第25話 運命の一枚
「深淵の巫女 セリフィアム・エスカ」。
リオトが手にしたカードは、今までのどのユニットとも異なる、特別な輝きを放っていた。
カードに描かれているのは、長い黒髪の美少女、いや、美女。
その圧倒的な美しさに、リオトは思わず目を奪われた。
画面に映るのはゲームのイラストにすぎない。
もし、実際に召喚されたとき、彼女がどのように現れるのか――リオトには想像もつかない。
「……本当に、引き当てたのか……?」
リオトは興奮で震える手を抑えながら、パネルに映し出されるカードをじっと見つめた。
セリフィアム・エスカ――深淵文明における最上位の「レジェンドユニット」。
ゲームの中で、彼女は強力な支援スキルを持ち、幾度も戦局を覆してきた。
リオトにとっては、まさに「切り札」だった。
しかし、それだけではない。
彼女は、リオトが最も愛用したユニットでもある。
どれだけ新しいカードが追加されても、必ずデッキにはこのカードが組み込まれていた。貴重な三枚までしか組み込めないレジェンドカードの内一枚として。
「これは……いったい……」
リオトは、何とも言えない不思議な感覚に包まれていた。
何度も
何か大切なものを忘れてしまったような、そんな
「何かが……今までと違う……」
だが、今リオトがやるべきことは変わらない。
彼女の力は
「よし……まずは、彼女を召喚しよう」
リオトは決意を固め、召喚のために次の行動に移るのだった。
**********
リオトは「深淵の巫女 セリフィアム・エスカ」を召喚する前に、初期拠点である
集まったのは、ベルノス、深淵の司祭、深淵の騎士、そして深淵の監視者たち。
彼らは皆、知能が高く、レジェンドユニットの召喚を見守るにふさわしい者たちだった。
「朝早く集まってもらって悪い。これからレジェンドユニット『深淵の巫女 セリフィアム・エスカ』を召喚する。彼女が深淵文明にとってどれだけ重要な存在か、みんなで確認したいんだ」
ベルノスが一歩前に出て深く頷いた。
「かしこまりました。クロヴィス様に匹敵する存在であれば、我々にとって非常に重要な存在でしょう。早くそのお姿を拝見したいものです」
リオトは深呼吸しながら、再び口を開いた。
「念のため確認しておきたいんだが……この中でセリフィアム・エスカに会ったことがある者はいるか?」
全員が静かに首を横に振る。
「……じゃあ、名前くらいは知ってる?」
今度も全員が首を振る。沈黙の中で、ベルノスがゆっくりと話し始めた。
「お名前は存じ上げておりませんでしたが、我々の深淵の教会では、『深淵の巫女』という存在は極めて重要とされています。巫女は生まれた時から巫女として育てられ、深淵の神々に仕える役割を担います。巫女とは、神々と人々を繋ぐ聖なる存在。深淵の巫女はただ一人、その存在が深淵の神秘を体現するのです。」
リオトはその話を聞き、予想以上の重責に驚きを覚えた。
「……想像以上にすごい存在なんだな」
ベルノスは頷き、さらに説明を続けた。
「ええ、リオト様もまた特別な存在です。男の
「そうなんだ?」
「はい。私が知る限り、過去にリオト様のような存在は一人しかおりませんでした」
その言葉に、リオトは不思議な違和感を覚えた。
記憶がないはずのベルノスが、まるでその過去を知っているかのような口ぶりだったからだ。
「その人物のことを知っているのか?」
リオトが問いかけると、ベルノスは一瞬戸惑ったように沈黙し、少し苦しそうに答えた。
「……いいえ、思い出せません。しかし、その方は偉大な王でした」
ベルノスの声には、どこか悲しげな響きが含まれていた。それを聞いて、リオトはそれ以上問い詰めることはしなかった。
ベルノス自身が、その偉大な王のことを覚えていないのに、偉大だと感じている――その記憶には何か特別なものがあるのだろう。
「無理に思い出さなくていい。きっと、いつか真実がわかる時が来るさ」
だが、リオトは心の中で、その「いつか」がやってくることを予感していた。いずれ必ず、その時が来る――そんな気がした。
「申し訳ございません。自分でも、はっきりと言葉にできないのですが……私自身、この体に起きている奇跡の説明ができません。ただ、以前の私は知っていたのだと思います」
ベルノスの謝罪に、リオトは穏やかに微笑んだ。
「いや、いいんだ。俺のほうこそ、無理をさせてごめん。それに、きっとこれから召喚する彼女――セリフィアム・エスカなら、何か知っているんじゃないかと思う」
リオトの言葉に、ベルノスをはじめ他の配下たちも静かに頷いた。
疑問が心に残りながらも、リオトは今、その場ではそれ以上深掘りせず、セリフィアム・エスカの召喚に集中することに決めた。
「それじゃあ……彼女を召喚する」
リオトは決意を胸に、パネルに手を滑らせ、「深淵の巫女 セリフィアム・エスカ」を召喚するため「はい」を押した。
**********
リオトがパネルを操作し、全神経を集中させて召喚の決定を下した瞬間、空気が一変した。
まるで世界そのものが深淵の力に包まれたかのように、空間が揺らぎ始めた。
リオト、ベルノス、そして他のユニットたちは、押し寄せるような深淵の熱を感じ、同時に肌を切るような冷たい風が彼らの周囲を吹き抜けた。
足元には黒い霧がゆっくりと広がり、その不気味な気配があたりを支配していく。
大地が微かに震え、空気が急に静寂に包まれたかと思うと、霧の中から柔らかな、だがどこか荘厳な光が差し込んだ。
その光の中から、彼女――セリフィアム・エスカが姿を現す。
リオトは息を呑んだ。期待と不安が心の中でせめぎ合い、目の前に現れる彼女の姿に一瞬、時間が止まったように感じた。
まず目に入ったのは、長く黒々とした髪。影のように深い黒でありながらも、その髪は淡い光を吸収しながら、夜を
彼女の姿は、一瞬ぼんやりと影のように見えたが、次第に確かな形を取り戻し、まるで影から生まれたかのように浮かび上がってきた。長い黒い
そのローブの下からは、ほっそりとした足が覗き、優雅でありながら、どこか神聖な力を感じさせる立ち姿で大地に降り立つ。
冷静さと深い知恵が感じられるその瞳には、まるで全てを見通すかのような威厳が宿っている。
その一方で、彼女の表情には優しさと安らぎが共存し、包み込むような雰囲気を醸し出していた。
セリフィアム・エスカは静かに両手を胸の前で重ね、まるで世界そのものを抱くかのように穏やかに立ち尽くしている。
その姿は、威厳と慈愛、そして深淵の神秘を象徴する存在そのものだった。
彼女はゆっくりと一歩前に進み、周囲を見渡す。
その動作には慌てる様子など微塵もなく、まるですべてを既に把握しているかのような落ち着きがあった。
肩から滑り落ちるような長い黒髪が、風に優雅に舞いながら広がり、静かにその場の空気を支配していく。
彼女は一度目を閉じ、右手をゆっくりと持ち上げた。
その手の先から淡い光が瞬き、その光が周囲に広がると、同時に柔らかな闇のオーラが漂い始める。
まるで空間そのものが彼女を中心に集まり、深淵の力が解き放たれていくかのようだった。
いや、祝福しているのだろうか。
彼女が指先をわずかに動かすと、周囲の影がゆらめき、微かに形を変えながら流れ始める。
まるで、影そのものが彼女に従っているかのようだ。
セリフィアムはその間ずっと冷静な表情を崩さず、どこか余裕を持った態度で立ち続けていた。
彼女のしぐさは一見無表情に見えるが、その瞳の奥には柔らかな光が灯っており、リオトに対しては特別な信頼と親しみが感じられた。
やがて、彼女はゆっくりとリオトに歩み寄り、その
「リオト様、貴方の声が私をここへ導きました……深淵の神々もまた、その導きを支えてくださったのです。今、この闇と共に、私はあなたの傍に立ち支えましょう」
そして、彼女はほんの少し笑みを浮かべた後、さらに続けた。
「我らが愛しき王よ。共に、全てを乗り越えましょう」
その言葉に、リオトもベルノスたちも、一瞬息を止め、目の前の光景に言葉を失ってただ立ち尽くしていた。
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異世界カードストラテジー ー深淵より立つ 国創記ー 小鳥遊ちよび @Sakiri
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