブーイングが上がった。


「うるせぇなあ。こんな鉄壁女てっぺきおんなにゃこんな攻撃、いたくもかゆくもねーだろが」


青年はパンチを起点きてんに立て続けに攻撃をはなった。


そしてしゃがみこむと彼女の脚部きゃくぶ足払あしばらいをかけた。


体格差たいかくさもあって、りはうまい具合ぐあいに直撃した。


アンナベリーはバランスをかずし、背中から地面に転がった。


うまくをとってね上がり、距離を少しける。


彼女の動きはいちじるしく鈍化どんかした。


全身に重いかせをかけられているようなものだから仕方がない。


しかし、張り付いた大剣がシールドになっており、正面からはダメージが通らない。


「アッド・ルール、ヴォルトレイッ!!」


ザティスはそうとなえながら、足で地面のじんこすって何やら書き足した。


するとザティスを中心として更に強い渦が発生した。


「あーーーっと!! 追加変化詠唱アドスペリングで呪文の向きを変えてきました!! アンナベリー選手、流れから抜け出すことが出来ずに回る回る~~~~!! まるでメリーゴーランドだー!! これでは解呪かいじゅどころではなな〜〜い!!」


形勢けいせいがザティスにかたむいてきた様を見て観客席はきにいた。


戦場ではアンナベリーが回転するじんの上でおどらされている。


ザティスは不敵ふてきに笑った。


「目は回るし、これなら背中を見せざるをえないだろ。まだまだだぜ!! クリムゾン・リーブズ・ダーツ・レイピッドファイア!!」


狂犬きょうけんが相手に指先ゆびさきかまえると、無数むすうとがったが高速でち出された。


小さい葉ではあるが、かなりの連射速度でアンナベリーの背中にザクザクささっていく。


休みなく攻撃をびせたものの、あまり手応てごたえがない。


すかさずアンナベリーはジャンプして大剣を地面に向けて叩きつけるように飛び込んだ。


向きは完全に狂犬きょうけんをとらえていた。


「クラッシュ・スタンプッス!!」


そして彼女は大剣を下に向けて地面を打ち付けた。


あまりのパワーに戦場ははぐらぐらとれた。


強烈な一撃を地面にらわせて浮き上がるとアンナベリーは更に奇襲きしゅうをかけた。


だが、ザティスはすばやくじん収束しゅうそくさせ、攻撃をまたあざやかにけた。


神殿守護騎士テンプルナイトはそのまま地面をこすりながら、コロシアムのかべ激突げきとつして土煙つちけむりを上げた。


「おっと、アンナベリー選手、一方的な攻撃から力技ちからわざだっした~~~!! かなりのダーツがヒットしたようだが、ダメージを感じさせない動き!!」


距離が空いて魔法が届かなかったので、ザティスは追撃ついげきを加える事ができなかった。


「これでも神殿守護騎士テンプルナイトはしくれ。めてもらっては困るッスね……」


立ち上がったアンナベリーの胸からは大剣ががれていた。


彼女は大剣を片手に素振すぶりをしながら立ち上がった。


ザティスはその様子を見て口笛くちぶえいて茶化ちゃかした。


「さっきのっぱ、いたかったけどあの程度ていどでは私をしずめることは出来ないッス」


アンナベリーは大剣を構えて突っ込んできた。明らかにさきほどより速い。


ザティスはぐっと腰を落とし、足を踏み込んで応戦おうせんかまえをとった。。


「おおお!? ザティス選手、このままではするい突きの一撃を食らってしまうぞ!! 何かさくがあるのかーーーーッ!?」


騎士ナイトいきおいを妨害する要素ようそはなにもなかった。


この突進とっしんの速度ではもはや回避出来そうにない。


するとザティスは陸上競技りくじょうきょうぎのクラウチング・スタートの姿勢しせいをとった。


「ストレバースト!! アドフレ!! ツインレイズ!!」


大剣のさきがしゃがんだザティスを確実にとららえた。


次の瞬間、ザティスは走りだし、腕をX《エックス》文字に交差こうささせた。


敵の真正面ましょうめんから当たっていくかまえである。


そして全身から発火はっかすると、爆発的ばくはつてき加速かそくし彼は突進をかけた。


らえ!! 灼熱しゃくねつ駆炎くえん!! プロミネンシィ・ドライブレイドッ!!」


ザティスは轟音ごうおんを上げながら突っ込んでいく。


両者とも退かず、いきおいがおとろえる様子ようすもない。


「まさかのカウンターだーーーーーっ!! 大剣を避ける気が全くない!! アンナベリー選手も防御姿勢ぼうぎょしせいを取らない!! これはおたが仕留しとめめる気でいるーーーー!!」


アナウンサーも解説もヒートアップして声をらげた。


「この魔術まじゅつは一直線にしか進めないという欠点を持っていますが、ここまで相手のぬところに入ってしまえばほぼ必中!! いくらタフなアンナベリー選手でもどうなるかわかりません!! しかし、大剣も確実にザティス選手をとららえている!!」


このままでは自分の加速と相手の突進のエネルギーで2人共、大怪我おおけがけられない。


だが、ザティスは引き分けに持ち込むのは死ぬほど気に食わなかった。


完全勝利かんぜんしょうり以外はありえない。


ザティスは大きく息を吸って次の呪文じゅもんとなえた。

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