第11話 森の試練 白狼公戦②

『だが、それはできぬ。我々の宿命しゅくめいゆえ、お前たちを見逃すことはできぬ』


ベルノスは問い返す。


「……な、なぜ……?」


『……お前達をここにみちびいた運命うんめいが、今ここで試されるのだ。宿命しゅくめいゆえ、さだめゆえ。この森に......我が領域に入った以上、ここでお前たちには、試練を受ける定めがある。宿命は変えられぬ……』


その言葉に、リオトは全身に電流が走るような感覚を覚えた。


「試練……?」


彼の頭に浮かぶのは、"この戦いがただの戦闘ではない"ということだった。


白狼公は目を細めながら、探るように言葉を続けた。


『ところで、お前たちは……それだけか? 』


白狼公の黄金の瞳が、ベルノス、リオト、そして彼らの眷属たちを順番に見やる。


『……他に、強き者たちや、名高き英雄、あるいは……たけき獣を従えてはおらぬのか?』


白狼公が疑問の眼差しを向ける。


『……矮小なる人間と幼い黒狼、そして見慣れぬ異形どもだけか? 他に仲間はおらぬのか……?』


リオトはその質問に戸惑った。

まるで「もっと強力な仲間がいるはずだ」とでも言いたげな視線だが、彼はその意味を測りかねた。


だが、ベルノスは冷静だった。彼は微笑みを浮かべ、相手の意図を見抜き、虚勢を張るように余裕のある口調で応じた。


「さあ、どうでしょう? 今頃我々を捜索するために、捜索隊が編成され数時間後には、この森のどこかで遭遇するでしょう。もし貴方が見つかれば……放置するというわけにはいかないでしょうね。」


その言葉に、白狼公の瞳がわずかに揺らいだ。彼の疑念が深まったかのように、再びじっくりとリオトたちを見据える。


白狼公は再び鼻を鳴らし、目を細めながら低く言い放つ。


『......嘘だな』

「さあ、どうでしょう?」


白狼公は一瞬、ベルノスを睨みつけたが、すぐにその視線をリオトたち全体に向け、じっくりと観察するかのように再び静かに目を細めた。


『……そうか。まだ始まったばかりのようだな……』


リオトはその言葉の意味を図りかねたが、何かを見透かされたような感覚に、不安が胸に広がった。


『もはやこれ以上の問答もんどうは不要……この森に踏み入れた者は試される運命......運命に打ち勝つことができる者など、これまで存在しなかった。―――お前も、ここで散る定めか、超えるか。我を前にして、戦うか逃げるか、選ぶがいい。だが覚悟せよ――森の試練から逃れることはできぬ!』


白狼公の言葉とともに、ダイアウルフたちが唸り声を上げ、森の中で緊張が高まる。


ベルノスが腕を掲げ、白狼を牽制けんせいするように深淵の従僕たちが展開し、いびつ咆哮ほうこうをあげ威嚇いかくし、ナイトシャドウ・ウルフも続く。


邪神のしもべはリオトの傍により、彼を守ろうとする。


「……ベルノス」

「リオト様、もう……致し方ありません。戦いましょう。今こそ、我らの力を見せる時です!」


ベルノスはその言葉を発すると同時に、杖を構え、リオトに向けて力強く頷いた。


リオトはその姿を見て、自分もまた覚悟を決めなければならないことを痛感する。


「……戦おう、ベルノス!」


彼の声は、決意と共に響き渡る。


だが、その瞬間、リオトの胸には一瞬の迷いが走った。「本当に勝てるのか? この相手に……」──それでも、後戻りはできない。


心臓の鼓動が速まる中で、彼は自分に言い聞かせる。


やるしかない、と。


「俺たちで、白狼公を倒すんだ!」

「はい、リオト様!」


その言葉に応じるように、深淵の従僕、ナイトシャドウ・ウルフ、邪神のしもべたちも、戦闘態勢に入る。


森に漂う重い空気が、まさにこの瞬間を迎えるための前触れのように、ピンと張り詰めていた。


リオトとベルノスが息を整え、相対するその先に、白狼公の圧倒的な存在感で立ちはだかる。


白狼公の黄金の瞳が、森の支配者としてリオトたちを鋭く見据えた。

その大地を揺るがす声が、まるで森全体を共鳴させるように響き渡る。


『さあ、覚悟せよ。これより、森の試練を受けるがよい!この地は太古より神々さえも足を踏み入れることを許されなかった、禁断の森。世界の果てにして、我らが守護する神聖なる聖域である!』


その声と共に、森全体が響き渡る。

その一言一言が、リオトの心臓を締め付けるような威圧感を伴い、続けられる。

木々は揺れ、風が巻き起こり、白狼公の力がさらに増していくかのようだった。


『お前たち、この聖なる大地に足を踏み入れた無礼、その罪は重い。罰を受けるは定め……だが、貴様らの覚悟と勇気、そして心に宿る闘志をたたえよう。汝らには、試練に臨むに足る資格があると見定めた。よって、我、神の代行者にして、世界の守護者として神々の名において試練を課し、審判を下す者となろう。さあ、神々の声に応え、その運命に挑むがよい!』


白狼公は悠然と立ち、周囲の風と光をもまとい、その巨体を一層神々こうごうしくかがやかせる。



『我が名は――太古の森を守護せし者にして、この地の王!――白狼公ガルディウスなり!』



その名乗りはまさに、神話の怪物と対峙する英雄譚えいゆうたんにふさわしい荘厳そうごんさであり、リオトとベルノスに対して、これから始まる死闘しとうを宣言するかのようだった。


そして、試練たたかいが幕を開けた。

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