第18話 絆の旗、国の礎①


リオトは拠点を設置するため、ひらけた場所からやや離れた場所にいた。

彼の隣には、忠実なベルノスが静かに佇んでいる。


そして、周囲には、激戦の試練を乗り越えた生き残りのユニットたちがいた。


深淵の従僕が一体、邪神のしもべが一体、そしてナイトシャドウ・ウルフが一体――彼らは、リオトが指揮する戦いでともに生き延びた、頼れる仲間たちだった。


リオトは、深淵の従僕やナイトシャドウ・ウルフたちの無傷の姿を見つめ、胸の奥で熱い何かがこみ上げてきた。


彼らは自分の命令を忠実に遂行し、戦場で共に命をかけた仲間だ。


その姿を見て、リオトは彼らに対する感謝と誇りを噛みしめた。


きっと、これはEDDゲームでは、感じることはなかっただろう。


思い込んだことはあったかもしれない。


でも、きっと心臓があって、


生きている彼らと何処かつながりを感じる......


それはきっと、


この世界に来れたからこそ、感じれたものなのだと、リオトは感じていた。


そして、リオトの脳裏には、白狼公ガルディウスとの激しい戦いが蘇っていた。


ベルノスがガルディウスと一騎打ちしていた時、ダイヤウルフ達との激闘の中でリオトは目にしていた。


深く刻まれた傷を負った深淵の従僕、片足を失ったナイトシャドウ・ウルフ、片腕がもげた邪神のしもべ――あの時の彼らは、まさに瀕死ひんしの状態だったはずだ。だから、あの後の戦いには参加させなかった。


だが、彼らの傷は跡形もなく消えている。


「想像以上だ……」


リオトは目を細め、考えこんだ。

クロヴィスの召喚によって得た、一時的なステータス増加の恩恵おんけい


それが、彼らの傷をいやした――だが、これはゲームの常識を超えた力だった。


EDDエデドのゲームでは、そんな仕様はなかったはずだ。


また、戦いの最中でもリオトは感じていたことだが、ゲーム時代にはステータスの数値がすべてだったが、この異世界では単なる「指標」でしかないのではないか、と。


体力が多ければ、多いほどタフで、自然治癒能力も高い。


攻撃力が高ければ、膂力りょりょくや身体能力が増す。


そして、それらを数値として現れるに至った背景がある。


リオトは、今目の前に広がる現実が、自分の馴染んだゲームの仕様に『似せて』作られているように感じ始めていた。


いや、逆かもしれない。

むしろ、自分がこの世界を、ゲームのルールに寄せて理解しようとしているのだろう。


とはいえ、それは憶測の域を出ない。

ゲームのルールがすべてだったあの頃の感覚とは、まったく異なるものだった。


今、リオトは新たな現実の中で、自らが生きているこの世界の法則に、順応じゅんのうしなければならない。


リオトは思考を整理し、再び現実に目を戻した。


無事に森の守護者・白狼公はくろうこうガルディウスを撃退したリオトたちだったが、問題はまだ残っていた。


それは――邪神の封印。


虚無の邪神・クロヴィスの封印が解けるまで、リオトたちはこの地点に留まり、クロヴィスを守り続けなければならない状況だ


「はぁ……やっぱり動かないよな」


リオトは一息つきながら、黒紫こくしのオーラをまとった巨大な石の塊を見上げた。


クロヴィスは、スペルカード「邪神の封印」によって召喚され、白狼公ガルディウスの戦いで活躍したが、「邪神の封印」の効果により、今は目の前の巨大な石に封印されている。


邪神の封印のデメリットは明らかだった――封印が解けるまで、リオトたちはこの場所に留まらなければならない。


封印状態の邪神は自衛すらできず、無防備な状態であるため、仲間にするのであれば守らなくてはならない。


「リオト様、どうされますか?」


隣に立つベルノスが静かに問いかける。


リオトは、パネルに目を落とし、クロヴィスのカードを確認した。


カードには、鎖でバツ印がつけられており、その中央には無情なカウントダウンが表示されている。



―――残り59日23時間。



「……2か月か。長すぎるよな……」


現実では2か月――ゲーム内の体感時間ではほんの数分で済むはずが、現実は厳しかった。


その長さにリオトは再びため息をついた。


彼の言葉には、ただの愚痴ぐちではなく、この世界の「重み」があった。

リオトはその数字がどれほど長く感じられるかを、現実の重さとともに理解していた。


もし誰かがこの封印を破ろうとすれば、今までの努力は一瞬で無に帰すだろう。


この場所を守り抜くことが、今後の命運を握る――それが、リオトの責任だった。


「まぁ……覚悟は決めてたんだ。『邪神を封印』を使った以上、ここを守ることになるのはわかってたことだし......」


その言葉に、どこか覚悟の色がにじんでいた。

ベルノスが再び静かに促す。


「......では?」


リオトはしばらく考え込んだ後、ふっと微笑み、前を向いた。

その笑顔には、どこか決意と新たな希望が込められているようだった。


「……だから、ここに俺たちの拠点を築こうと思うんだ。


―――いや、俺たちの国を作るんだ」


リオトの言葉にベルノスも微笑み返す。


「俺たちの国を作る」――その言葉には、過去ではなく、新たな未来を切り開こうとする決意が込められていた。


「なるほど......ついに、でございますね」


「ああ、とはいえ、人手が足りないから増やさないと......」


リオトは、パネルを操作して手札を開き、先の戦闘の報酬で手に入れたカードを確認した。


手札にはダイヤウルフのカードが3枚追加されていた。

8体倒して手に入ったカードは3枚―――どうやらカードのドロップには確率があるらしい。


――――――――――


ダイヤウルフ

種類: ユニット(レア)

攻撃力: 3

体力: 4

説明:ダイヤモンドのように硬い被毛を持つ狼。鋭い牙と爪を武器に、他の狼よりも一段階上の力を誇る。俊敏さと耐久力を兼ね備え、群れで行動することでさらなる強さを発揮する。

――――――――――


リオトはパネルに触れ、召喚の操作を行う。


現れた3体のダイヤウルフは、鋭い眼光とたくましい体躯たいくを持ち、ダイヤモンドのような硬い被毛が光を反射して輝いている。


彼らはナイトシャドウ・ウルフよりも強力な存在であり、その強さは自分の身で体験済みである。


召喚された瞬間、辺りには緊張感が走った。


側にいたナイトシャドウ・ウルフの耳と尻尾が昂る。


ダイヤウルフたちは低く唸り、周囲の空気が一瞬にして変わる。


リオトは目を細め、彼らの存在感を確かめるようにじっと見つめた。



―――彼らはリオトに忠誠を示すように吠え、鋭い爪で地面を掻き、即座に準備ができていることを示していた。



「よし、戦闘要員はこれで十分だが……我儘わがままを言えば、手作業ができるユニットが欲しいな」


リオトは思わず首をかしげながら、ユニットたちを見回す。


戦力としては十分だが、この地を築き上げるためには、もっと違う力が必要だと感じていた。


しかし、我儘をいうわけにはいかない。今ある力で出来ることをしなければならない。


彼の思考は、次にどう動くべきかを模索もさくし始める。


「......よし、深淵の従僕とナイトシャドウ・ウルフは食料になりそうなものを探してくれ。ダイヤウルフ2頭は近くに水場になる川などがないか、敵が居ないか偵察を。残った邪神のしもべとダイヤウルフ一頭は木材や石などの資材を集めてくれ」


二人一組の形を作れば、万が一に何かあっても情報も伝わるうえに、生存率も高まるだろう。


ベルノスが入っていないのは、リオトの護衛だからである。

リオトの指示にベルノスはすぐに頷いた。


「かしこまりました」


ベルノスがリオトの命令に従い、周囲のユニットに指示を飛ばすと、ユニットたちは即座に動き出す。


静かな森の中で、ユニットの足音と息遣いだけが響く中、リオトはふと空を見上げる。


深い緑の木々が風に揺れ、これからの拠点作りに向けた思いが胸に湧き上がった。

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