File03:ノレズル学院生徒連続ストーカー事件

●概要

王歴2008年、王都ペディングのノレズル学院における複数の生徒が、ストーカー被害を受けた。

被害者は29人に及び、うち23人が女生徒であった(人数については諸説あり)。

犯行内容は、登下校時に付け回す、窓から被害者の部屋をのぞき込む、自宅への侵入といったものが多かった。

一方で、一部の被害者は就寝中に頸部を圧迫される、未知の魔法で呼吸を妨害される、といった身体的被害を受けている。


犯人は被害者たちによってたびたび目撃されており、「2m近い高身長、異常なまでに細くて長い手足、大きく見開いた目に裂けるような笑顔」という共通した証言が確認されている。

ただし、犯人は現場に一切の痕跡を残しておらず、今なお逮捕には至っていない。


●最初の事件と被害者の拡大

複数の生徒、ならびに学院の教師による証言から、少女A(当時13歳)が最初の被害者と考えられている。

2008年5月19日、Aは登校中に誰かの気配を感じたという。

最初は気に留めていなかったものの、下校時や翌日も同様の視線を感じたことから、担任教師や親しい友人に、「ストーカー被害を受けている」と相談。

これを受けて、翌21日はAと仲の良かった少女B、C、Dが、Aに付き添って下校した。


なお、この際にA、B、Cの3人は、やはり誰かに見られている気配を感じたとされる。

Aを家まで送った後、Bの家はC,Dと反対方向だったため、単独で帰宅。

自宅まで、視線を感じ続けたと証言した。

さらにその日の夜、少女Bが就寝しようと自室の明かりを落とした際、カーテンに人影があることに気付く。

Bの悲鳴で駆け付けた家族が窓の外を確認するも、既に不審者の姿はなかった。


翌22日、Bの家族が学院に相談し、当日中に全教員ならびに全生徒への注意喚起が行われた。

この際、複数の生徒が、「22日の登校時に、校門の前で不審者が生徒を吟味するように見ていた」と証言している。

これを受け、学院側は登下校の時間帯に、校門前で教員が警戒に当たることを決定した。


なお、22日の下校時に、Dが何者かに追いかけられるという事件も発生。

逃走中に転倒したDは頭部を強く打ち、気を失うほどの大けがを負った。

近隣住民が失神中のDを発見、自宅まで送り届けた。

Dには、転倒時についたと思われる頭部の切傷以外、外傷といった被害は確認されていない。

Dは恐怖心から1か月以上、外出することができず、回復後も卒業まで通学時は両親が送迎した。


23日以降、Dの事件を受けて、全校生徒に集団での登下校が義務付けられた。

しかし、ストーカー被害は収まらなかった。

それどころか、これ以降に被害者が増加したことから、「集団登下校がターゲットの拡散に繋がったのではないか」として、生徒の親は学院側への責任を求めた。


●犯行の過激化

6月に入ると、犯人の行動が過激化した。

6月4日、サリー・ノーマン(15歳)が体調不良により学院を休み、自宅に一人でいたところ、一連の犯人と思われる人物が自宅に侵入するという事件が発生。

当時サリーは、ストーカー事件の恐怖から密室を怖がるようになり、自室のドアを開けたまま、ベッドに横になっていた。

※ドアが開いていると、サリーのベッドから玄関が視認できる


11:30分ごろ、突然玄関のカギが開き、ドアから不審者が侵入した。

自室のドアが開いていたことから、サリーと不審者は即座に目が合ったという。

不審者は後ろ手で鍵を閉めると、頭を大きく左右に揺らしながら、ゆっくりとサリーの元に近寄ってきた。

恐怖で動けずにいたサリーだったが、不審者が自室に足を踏み入れる直前、悲鳴を上げることに成功。

それに驚いたのか、不審者は窓から逃走した。


サリーは両親が帰宅するまで、悲鳴を聞いて駆け付けた近隣住民の家に避難した。

なお、サリーの自宅はAが住んでいる家の3つ隣であった。


犯人の姿をはっきりと見たのはサリーが初めてであり、彼女の証言から犯人の容姿が「2m近い高身長、異常なまでに細くて長い手足、大きく見開いた目に裂けるような笑顔」であることが共有された。


また、6月8日の深夜には、少女F(14歳)の部屋に不審者が侵入した。

就寝中だったFの頸部を圧迫し、窒息死させようとした疑い。

しかし、Fはとっさに枕もとに置いていた本を犯人に投げつけ、怯ませることに成功。

犯人は物音に気付いた家族が駆け付ける前に、窓から逃走した。

Fの自室は2階にあり、油断から窓の施錠をしていなかった。

Fの首には圧迫によって付けられたと思われる痣が残っていたが、鑑定魔法では魔力紋が検出されなかった。


6月12日の夕刻、大通りにある集合住宅の共通玄関内で、集団下校中だったG,H,I,J(いずれも13歳)が倒れているのが発見された。

G,H,Iはこの集合住宅に住んでおり、Jは夜まで親が不在だったため、迎えが来るまでIの家で過ごすことになっていた。


4人はいずれも呼吸困難からの失神状態と診断された。

回復後に話を聞いたところ、Gが集合住宅の共通玄関を開けて中に入った際、急に息苦しくなったと証言。

3人に助けを求めたが、次々に呼吸困難を発症してしまった。

後の取材で、意識を失う直前、集合住宅内の階段上に「2m近い高身長、異常なまでに細くて長い手足、大きく見開いた目に裂けるような笑顔」という特徴に合致する人物がいたのを、GとJが目撃していたことが分かった。


なお、病院で4人に鑑定魔法を使用したが、魔力紋は検出されなかった。

4人がほぼ同時に酸欠となっていることから、一定の範囲に対して、何らかの未知の魔法を使用した可能性が指摘されている。


●犯人像

複数の目撃情報から、犯人の見た目が「2m近い高身長、異常なまでに細くて長い手足、大きく見開いた目に裂けるような笑顔」であることは明白である。

ただし、王都にはこのような特徴に該当する人物は存在せず、魔法によって「被害者に幻覚を見せた」「犯人が自身の姿を変質させた」といった、複数の可能性が考えられる。


また、呼吸困難による失神や転倒による負傷はあれど、殺害にまでは至っていないことなどから、恐怖心をあおる目的で犯行を行っていたのではないか、と考察されることも多い。

しかし、頸部の圧迫など、はっきりと傷害行為にも及んでおり、「殺害に至らなかったのは、被害者の抵抗や異常を察知した周囲の人が助けに入ったため」という見方が一般的である。


さらに、被害は「窒息」や「酸欠」という一定の共通点があり、犯人の魔法適性や儀式的な目的などが考察されているが、いずれも予想の域を出ない。


なお、サリー・ノーマンは枕元に鉱石学の教科書(Fが犯人に投げつけた本と同じもの)を置いていた。

これを受け、「犯人が逃走したのは悲鳴に驚いたからではなく、鉱石学の教科書を避けたのではないか」と、生徒たちの間で噂された。

この噂は生徒や親の間でたちまち広がり、「連続ストーカー事件の犯人は鉱石学の教科書が弱点」という説が事実であるように扱われた。

ただし実際、登下校時に鉱石学の教科書を持っていた生徒は、ストーカー被害を受けていないことが、後の調査で明らかになっている。


●事件の影響

・本事件を受けて、ノレズル学院は2013年まで、集団登下校と教員による校門の警戒が続いた。

・噂の影響により、学院で最も人気のなかった鉱石学の履修希望者が殺到した。

・当初は校則通り、抽選によって履修者を選別する予定だったが、生徒同士による履修希望の変更強要や親による強い反発を受けた

・このため、2008年以降、鉱石学は必修科目となった

・また、生徒と親の意向もあり、本来は2学年で選択履修するはずの鉱石学を、希望者は学年問わず履修できるものとした

・この影響で、2008年以降はほとんどの生徒が鉱石学を学んでおり、「変わり者の学問」と呼ばれる鉱石学が一気に盛んとなった

・これが功を奏したのかは不確定なものの、2008年の後半にはストーカーの被害報告は完全になくなっている(ただし鉱石学の人気は、その後2016年まで続いた)

・2010~2020年代は、当時の卒業生たちによって画期的な鉱石の利用方法が次々と発明された

・2012年に発表、その後実用化された「リリダイトによる恒久光源球」は、犯人を最初に目撃したサリー・ノーマンによる発明である

・サリー氏はインタビューで、「あの時の恐怖から、私は光を求めた。おかげでかけがえのない発見ができたが、彼に感謝することはない」と答えている

・なお、サリー氏は現在でも自室のドアを開け放しており、家のいたるところに鉱石学の教科書を置いているという(犯人の撃退に繋がった当時の教科書は、常に持ち歩いている模様)

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