第20話 希望の旗揚げ


リオトは、完成した国旗を静かに見つめ、深く息を吐いた。

旗はできた。次は―――


ピコンッ!


《国の名前を決めてください》


「っあ!?そうだった!」


リオトは目を見開いた。

そうだ、ゲームの世界とは違い、ここでは「プレイヤー名」ではない。


国名を自分で決めなくてはならないことをすっかり忘れていた。


「……さて、国の名前、どうしようか?」


リオトの問いに、ベルノスが微笑んでくすくすと笑う。


「リオト様、またお悩みですね」


リオトは頷いたが、その表情からはまだ考えがまとまっていない様子だった。ベルノスはその様子を見て慎重に言葉を選びながら提案を続けた。


「私からひとつ、ご提案を……」


リオトは興味深そうに顔を上げ、ベルノスを見つめた。


ベルノスは微笑み、地面に描いた国旗のデザインを指し示した。


「この旗は、光と闇、そして血のつながりを超えた絆を象徴してるとお話し致しましたね。リオト様が築かれる国は、単なる安全な場所ではなく、闇の中でも新しい未来を切り拓く希望の灯りとなるべき国です。ですので、私は『アークノクティア』という名前を提案したいと思います」


「アークノクティア……?」


リオトはその名前を反復する。

ベルノスは頷くと説明を続けた。


「「『アーク』は、守るべき者たちが寄り添う箱舟はこぶね象徴しょうちょうし、『ノクティア』は夜や闇、その中に光を見出す力を意味しています」


リオトはその説明を聞きながら、次第にその名前がしっくりくる感覚を覚えた。最初はただの名前だと思っていたが、背後にある意味を理解すると、心に深く響いた。


「……暗闇の中、光を目指して進む船......いいな、それ。『アークノクティア』――俺たちの国の名前だ!」


リオトは旗の下でその名前を何度も心の中で繰り返しながら、決意を固めた。旗に込められた意味と共に、少しだけ、自分が作ろうとする国の未来が描けた気がした。


**********


国旗と国名が決まった直後、突然大きな音が響いた。


音の出所は、彼が初期拠点として選んでいた場所だ。


「よし、みんな、見に行こう」


リオトは短く指示を出し、ベルノスを含めた仲間たちと共に音の方向へと向かった。


胸が高鳴る。


ゲームと同じなら、既に建物が完成しているはずだが、現実ではどんな姿になっているのだろうか。


その期待感が、リオトの心を躍らせた。



**********



現場に到着すると、彼らの目に飛び込んできたのは、予想以上に大きさの建物だった。


「すごい……」


リオトは驚きの声を漏らした。


初期拠点でありながら、その堂々とした姿は、これからの国づくりの中心となることを象徴していた。


丸太を組み合わせて作られた倉庫のようだが、屋根の上には物見やぐらがそびえ、そのちょうには、彼らが共に決めた国旗――絆を象徴する旗が高々とひるがえっている。


リオトとベルノスは旗を見上げ、互いに顔を見合わせた。


胸の奥にむずがゆさとともに、熱い何かがこみ上げてくる。


二人の目には、希望と誇りが宿っていた。


リオトは建物の前に立ち、扉を押し開けた。


天井は高く、広々とした空間、二階建てのように見えるが、実際には二階は存在せず、屋根を支える柱がむき出しになっている。通気の為か、わざと開けられた穴がいくつかある。


その広々とした空間の中には、既に焚火が焚かれ、立派な木製の長机と長椅子が整然と置かれていた。かたわらには、寝床として敷かれたわらもある。


おそらく20人ぐらいで過ごせるような空間だ。

これならば、今いる仲間たちと共にここで暮らせるだろう。


建物の奥には、物見やぐらへと続く階段があり、リオトは思わず口元を緩める。


リオトは内装を見回し、ふと微笑んだ。


「これが……俺たちの国づくりの第一歩だな」


その言葉に、ベルノスは深く感動した表情で頷いた。



**********



ピコンッ!


――――――――――


《ミッション3: 次なる試練へ進め。未踏の領域に深淵の拠点を設置し、文明を拡張せよ。をクリアしました。》

《クリア報酬:+1000XPを獲得しました。》

《クリア報酬:木材x13が領地に与えられました。》

《クリア報酬:石材x7が領地に与えれました。》

《クリア報酬:建築可能な建築物が解放されます。》

《簡易食糧庫が建てられるようになりました。》

《小型倉庫が建てられるようになりました。》


《新たなミッション!》

《ミッション4:簡易倉庫と小型倉庫をそれぞれ一軒ずつ立てよ》


――――――――――


「リオト様!」


ベルノスが指差す方向を見ると、整然と積み上げられた木材と石材が、まるで魔法のように地面に現れていた。


リオトはその光景に苦笑する。


「なるほど、倉庫がないから外に放り出されたってわけか。ゲームっぽいな」


だが、心の奥では、誰がこんな芸当をしているのかと疑問がき起こっていた。


この世界をゲームに仕立て上げている存在……それは神か、それに等しい存在しか考えられない。


ふと空を見上げ、リオトは軽く息を吐いた。



―――今は深く考える必要はない。



まずは、安全な拠点を作ることだ。


リオトは手早くパネルを操作し、倉庫の建設を指示する。幸い、資材はクリア報酬のおかげで十分に揃っていた。


瞬時に、目の前に倉庫が現れる。


リオトは、目の前に現れた建物を眺めながら、これが現実なのかゲームなのか分からない不思議な感覚に包まれていた。


それはまさに魔法であり、奇跡だった。


リオトは思わず感嘆を漏らした。


簡素な木造小屋が、低い石の基礎の上にしっかりと建てられている。

木の板で覆われ、屋根はわらや干し草で仕上げられているのが簡易食糧庫だ。見た目は素朴だが、実用的な設計であり、小さな集落の生命線となる場所だ。


対して、小型倉庫はその頑丈さが際立つ。

石材を基礎に使い、木材でしっかりと組まれた堅固けんごな構造。厚みのある木の扉がその入り口を守り、屋根は耐久性に優れた板で覆われている。


見た目からも長く使える堅牢けんろうさが感じられる。


ピコンッ!


――――――――――


《ミッション4:簡易倉庫と小型倉庫をそれぞれ一軒ずつ立てよ。をクリアしました。》

《クリア報酬木材x1000が領地に与えられました。》

《クリア報酬:石材x1000が領地に与えられました。》

《クリア報酬:鉄鉱石x500が領地に与えられました。》

《クリア報酬:干し肉x200が領地に与えられました。》

《クリア報酬:建築可能な建造物が解放されます。》

《伐採場が建てられるようになりました。》

《採石場が建てられるようになりました。》

《採掘場が建てられるようになりました。》

《牧畜小屋が建てられるようになりました。》

《畑が建てられるようになりました。》

《井戸が建てられるようになりました。》

《水路が建てられるようになりました。》

《砂利道が建てられるようになりました。》

《木の小屋が建てられるようになりました。》

《調合所が建てられるようになりました。》

《木造武器製造施設が建てられるようになりました。》

《武器保管庫が建てられるようになりました。》

《兵舎が建てられるようになりました。》

《訓練場が建てられるようになりました。》

《狩猟小屋が建てられるようになりました。》

《解体小屋が建てられるようになりました。》

《簡易見張り台が建てられるようになりました。》

《木製簡易柵が建てられるようになりました。》

《木製の城壁が建てられるようになりました。》


新たなミッション!


《おめでとうございます!あなたは立派な一城の主となりました!第二章:国を造ろう! ミッション5: 領地の人口を100人にせよ!》


――――――――――


リオトはパネルを閉じ、深く息を吐き出した。


夕陽が地平線に沈みかけ、辺りはだいだい色の光に包まれていた。


彼の顔には静かな決意が宿っている。


「よし、大方の建築物が解放されたな」


リオトの冷静な声に、彼自身もその事実をかみしめていた。


「ここからが、本番だな,,,,,,,」


リオトは両手を上に伸ばして背伸びをする。


彼の頭の中で、次のステップへの準備が着実に進んでいた。



**********



ベルノスは、目の前に立派な建物を召喚するリオトを見て感動していた。


まさに神の御使い、いや、神に愛されし子、「神子みこ」と呼ぶべき存在だと確信していた。


この速度であれば、あっという間に国という形が出来上がってしまうだろう。


まるで神がリオトに、この世界で本当に文明を起こせと言っているかのようだ、とベルノスは考える。



だとしたら―――この世界には文明がないのだろうか?


だからこそ、リオトにこの世界で文明を進歩させ、新たな生命の進化を神は望んでいるのかもしれない。


だが、同時にベルノスは別の可能性も思い浮かべた。


もし、この世界に文明が存在しているにもかかわらず、リオトが文明を築かなければならないのだとしたら―――。


それは、文明が停滞しているのか、それとも大きな破壊と再生を望んでいるのか、それともこの世界に大いなる脅威が迫っているのか。


いずれにせよ、自分はどこまでもリオト様についていくだけだ。


ベルノスは目の前に立つ青年―――自分と比べれば小柄なその背中を見つめ、改めて忠誠を誓った。


「何かできることがございましたら、何なりとご命令ください」


ベルノスはリオトに対して深々と頭を下げる。


リオトはその言葉に微笑み、肩を軽くすくめた後、ベルノスに体を向けた。そして、真剣な表情で口を開く。


「ベルノス、今の地に伝えておきたいことがあるんだ」


「どうされました?」


「今後の国の運営は俺の責任だが……全体の統制は君に任せたい」


ベルノスは驚いた表情を浮かべた。


「……私を……副官に?」


「どちらかというと、宰相とか、大臣、参謀長とか、そういう感じかな」


「そのような大役、私にはいささか身が重すぎるのでは……」


ベルノスは戸惑いながらも、リオトの言葉に真剣に耳を傾けた。


リオトは首を振る。


「いや......国旗と国名を決めたときに感じたんだ、君しかいないってね。本当は、名付けの時点で俺の中ではそうだったのかもしれない。言葉が通じるだけじゃなく、君の助けがあってこそ、ここまで来られたんだよ」


リオトは少し照れくさそうに顔を背けながら話を続ける。


「今更な気がするけど、改めてありがとう。君が最初に現れてくれて、本当に良かった。そしてこれからもよろしく。やっぱり言葉が通じる仲間がいるって、それだけで俺は助かってるんだ……旗を決めた時、君の提案を聞いた瞬間、君しかいないって、強く感じたんだ」


ベルノスはその言葉に心を打たれ、目に涙が浮かんでいた。


それは感動の涙だった。リオトが自分をどれほど信頼し、重要視しているかを知り、その責任を全うする覚悟を決めた。


ベルノスはその場にひざまずき、深く頭を下げた。


「この命、リオト様に捧げます。このベルノス、リオト様のために精一杯お役に立つことを誓います」


リオトは「そんなかしこまらなくていいのに」と苦笑をこぼす。


風が静かに吹き抜け、二人の周りの草木がさわさわと音を立てた。


リオトはふと目を閉じ、徐々に形作られていく自分の拠点を見つめた。


まだ始まったばかりだが、これから先、どんな困難が待ち受けようとも、彼には共に歩む仲間がいる。


「ここから未来を切り拓いていこう」


リオトの言葉が風に乗って静かに響いた。


未来への一歩を踏み出した。


ベルノスは自分に与えられた役割の大きさに恐れを感じながらも、リオトの信頼に応えるため、全力で国を支えようと心に決めた。


リオトは胸の奥で熱く燃える感覚を感じていた。自分が築く国は、ただの場所ではない。そこには、仲間たちとの絆、そして新しい未来が待っている


夕焼けが完全に消え、空には星々が輝き始めていたが、その光は、これから築く国の未来を照らすかのように優しく瞬いていた。

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