第3話 雫との最後の1日 前編

家に居た雫の姿は憔悴しきっており、それだけでどれだけ心に傷を負わせてしまったのかを察せられる。


そんな雫に申し訳なさが込み上げ、湯水の如く懺悔の言葉が溢れそうになるがまずは状況説明が先だとその言葉を押し込め話し始める。


「その姿からして…もう分かってるとは思うけど俺死んじゃった。ごめん。あれからどんだけ経ってるのかは分かんないけど」

「子供を突き飛ばしてトラックに引かれたってその子の母親が私に言ってきたんだけど本当なの…?」


雫がそう俺に問いを投げかける。


「うん。こんな事言うのもあれだけど見捨てようとしてたんだけど色んなことが重なってつい…ね。まぁそれで死んじゃったから笑えないんだけども」

「本当だよ…!親の代わりに一緒に居てくれるって言ってくれてたのに…!」

「…本当にごめんね…雫…。約束1つも守れなくてさ…」


涙を零しながら声を張り上げる雫を抱きしめその背中をさする。


「お兄さんさえ…!お兄さんさえいてくれたら私は幸せだったのに…!なんで死んじゃったんですかぁぁぁぁ…!」

「雫…」


己の心境を吐露する雫に何も言うことが出来ず落ち着くまでずっと抱きしめながら背中をさする。




おおよそ1時間が過ぎた頃、雫が落ち着いたのか最もすぎる質問を俺にしてくる。


「すみません…落ち着きました。…ところで…お兄さんは死んだはずなのになんでここで私を慰めれてるの?」

「話すと長くなるんだけど転生することになったんだよね」

「何もかもを端折りすぎだよお兄さん!えっ転生!?どう言うこと!?」


転生…いや転生か?転移かなニュアンス的には。別世界の学園に入学するなら…いややっぱ転生か?


「実はかくかくしかじかで…」

「本当にかくかくしかじかって言っても伝わらないからね?」

「実は───」




「全部がランダムで決められた学園に入学することになってその報酬で1日私と話をする時間を貰った…?」

「まとめるとそうなるな」

「どう言うこと…?」

「本当にどう言うことなんだろうな」


未だに理解追いついてないし俺も。


「てってか!」

「ん?」

「報酬に選んだのが私との一日だったのは本当ですかお兄さん!」

「えっうん、そうだけど」


さっきまで泣いてたのなんだってくらい元気になったな急に…。


「ぬふ…えへへへどぅへへへへへ」

「えぇどうしたの急に…」

「はっ!なっ何でもないですよお兄さん!何見てんですか!」

「理不尽すぎない?」

「じゃあ今日は1日私と一緒に居てくれるって事なんですか?」

「そうだよ」

「じゃあ1日喋りましょうお兄さん!」

「もちろんだよ雫」


離れるタイミングを逃し、雫を抱きしめたままお喋りする。


「ねーねーおーにーいーさーんー!」

「んー?なんだい雫」

「好きです!大好きです!」

「俺も好きだよ雫」

「むー…」

「えっなんで不満気なの?」

「違うんだよなぁ…」

「何が!?」


話題を2転3転させながら色んなことを話す。


「見て見てこの懐かしいアルバム」

「おー懐かしいな…わっかいなぁこの時の雫」

「そりゃ4年前のだしねぇ…今じゃ素晴らしいナイスバデーだから」

「ナイス…バデー…?」

「何か言いたいんですかお兄さん」

「いやなんでもないです」


怖ぁ…。


また別のことを少し喋っていると時計が13時を示しているのが目に入った。


「んっもうこんな時間か。昼時だしせっかくだから俺が作るよ」

「お兄さんの手料理…!?最後に食べたい気持ちも食べたくない気持ちもある!」

「残念強制手料理です」

「選択肢なんてなかった」


美味しくても思い出。不味くてもそれはそれで思い出になるでしょきっと。


「「いただきます」」


10分の食材との格闘の後に俺特製野菜炒めが完成したので2人で手を合わせてから同時にそれを口に運ぶ。


「…お兄さん」

「…雫」

「「不味くね?」」

「どうやったら野菜炒めをこんなに不味く出来るのお兄さん」

「んーやっぱセンス…?」

「なんでちょっと誇らしげなの」


メシマズは個性だから…。


「でも…」

「?」

「まさかまたお兄さんの手料理食べれるなんて思ってなかったからさ…幸せを感じちゃうんだよね」

「雫…」

「はっ!やめやめ!辛気臭くなるだけだし!まだまだ時間はあるからこんな空気はやめにして楽しい話しましょお兄さん!」

「…ははっ、そうだな。じゃあ雫がファミレスで1時間店員呼べずに座り続けてた話でもするか」

「楽しくないよその話私!てかなんで知ってんのお兄さん」

「実はあの時後ろの席に座ってたよ」

「衝撃の事実…」


俺もびっくりしたもんあの時。1時間店員呼べずにあたふたしてる姿に更にびっくりしたけど。雫って人見知りだったんだなって。


「お兄さんがそんな話するなら私はお兄さんが隠してたエロ本のタイトル全部言うよ」

「なんで知ってんだよ!」

「いや部屋の掃除するの私だし…隠してる場所ベッドの下とか言うベタすぎる場所だったし…」

「知りたくなかったそんな事…」


結構エグめなのあったんだけど読んでないよね?一応聞いてみるか。


「一応聞くけど読んではないよね…?」

「ヨンデナイヨ」

「棒読みだし顔逸らすし…絶対読んだじゃん…お前…えぇ…」

「私はああ言うのも良いと思うよ」

「気遣わないで?」


知らないままで居たかったかなこの情報だけは。


そんなこんなでご飯を食べ終わったので2人でお皿を洗ってから雑談を再開させる。


何故か胡座かいた俺の足の間に雫が収まる形での再開である。


「なんでこの体勢…?」

「別にいいじゃないですかお兄さん。ほらぐりぐりー」

「俺の胸に後頭部押し付けないで雫。可愛すぎてお兄さん昇天しちゃう」

「ブラックジョーク過ぎない?」

「確かに…」


今霊みたいなものだもんな俺って…。


────────────────────

パッと入学させるつもりだったのに雫を好きになりすぎてついつい雫との絡みを長めに書いちゃう…。


モチベに繋がるので感想や星や♥よろしくお願いします。

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