第3話 目覚め③

《第一章:新たなる旅立ち!

ミッション2: 眷属であるユニットを召喚して戦いに備えよ。

※王ユニットリオトの体力が0になった場合、リオトは死亡します。》


"死亡"という文字が浮かび上がり、リオトは背筋に冷たい感覚を覚えた。


「……試すしかないか……」


その文字を見つめるたびに、胸の奥に怯えが募る。まだ何も始まっていないはずなのに、死の影がすぐそばにあるかのようだった。


彼はパネルに浮かぶ選択肢を見つめ、決断する。


戦う力が必要だ――この先何が待ち受けているのかは分からないが、準備を怠れば命を落とす可能性がある。それを避けるために、いま力を手にしなければならない。


現在の手札が表示されている画面から、ユニットの中でステータスが高い「深淵の司祭」のカードを選ぶ。


《深淵の司祭を召喚しますか? はい/いいえ》


「......はい」


リオトは「はい」を選択し、瞬間的にカードが輝き始める。

そして、黒い影が目の前に現れ、やがてそれは人型へと形を成し始めた。


巨大な異形の男――深淵の司祭が、まるで霧から生じたかのように、その姿を現した。


「深淵の呼び声に応じ、我があるじの前に参じました。我が主よ、いかなる命令もお受けいたします……」


その声は低く、冷たく響き、空気を震わせるように静寂を破る。


身長は190センチを超える堂々とした体躯で、その肌は滑らかな深紫ふかむらさき漆黒しっこくが交じり合ったかのような鱗に覆われており、光を受けるとわずかに煌めきを放つ。


髪は生えておらず、顔は蛇を思わせる異形の面持おももちで黄金に輝く獣のようなひとみが、まるで底知れぬ闇を映し出しているかのように冷たさを帯びている。


黒を基調とした祭服さいふくには、深淵のシンボルと古代文字が金色に刺繍ししゅうされ、威圧感を放つ。右手には、渦巻く闇の力を秘めたクリスタルがめ込まれた黒い杖を握っているおり、司祭というよりも魔法使いを思わせる。


その姿からは、邪神の従者としての威厳いげんと絶大な力がにじみ出ていた。


一言で表現するならば、怪しげな黒いローブに包まれた、蛇顔の大男。


「……俺の、眷属……?」


目の前に現れた異形の存在は、ゲームの中ではただのキャラクターだったが、今は目の前で実際に動き、話している。


「これは……現実なのか?」


リオトはその姿を前に、一瞬圧倒されたが、平静を装い声をかける。


「えっと……深淵の司祭、よろしく……?」


司祭は冷静に青年を見つめ、その黄金の瞳にわずかに柔らかさが宿る。

そして、跪くように片膝をつき、低く深い声で返答した。


「我があるじあるじ、リオト様。貴方は深淵文明の王であり、邪神の神子であらせられる。この身、この力、全てを貴方にささげます。いかなる命も、御意のままに……」


青年はその言葉に一瞬戸惑ったが、その忠誠心を感じ取り、少し安心したようにうなずいた。


「そ、そうか……頼りにしてるよ、深淵の司祭」


深淵の司祭は無言で再び立ち上がり、杖を地面につき堂々と構える。

その姿はまさに、彼を守るために現れた存在であり、るぎない忠誠を誓っていた。


彼が深淵の司祭を召喚し、ようやく一息ついた瞬間、目の前にパネルが表示された。

そこには、先ほどのミッションのクリア通知が光っている。


《ミッション1クリア!》

《クリア報酬:デッキ拡張パック ×1を獲得しました》

《クリア報酬:+500XPを獲得しました》


「報酬……?」


青年はその画面を見て、わずかに安心感を覚える。

眷属を召喚し、ミッションをクリアしたことで、少しずつだがこの世界での立場を理解し始めていた。


――今の自分はEDDゲームにおける王として演じるプレイすることを求めらている。


「デッキ拡張パックか……次の戦いに備えるために、これも重要だな」


リオトはパネルに表示されている『デッキ拡張パック』の選択肢をタップしてみたが、目の前に表示されたのは無情にも「現在は利用することができません」のメッセージだった。


「……なんだよ、今は使えないのか……」


少し不満げに呟きながら、パネルを閉じる。

次に、現在使用中のデッキの内容を確認しようとするが、こちらも表示されない。


「デッキ内容も確認できないのか……」


青年はため息をつきながら、デッキを選んだ時に目の前に広がったカードたちのことを思い出す。


(あれがデッキの内容ってことか……少しは覚えてるけど、詳しく確認できないのは不安だな)


胸の中でほんの少しの焦りと期待が交じりながらも、次のミッションについて考える。


「次のミッションはなんだ......?」

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