子供を庇って死んだら全設定がランダムで決められた異世界の学園に入学することになった

中田の刀な鷹

プロローグ

第1話 勇気の代償

──父さんと母さんが仲良さげに談笑し俺もそれに混ざって皆で話す。


──特別でも何でもない、1週間も経てば忘れてしまいそうな話を何が楽しいのか皆笑顔で幸せそうに話している。


──父さんがふざけて、母さんがツッコんで、2人が笑顔になって、俺もそれにつられて笑顔を浮かべる。


──もう戻ってこないその光景を見て、これが夢なんだと分かった。




ジリリリリリジリリリリリ


頭の近くでけたたましくなる目覚まし時計を止めカーテンを全開にし太陽の光を一身に浴びる。


今日は久しぶりに父さんと母さんの夢を見た。もう割り切ったつもりだったが楽しかった時の夢を見てしまうと少し憂鬱な気持ちになってしまう。


今日は仕事が午後からなので二度寝を決めようと目覚まし時計をセットしベッドに潜ると寝室のドアがノックされる。


「お兄さーん?朝ですよー?起きましょー」


ドアの向こうからそんな声が聞こえてくる。


「開けていいよー…」

「お兄さん今日午後からだって言ってもだらけすぎじゃないですか?」


入ってきた彼女は桐谷きりやしずく。両親を失った俺を拾ってくれた2人の娘さんで、俺の事をお兄さんと呼んで慕ってくれている。


そんな彼女に眠たさから来る間延びした声で弁明をする。


「幸せな夢見て脳が破壊されちゃって…」

「初めて見ましたよ幸せな夢で脳破壊されてる人…ほら起きましょ?ご飯出来てますよ」

「あーい…」


ゆったりとした動作でベッドから抜け出し軽ーく伸びをしてから雫を追って下の階に降りていく。


「おぉー美味しそー…やっぱ雫料理上手いね」

「お母さんもお父さんも何ならお兄さんも料理出来ないからじゃないですか…こんなん私が頑張るしかないって思うでしょ」

「正直申し訳ないと思ってる」


浩介さんも美咲さんも料理壊滅的だからなぁ…どうやって雫が料理出来るまで耐え凌げたんだろう…。


まぁそんな事はもう脇にでも追いやって2人で手を合わせてから眼前の料理を食べ始める。


「「いただきます」」

「うめぇ…」

「そう言ってくれると作ったかいが合ったってもんよ!ほらほら食べて食べて!」

「全部うめぇ…」


嫌いな食べ物が入ってるものもあるのに何故か全部うめぇ。これが力…か…。


「こりゃいいお嫁さんになるな雫は」

「ふえっ!?」

「え何どした?そんな顔真っ赤にさせて…ん…?あっもしかして…?」

「え、えと…その」

「好きな人でも出来たか!?」

「はぁ…」

「なんでため息つくの!?」


こいつないわぁーって顔しないでくれよ!傷つくじゃん!


「お兄さんは本当にどうしてこう…はぁ…」

「ため息が止まんないなぁおい。えっそんな何か俺だめだった?」

「だめでしたね」

「確固たる意思…!」


聞かん方が良かったんかな好きな人。


その後は少しぎくしゃくとしながらも雑談をしてからご飯を食べ終える。


「「ごちそうさまでした」」

「お兄さん午前暇なら少しおつかい頼めない?牛乳切れちゃっててさ」

「ん、良いよ。いつも料理とか家事で助かってるしね」

「ありがとお兄さん!大好き!」

「はっはっは俺も好きだぞ雫」

「はぁ…」

「なんでまたため息つくの!?」


なんか今ため息つく要素あった???


釈然としない気持ちを抱えながらも近くのコンビニへと歩を進める。歩いて五分くらいの近場だしすぐに帰れるだろうと考え、スマホは持たずに財布片手に向かっていく。


昔…と言っても2年前だが、スマホの見すぎで目が死ぬほど悪くなり雫にこっ酷く怒られたのでこう言うパッと行ってパッと帰れる距離の移動はスマホを持たないようにしているのだ。


スマホを持たずに向かっているため歩いている途中暇なので周りを見ながら進む。


2分ほど歩いた時、公園で遊んでいる子供たちの姿が目に入ってくる。


皆元気いっぱいで、見てるこっちも元気を貰える。朝からいいものを見たなぁと視線を外そうとすると、遊んでいた子供の1人が転がって行ったボールを追いかけ車道に飛び出した様子が目に飛び込み、更に向こうから全速力で向かってくるトラックも目に映った。


今ならば子供の背を押し子供を救うことが出来るだろう、と何となく思う。しかしそれをすると自分は死ぬだろうと言う確信にも似た不思議な感覚も同時にする。


全てが遅くなった世界で色々なものを天秤に乗せながら必死に脳を回す。


俺が死ねば、雫も浩介さんも美咲さんも悲しむだろう。仲のいい同僚や、昔からの友人も悲しんでくれるだろう。それなのに、それなのにわざわざ命をかけて見知らぬ子供を救う価値は果たしてあるのだろうか。


いや…そんな価値はないだろう。


そう結論をつけた俺はこの光景を見なかったことにしておつかいを遂行しようとコンビニへと歩を進ませようとする。


「誠!」


母親であろう女性の切羽詰まった声が聞こえてきたと脳が認識した頃には、俺は車道に出た子供を突き飛ばしていた。


驚いた顔を浮かべる子供と迫るトラックを見ながら、なんでこんなことをしたのだろうかと後悔していると全くスピードを落とすことなく勢いよく突っ込んできたトラックに跳ねられ、全身に大小様々な傷を負いながら宙を舞う。


ドサッ


地面に落ちたのだと思う。恐らく。血が目に入ったのか前は見えないし鼓膜が弾け飛んだのか薄らとしか周りの音も聞こえないが。


全身に煮えたぎる様な熱さを感じる。血を流しすぎると熱く感じると言っていたのを1度ニュースで見た事があるが自分の体でなんて確かめたくなかった。


血を流しすぎたせいで薄れていく意識でなんでこんな事をしまったのかと考える。


まぁ恐らく子供を呼んだ女性が母さんに重なって、そんで子供の名前が俺と同じだったからだろう。


本当に雫たちには申し訳ないことをしてしまったと思う。


俺が死んだと聞いた時の雫の気持ちを考えると胸が締め付けられる。


ドクドクと血が流れ、どんどんと後悔の念が大きくなっていく。


皆への懺悔が涙と共に溢れだしてしまう。


ごめんなぁ雫…ごめんなぁ…。お前を置いて死んじまう兄ちゃんをどうか許してくれ…。


父さんも…母さんもごめん…こんなすぐに2人の元に向かっちゃって…もっと幸せな思い出いっぱい作って…2人に話したかったなぁ…。


意識を失うその時まで、雫や親、他の人たちへの懺悔を続ける。


来世があるならこんな事はしたくないなと、最期の最後にそう思った。


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読みやすい文章目指して試行錯誤中です。


モチベに繋がるので感想や星や♥よろしくお願いします。

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