第2話 幸せな再会
視界が晴れる。体が動く。
痛みの消えた体を何が何だか分からないままに操り、何が起こったのかと辺りを見回してみると死んでしまったはずの父さんと母さんがテーブルを囲み座っていた。
「父さん…?母さん…?」
「おー起きたか真。まぁ色々言いたいことはあるだろうが一旦座って皆で鍋をつつくぞ」
「えぇ…?」
それを聞きテーブルの上を見てみると出来たてであろう鍋が真ん中に鎮座していた。
湯気もたちこめ美味しそうな匂いもしてくる。でもなんで鍋なん?
とりあえず椅子に座り父さんと母さんと鍋をつつき始める。
「しっかし大きくなったなぁ真…いや見守ってたし知ってはいたが…」
「…見守ってたって何?」
「そのまんまの意味だぞ?死んでから魂だけになっちったから母さんと2人で守護霊してたんだよお前の」
「心配だったからね」
「じゃあ見てたの?トラックに跳ねられた所も」
大分ショッキングだったと思うんだけど。
「大丈夫咄嗟に母さんの目は俺が覆っといた」
「魂に目なんてあんの?」
「魂つっても体自体はあったからな」
「ほへぇー」
魂関連の研究をしている人が聞いたら腰を抜かしそうな話をしながらも皆で鍋をつつく。
「にしても死ぬの早かったな真…。せめてひ孫の顔まで見たかったよ俺は」
「私はせめて孫の顔まで見たかったよ」
「子供も出来んかったなぁ…相手も居なかったし仕方ないけど」
「……雫ちゃんとかはどうだったんだ?結構相手に最適だったと思ったけど」
「雫?雫が俺の事好きな訳ないじゃん」
ご飯とか作ってくれてはいたけどそれは家族だったからだろうし…。
「………まじかお前…」
「一体誰に似たんですかねぇ…ねぇお父さん?」
「ががぐぐぐ…」
「?どしたの2人とも」
「いや…なんもねぇよ…うん」
何で父さんダメージ受けてるんだろう。
「ん…そろそろ時間か」
「時間?」
「そ、時間」
そう話す父さんの体と、母さんの体が透けていく。いや、それだけじゃない。テーブルも、椅子も、鍋も、全部が透けていく。
「なん…」
「お前は自慢の息子だよ真。じゃあな」
「またね真。もっと気持ちに敏感になろうね」
「待っ!」
思わず伸ばした手は虚空を切るだけでもうそこには2人の姿はなかった。
「何が…?」
「すみません真様。私の神様パワーではここまでしか御二方と会わせることが出来ませんでした」
「貴方は…?」
呆然とする俺に、全てが真っ白な無表情の女性が頭を下げる。
「私はツヴァイ。女神やってます」
「あぁこれはどうもご丁寧に…桐谷真です」
「本日は真様に折り入って頼みがありまして…」
「頼み…ですか?」
「真様には別世界に存在する全ての設定がランダムで決められた学園に入学して頂きたいのです」
「なんてぇ…?」
別世界に存在する全ての設定がランダムで決められた学園……いやなんて?
「それはまた…えぇ?な、なんでですか?」
「色々事情がありまして…1つを申し上げるなら真様がその学園に入学するのが他の生徒にとても良い影響を与えるからですね。他にも事情はありますがこの理由が1番大きいです」
「俺が入学することで一体何が…」
ポテンシャルの極みだったのかなもしかして俺って。
「もちろん報酬も用意出来ます。何でもとりあえずおっしゃってください。検討するので」
「急にそんなこと言われても…んー…あっ、雫と少しで良いので話せたりしませんか?」
「それならばお安い御用でございます。1日、つまり24時間あちらに戻せますよ」
「あっじゃあそれでお願いしていいですか?」
「分かりました」
急に1人にしちゃう訳だししっかり話したかったんだよなぁ…。
「ではランダム学園には入学してもらえると?」
「はい。まだまだしたい事なんて沢山ありますし何だか楽しそうですからね」
まぁ建前だけども。雫と話せるなら転生くらいどうでもいいし。
「本当にありがとうございます。では今から元の世界に24時間戻しますがよろしいですか?」
「えっもうですか!?よっよし、OKです!」
「では、良き最期を」
その声と共に目の前が真っ白になりようやく視界が戻ったと思ったら俺は家の玄関前に立っていた。
──side桐谷雫
お兄さんが死んでから1週間が過ぎた。あの日から、上手く眠れない、上手く笑えない、ご飯が食べれない。
衰弱しきった様子の私が鏡に映る。
「こんなんじゃ…お兄さんに嫌われちゃうなぁ…」
お兄さんはもうこの世に居ないのに、ついそう零してしまう。
あの日の後悔が私を締め付けてやまない。
おつかいなんて頼まなければ今日もお兄さんと笑いあっていた筈なのに。
いつもみたいにお兄さんにアピールをして、いつもみたいにお兄さんに受け流される。そんな代わり映えのしないいつもの日々はもう戻ってこないのだ。
お父さんもお母さんも心配してくれているが立ち直ることなんて出来そうにない。
初恋だった。辛くて、苦しくて、上手く生きることの出来なかった私をなんてことのないことかのように救ってくれたお兄さんが大好きだったんだ。
せめて…せめて1度でも、この気持ちを真剣に伝えたかった。
もう叶わないそんな願いを天へと伝えながら私は今日も何も出来ずボーッと天井を眺める。
天井を眺め初めて少ししたくらいに突然ドアが開く音がする。
お父さんからもお母さんからも今日家に来るなんて話は聞いていないし、友達にはしばらくそっとしておいて欲しいと言ってある。
…強盗か?はたまた私のこの素晴らしい美貌に魅入られてしまったストーカーかレイプ魔だろうか。
なんにせよ黙ってお兄さん専用のこの体を傷つけさせる訳にはいかない。近付いてきたら金的を全力で叩き込んでやろうと決意を固め、玄関をジッと凝視する。
そんな私に聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
「ただいまー雫ー!居るかぁー!?」
「えっ、おっお兄さん!?」
驚いて大声を出してしまった私に玄関へ続く扉を開けお兄さんが近付いてくる。
「……ごめんなぁ雫。話があるんだ、聞いてくれるか?」
衰弱した私を見て悲しげな顔で謝りながらお兄さんがそう問いを投げかける。
私は何が何だか分からないままこくんと頷いた。
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展開ちょっと重くね?コメディ君早く来て?
モチベに繋がるので感想や星や♥よろしくお願いします。
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