第36話 森のバランス
リオトの国づくりは順調に進んでいた。
立派な中枢部はすでに完成しており、国としての基盤も整っている。
本来ならば、一から育てなければならない人材も、召喚された専門家たちは優秀で、リオトの期待以上に国の成長を支えていた。いずれは、木の小屋から召喚された民たちからも公募し、専門施設で人材を育成する予定だ。
それにしても、国の規模がここまで広がるとは、リオト自身も予想していなかった。
特に、最初は漠然としていた国家運営も、次第に方向性が明確になりつつあった。召喚された人材やユニットたちがそれぞれの持ち場で能力を発揮し、国の土台を築いていたのだ。
リオトは、こうした専門家たちの活躍に感謝しつつも、さらなる発展のためには計画を精査し続ける必要があることを痛感していた。
資材については、現時点ではクエストをクリアすることで補充が可能だったため、すぐに石材が尽きる心配はない。しかし、これまで続けてきた建設ラッシュの影響で、資材の消耗は進んでいた。リオトは、その将来的な資材不足に対して、内心で不安を抱いていた。
「資材はまだ十分だが、消費が続いている……これが続けば、さすがに心配だな」
リオトは、これまでのクエストで補充される資材に頼りつつも、ガレオンとの取引に頼りすぎることへの懸念を抱いていた。ガレオンとの取引で森の大木が高値で売れるため、石材や鉄鉱石を仕入れることは比較的容易だ。
それでも、今後の文明の発展やさらなる建物の追加建設を進めるためには、より安定した資材の確保が必要だ。
「石材の確保は、これからの拡大計画を考えると急務だな。防壁を広げていくには、かなりの量の木材と石材が必要になるし、今の資材ペースでは厳しいかもしれないな……」
リオトはこの点を見据えながら、ガレオンとの取引に依存しすぎることの危険性を考えた。もちろん、ガレオンと取引を続けることで資材調達は安定する。しかし、それでは国に十分な資金が残らない。
「ガレオンとの取引に頼ってるのも悪くないけど、いつまでもそれに頼り続けるわけにはいかないな。ずっとそうしていると金がたまらない。国の経済基盤を強化するためにも、自前での資材確保を考えないとな……」
そんな時、ベルノスが偵察から戻ってきた。彼は静かに、しかし確信を持って報告を始めた。
「リオト様、以前に見つけた川の上流に、大きな洞窟を発見しました。表面にも鉱石が露出している場所がいくつかあり、石材だけでなく鉄鉱石も豊富にある可能性があります。埋蔵量が多ければ、数十年にわたる採掘も可能でしょう」
リオトはその報告に耳を傾け、興味を持った。しかし同時に、洞窟の潜在的な危険性も無視できなかった。
「それはありがたいけど......洞窟には入っていないのか?」
ベルノスは頷きながら慎重に答えた
「はい、偵察はしましたが、明かりも少なく、少人数では危険すぎると判断しました。それに、洞窟周辺で奇妙な足跡や痕跡を確認しました。未知の生物が潜んでいる気配が強く、深追いは避けました」
リオトはその言葉に少し眉をひそめた。確かに洞窟は重要だが、危険を伴うことも避けられない。ベルノスの報告を受け、リオトは深淵の観察者に指示し、視界の共有を使って森全体を広範囲に探索した。
すると、周辺の森が日を追うごとに騒がしくなっていることに気づいた。これまで見たことのない魔物や獣が国の近くまで現れており、作り上げた地図で印をつけていくと、行動範囲が明らかに広がっていた。
「(これは……)」
リオトはすぐに原因を考えた。白狼公ガルディウスを討伐したことで、森の頂点に立つ存在が消えた。その結果、森のバランスが崩れ、他の強力な魔獣たちが縄張りを広げたのではないかと。これが、国周辺に新たな危険をもたらしていたのだ。
「このままじゃ、砦の周辺も危険だ。警戒を強化しないと……」
リオトは第2層の監視体制を強化することを決断した。探索を進める余裕はなくなってきていた。
**********
その日の会議室には、リオトを中心にベルノス、セリフィアム、ウィリアムが集まっていた。国周辺の現状と危機に対する対策を議論していた。
リオトが資料を見ながら口を開いた。
「森が騒がしくなってる原因だけど、やっぱり白狼公ガルディウスを倒したことが大きかったのかもしれない。彼が森の頂点に立つ存在だったから、その地位が空いたせいで、他の魔物たちが動き始めたんだと思う」
ベルノスは、リオトの推測に同意した。
「リオト様の推測は正しいと思います。森のバランスが崩れ、強力な魔獣たちが縄張りを広げているようです。このままでは、国にも危険が及ぶでしょう」
ウィリアムが一歩前に出て、執事らしい冷静な口調で意見を述べた。
「現状、第2層の監視体制を強化するのは良い手ですが、それだけでは間に合わないかもしれません。やはり、召喚した魔物や動物たちを使い、警戒網を形成するしかないのでは?」
リオトは頷きながら、パネルの手札に使わずに置いておいたユニットカードを確認した。
「そうだな……これまで優秀な人型ユニットを優先してきたけど、今は魔物や動物たちを使うべきだ。カード化したけど置いておいた魔物、動物型のユニットを召喚して、森全体に警戒網を作る。これまで保留にしていたが、今がそのタイミングだ」
すると、セリフィアムが口元に微笑を浮かべながら、静かに話し始めた。
「リオト様、確かに警戒網は必要ですわ。でも、それだけでは不十分ではなくて? もっと積極的な対策が必要かもしれませんわね。たとえば、国の民から志願者を募り、訓練を強化するのも一つの手です」
「確かに、それもありだな。訓練か……民に武具を貸し出して、訓練所で訓練させるのも悪くない」
ウィリアムもそれに同意し、静かに言葉を付け加えた。
「そうですね。それであれば、国全体の防衛力を強化できます。早急に準備を進めるのが賢明かと」
ベルノスは慎重に言葉を選びながら、リオトに向かって続けた。
「民たちが心から協力してくれるのなら、それは素晴らしいことです。ただ、過度に負担をかけすぎないように注意が必要です。皆がリオト様を信頼しているからこそ、この国は成り立っているのですから」
リオトはベルノスの言葉に軽く頷いて答えた。
「うん、そうだな。無理させるのは良くない。まずは警戒網を作って、訓練も段階的に進めていこう。徐々に慣れてもらえばいいさ」
セリフィアムが微笑みながら、軽くリオトを見つめた。
「さすがリオト様、無理のない計画が一番ですわ。これで、国も安心して守られるでしょう」
リオトは全員の顔を見渡しながら、肩の力を少し抜いて言った。
「よし、じゃあこれでいこう。警戒網の形成と訓練を早急に進める。みんな、協力頼むな」
4人はそれぞれ頷き、会議は無事にまとまった。これから国の防衛を強化し、リオトは新たな局面に備えていく。
**********
そして、リオトがこの異世界にやってきてから32日目の朝。
リオトは深淵文明アビスの「邪神の覚醒者」のデッキをすべてドロー仕切ったのだ。
ピコンッ!
――――――――――
《クエスト:デッキを40枚引き切る。を達成しました。》
《クリア報酬:デッキ拡張パックx10を手に入れました。》
《新たな機能が解放されました。》
《『項目:カード』が解放されました。自分だけのデッキを構築してさらなる戦いに備えましょう。》
《『ストア』が解放されました。さまざまなカードパックが購入可能になりました。》
《未開放文明ツリーが解放されました。まだ見ぬ文明の力を解き放つ準備が整いました。》
《マップ機能が解放されました。》
《通話機能が解放されました。》
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