第11話鈍感令嬢

アイラ達三人が保健室へ到着した。


タイミングが悪かったのか保健室の先生が不在だった。


「先生どこへ行ったのかしら」


カミラが先生が不在だと知ると困った表情で言った。


「そうみたいね。でもそれなら仕方ないね。私は大丈夫だし教室へ戻りましょう」


アイラがカミラへ言った。


「ダメだよ!まだ頬が赤く腫れてるのよ?」


カミラが軽い感じで言ったアイラへ慌てて言った。


「そうだよアイラ。きちんと治療しないと」


ヨハネスは心配そうな表情でアイラへ言った。


「ですが」


アイラは困った表情で言った。


「先生が不在だから私が代わりに治療してあげるよ」


ヨハネスが少し考えた表情を浮かべた後にアイラへ言った。


「え?は、はい?ヨハネス様がですか?!」


アイラはヨハネスの言葉に慌てて言った。


「あぁそうだよ?さぁ頬を見せてごらん」


ヨハネスは慌てるアイラへにこりと微笑みながら言った。


「あ、あ、あの。そんな、、ヨハネス様そのようにお兄様の妹だからと気を遣われなくてもだ大丈夫ですので。カミラ!申し訳ないけど先生の代わりにカミラが治療してくれる?」


アイラはにこりと微笑むヨハネスに戸惑いながら言うと咄嗟にカミラの方を向いて助けを求める様な表情を浮かべながら言った。


「え?私?えぇ、それは構わないけれど」


カミラはアイラの言葉を聞いて慌てて応えながらチラリとヨハネスを見た。


(この状況で私がアイラの治療をしていいのかしら)


カミラはヨハネスをチラっと見つつそんな事を考えていた。


「そんな気なんて別に使っていないのにな」


ヨハネスは少し残念そうな表情を浮かべて言った。


「い、いえ。カミラにしてもらいますので本当に大丈夫ですので」


アイラはヨハネスへ慌てたまま言った。


「そうか。わかったよ。ではカミラ嬢お願いできるかな?」


ヨハネスは残念そうな表情で少し間を空けてアイラへ応えるとカミラの方を見てカミラへ言った。


「あ、はい。分かりました」


カミラはヨハネスに言われると頷きながら応えた。


その後、カミラがアイラの頬の治療をした。


頬を少し冷やした後に腫れが引くようにと湿布を貼った。


「アイラ終わったわよ」


「ありがとうカミラ。助かったわ」 


「そんな。これくらいの事。それに私のせいでアイラがこんな目に遭ってしまって申し訳ないわ」


「もうカミラったら。本当に気にしないでって言ってるでしょう?逆にカミラが痛い思いをしなくて良かったわ」


「アイラ」


治療が終わるとアイラとカミラが二人で会話をしていた。


そんな二人の会話をヨハネスは黙って聞いていた。


「あのカミラ、ヨハネス様私トイレに行ってきてもいいでしょうか…?何だか安心したのか急にトイレに行きたくなってしまって」


アイラが恥しそうにヨハネスとカミラへ言った。


「えぇ。構わないわ。ここで待ってるから早く行っておいで」


「あぁ構わないよ」


カミラとヨハネスが応えた。


「ではちょっと失礼します」


アイラは恥ずかしそうな表情のまま二人へそう言うと保健室を出てトイレへ向かった。


アイラが出ていったので保健室にはカミラとヨハネスの二人きりになった。


カミラがヨハネスをチラリと見た。


「どうかした?何か言いたそうな顔をしているけれど」


カミラに見られているのに気づいたヨハネスが言った。


「いや、あの、、もしかしてアイラの事をそのカイル様の妹としてではなく一人の女性として好いておられますか?あ、間違っていたらごめなさい」


カミラはヨハネスに言われると少し悩んだが思い切って自分が思っている事を言った。


「いや間違っていないよ。その通りだ。私はアイラを一人の女性として好意を寄せている」


ヨハネスは少し驚く表情を浮かべながら案外簡単に白状した。


「やっぱりそうでしたか。そうではないかとヨハネス様のアイラに対する行動を見ていて思ったのです」


カミラはやっぱりなという表情を浮かべて言った。


「やはりはたから見ていても私がアイラに好意を寄せているのが分かるよね?この短時間でもカミラ嬢は気づいた訳だから」


ヨハネスが少し悩む様な表情を浮かべて言った。


「はい。そうですね。ヨハネス様やカイル様は特に学園では女子生徒とに対して特別な態度はとらないと有名なので余計にそうじゃないかと思いました。それにヨハネス様は本当に心からアイラの事を心配しているのが分かりましたしアイラへ向ける瞳がとても優しいといいますか」


カミラは自分がヨハネスを見ていて感じたことをヨハネスへ話した。


「私も自分で言うのは何だがアイラに対しては割と堂々と好意を出しているつもりなんだが当の本人にはまったく伝わってないみたいなんだ」


ヨハネスは困った表情で言った。


「あぁ。それは想像がつきますね。アイラは人の事となると敏感なのところがありますが自分の事となると本当に鈍感なところが多いので。特に恋愛に対しては鈍いというレベルではないほど鈍いと思います。自分の兄であるカイル様が学園で女子生徒から人気がある事すら知らなかったようですし」


カミラは苦笑いを浮かべながらヨハネスへと言った。


「やはりそうか。そうではないかと思っていたがカミラ嬢の話を聞いて確信したよ。私の気持ちはどうしたらアイラへ伝わるのだろうか」


ヨハネスも苦笑いを浮かべて言った。


「正直それは友達の私でも分かりません。今よりも更にアイラへ態度や言葉で伝える他ないかと」


カミラは悩む様に考えながらヨハネスへ言った。


「はぁ。そうか。地道に頑張るしかないということか」


「恐らくは」


ヨハネスはため息を付きながら少し肩を落とした様に言うとカミラはに苦笑いを浮かべて言った。


「まぁ地道に頑張るよ」


「はい。私も応援しますので頑張って下さい」


「あぁ。ありがとう」


ヨハネスは苦笑いを浮かべて言うとカミラは頑張れという意味のこもった笑みを浮かべて言った。


「そうだ。アイラが居ないうちにカミラ嬢に聞きたいことがあるんだ」


「はい。何でしょう?」


ヨハネスは急に真剣な表情になりカミラに言うとカミラは??という表情を浮かべて言った。


「先程のジェシカ嬢達の事だ。アイラの頬を叩いたのはジェシカ嬢で間違いないよね?」


ヨハネスがカミラへ聞いた。


「はい。間違いありませ」


カミラは頷きながら真剣な表情で応えた。


「どうしてその様な状況に?」


ヨハネスは更にカミラへ尋ねた。


「はい。それが最初は私がジェシカ様に呼び出されあの場所へ連れて行かれたのです。その後私を探していたアイラがたまたまあの場所を通りかかった際にちょうど私がジェシカ様に頬を叩かれそうになったのです。その光景を見たアイラが咄嗟にその場に割り込み私の代わりにジェシカ様に叩かれてしまったのです」


カミラは今にも泣いてしまいそうな表情でヨハネスへ事情を説明した。


「そうだったのか。カミラ嬢がジェシカ嬢に呼ばれた理由は何だったのだ?」


ヨハネスがカミラの話を聞き目を細め何かを考える様な表情で言うと更にカミラへ尋ねた。


「それが、私は今ランド公爵家のロジャー様と恋愛関係なのですがそのロジャー様がジェシカ様のお友達のシルシ様と婚約をしていてそれを知っているにも関わらず私がロジャー様に近づいていると。爵位の低い家の私がロジャー様に近づく事を許さないと」


カミラはとても不安そうな表情を浮かべてヨハネスへ説明した。


「その様な理由で?」


ヨハネスはカミラの話を聞いて表情を歪めて言った。


「はい。その様な話をされて私の方も混乱してしまって。ロジャー様の事を信じていますが…爵位が低い家の人間だということは事実ですし、もしかしたら本当にシルシ様とは婚約しているのではないかと混乱と不安で押しつぶされそうでした。アイラがあの場に居なければきっと私はあの場で泣き崩れていたかもしれません」


カミラは泣きそうな表情で応えた。


「カミラ嬢心配しなくてもロジャー様とシルシ嬢は婚約などしていない」


ヨハネスが不安げなカミラへ言った。


「え?ほ、本当ですか?」


カミラはヨハネスの言葉に驚き言った。


「ああ。父とロジャー様の父上は昔から仲がいいからよくランド公爵家の話を聞くのだがランド公爵もロジャー様もシルシ嬢がしつこく婚約を迫ってきて困っている様だった。ランド公爵側はきっぱりと断ったからそれが気に食わなくてシルシ嬢が勝手に自分はロジャー様と婚約していると言っているのだろう。ロジャー様には愛する女性がいると前々から聞いていたがそれはカミラ嬢の事だったんだな。だから…安心するといい。ロジャー様が愛しておられるのはカミラ嬢ただ一人だから」


ヨハネスはカミラへ自分の知っている事を話した。


「そうだったのですね。ヨハネス様教えて頂きありがとうございます。本当に本当にありがとうございます」


カミラはヨハネスの話を聞き安心した表情を浮かべて何度もお礼を言った。


「二人が相思相愛で羨ましい限りだな」


ヨハネスはどこか切なそうな表情で言った。


「ヨハネス様もアイラと早く相思相愛になれるといいですね」


カミラがヨハネスの表情を見て言った。


「あぁ。そう願うばかりだよ」


ヨハネスは困り笑顔を浮かべて言った。


「ジェシカ嬢とシルシ嬢の件は私に任せてくれ。こちらで対処の方法を考えるから」


ヨハネスが真剣な表情でカミラへ言った。


「はい。分かりました。よろしくお願いします」


カミラは頷きながらヨハネスへ言った。


その時、トイレからアイラが戻って来た。


アイラはまさか自分のいない間に二人がそんな話をしていた事など知る由もなかった。


「お待たせしました」


アイラは慌てながら言った。


「そんなに待ってないわ」


「そうだよ」


カミラとヨハネスが慌てるアイラを見て笑みを浮かべて言った。


「ヨハネス様、ニーナから手紙を預かったと言っていましたが」


「あぁ。そうだったね。これだよ」


アイラがヨハネスに言うとヨハネスは忘れていたという表情を浮かべてポッケから手紙を出してアイラに渡した。


「ありがとうございます」


アイラは嬉しそうな表情を浮かべてヨハネスから手紙を受け取った。


その後、昼休みも終わりそうだったのでアイラ達はそれぞれの教室へと戻って行ったのだった。


その日はその後が大変だった。


アイラが怪我をした事をヨハネスから聞いたカイルが大激怒したのだった。


家に帰宅する帰りの馬車の中でアイラがカイルをなだめるのは大変だった。


「あのお兄様?私は本当に大丈夫なので気を鎮めてくれませんか?」


アイラが苦笑いを浮かべて混乱気味にカイルへ言った。


「自分の妹が怪我をさせられて黙っていられる奴がいるのか?そんな者いるわけないだろう。帰ったら父上と母上に報告してバーレン公爵へ報告入れをしてジェシカ嬢がアイラにした事をしっかり詫てもらわないといけないな」


カイルは怒りの表情を浮かべて言った。


「お、お兄様!わざわざその様な事までしなくてもいいですから」


アイラはカイルの言葉に思わず焦って言った。


(そんな事をしたら待ってるのは面倒だけって分かってるんだから。ジェシカかは悪役令嬢よ?そんな令嬢が報告だけで反省や謝罪をする訳なんてないんだから。そんな事したって余計に私が目の敵にされるだけだもの。それにジェシカが一番目の敵にするのはローズさんなんだよ?とにかくローズさんの為にもここは穏便に見過ごすのが一番だというのに。あぁ、ヨハネス様ったらお兄様に余計な事を。はぁ。どうやってお兄様に穏便に済ませて貰おうかしら)


アイラは焦りながらそんな事を頭を抱えてを考えていた。


「いいや!ダメだ!」


カイルはアイラの言葉に首を横に振りながら怒りの表情がおさまらないまま応えた。


「お兄様!もしもこの件を穏便に見過ごしてもらえないと私が楽しみにしている街の市で私が作ったものを販売する事ができなくなってしまいます」


アイラは少し考えた後に困った表情を浮かべてカイルへ言った。


「何故、報告する事とアイラのその事が関係するんだ?抗議したってアイラがその市に行く事はできるだろう?」


カイルはアイラに言われて首を傾げながら言った。


「いいえ!報告なんてされたらお互いの家同士で色々と時間を取られてしまいます。そうすると私が裁縫をする時間がなくなってしまいます。そうなると販売できる物の完成が間に合わず結局販売ができなくなってしまうのです!」


アイラは必死にカイルに訴えた。


「しかし」


カイルは必死に訴えるアイラに少し戸惑い困った表情で言った。


「分かりましたここまで言ってもお兄様がバーレン公爵家へ報告するというなら私はお兄様とは絶交します!」


アイラはキッとカイルをふてくされた表情で見ながらきっぱりと言い切った。


「な、絶交だと?!」


カイルはアイラの言葉に衝撃を受けて慌てて言った。


「はい。今後は一切お兄様とは口も聞かないし顔も合わせません!」


アイラは更に強気に出た。


「そんな事を。わ、分かった。分かったから。バーレン公爵家に報告はしない様にするからそんな絶交なんて恐ろしい事言わないでくれ」


カイルが慌てながら困った表情で降参した様にアイラへ言った。


「本当ですか?本当にバーレン公爵家には報告しませんか?」


アイラは再度確認の為にカイルへ聞いた。


「あ、あぁ。本当だよ」


カイルは焦りながら言った。


「分かりました。ありがとうございますお兄様」


アイラはカイルの言葉を聞くとにこりと微笑みながら言った。


「まったくアイラに敵わないかもな。しかしこの件についてはバーレン公爵家へ報告はしないが父上と母上の耳には話を入れておくからね?」


カイルは苦笑いを浮かべて言うとすぐに真剣な表情になりアイラへ言った。


「分かりました。そこは仕方ありません。ですが、お父様達にもきちんとバーレン公爵家へ報告を入れないでとお兄様から釘をさしておいてくださいね?」


アイラが少し悩んだ後に言った。


「あぁ。分かったよ」


カイルは頷きながら応えた。


(お兄様こんな姑息な手を使ってごめんね。でも、こうまで言わないとバーレン公爵家へ報告しそうだったから。さて今日の事を穏便に済ませる事と私がお兄様の妹だって知ったジェシカが大人しくしてくれるかどうかね)


アイラはチラリとカイルを見て申し訳なさそうにそんな事を考えていた。


そして二人が家へ到着してカイルが早速アイラの件をスミスとマリに報告した。


案の定スミスは激怒したがカイルがバーレン公爵家へ報告したら自分がアイラから絶交されるかと慌てて言いどうにかスミスの怒りを鎮めたのだった。



アイラにとって怒涛の一日が終わったのだった。




それから数日が経った。


あれからジェシカがアイラやローズに何か言ってきたり危害を加えてくることはなかった。


もちろんカミラに対しても特に何も言ってきたりはしなかった。


この日、アイラの元へはニーナが遊びに来ていた。


先日、ヨハネスから受け取ったニーナからの手紙にはニーナがアイラの元へといつ訪ねても大丈夫か?という内容だった。


その結果、この日がアイラとニーナのお互いの都合がついた日だったのだ。


アイラが街の市に出店する日が二日後と迫っていた。


アイラの元を訪れていたニーナは楽しそうにアイラの出店に向けての準備を手伝っていた。


「アイラおねえさまこれは何ていうものなの?」


ニーナがアイラが作ったものを箱詰めしながら尋ねた。


「あぁそれはね、押し花のしおりよ」


アイラは微笑みながら応えた。


「押し花?しおり?」


ニーナはアイラの言葉に??という表情を浮かべて首を傾げながら言った。


「ふふ。押し花っていうのはね、その名の通りお花を本などに押し挟んで作るものなの。花はいずれ枯れてしまうでしょ?だからそうなる前に花を残しておきたい時などに押し花にすると花弁はぺたんこになってしまうけど色はきれいなまま花を残しておけるのよ」


アイラが??としているニーナを見てクスッと笑いながら説明した。


「そうなのね。お花をそんな風に残しておく事ができるんだね。本当にアイラおねさまは色んな事を知ってるのね」


ニーナはアイラの話に感心しながら言った。


「そうかしら?あ、それで押し花をそのまま残しておくよりもこうして紙に押し花を貼り付けて上からこうしてのりなどを薄く塗ってコーティングしておくとより押し花を長く保管する事が出来るの。適度な大きさに切ってリボンをつけてこうして本などに挟んで使うこともできるの。これをしおりというのよ」


アイラは更にニーナへしおりを本に挟みながら見せて説明した。


「わぁ〜本当ね。いつも本を読んだ後に次に読むページはどこだったかって探すんだけどその探す手間が省ける上に自分の大切にしたい花も眺める事が出来るなんてしおりって凄いものね」


ニーナはアイラの話を聞いて更に感心した表情で言った。


「そうでしょ?紙で出来ているものなのに万能なのよ。今度ニーナも好きな花があればもってくるといいわ。押し花のしおりを一緒に作りましょう」


アイラは微笑みながらニーナへ言った。


「本当に?やったぁ〜。嬉しいな。楽しみだな〜」


ニーナはとても嬉しそうに微笑みながら言った。


「ねぇねぇ、二日後の市に私もお手伝いで行ってはダメかなぁ?」


ニーナは少しもじもじしながらアイラへ言った。


「え?ニーナが?」


アイラが言った。


「うん。やっぱり私が手伝いにいっても邪魔なだけかな?」


ニーナは少ししょんぼりした表情で言った。


「そんな事ないわよ!ニーナが手伝いに来てくれるなんて心強いわ!ぜひお願いするわ」


アイラが嬉しうに笑顔でニーナへ言った。


(一人での出店が不安だったからニーナが来てくれると本当に心強いわ。ふふ。可愛いニーナと店番をするなんて楽しみで仕方なくなるわね)


アイラはニーナに言いながらそんな事を考えていた。


「本当に?!アイラおねえさまありがとう!」


ニーナは嬉しうに言った。


「こちらこそ!」


アイラは笑顔で言った。


その後もアイラとニーナは楽しそうに作業を進めて行ったのだった。




それからあっという間に二日が過ぎてアイラが市に出店する日が訪れた。


アイラは朝から執事のジャンとメイドのララに手伝ってもらいながら馬車の荷台に荷物を乗せていた。


そこへニーナが乗った馬車がガルバドール侯爵家へと到着した。


そして馬車の中からニーナが降りてきた。


「アイラおねえさま!おはようございます!」


ニーナが笑顔でアイラへ挨拶をした。


「ニーナおはよう!」


アイラも笑顔でニーナへ挨拶をした。


「おはようアイラ!」


馬車から降りてきたヨハネスが微笑みながらアイラへ挨拶をした。


「おはようございます?って、え?!ヨハネス様?!」


アイラは何故か馬車から降りてきて自分に挨拶をするヨハネスに驚き言った。


「驚かせてしまったみたいだね」


ヨハネスはアイラの驚く表情を見てクスりと笑いながら言った。


「え?あ、はい。驚きました。あの、どうしてヨハネス様が?」


アイラはヨハネスに言われると驚いた表情のまま言った。


「あぁ。ニーナにアイラの出店の手伝いをすると聞いてね。街で出店するのは初めてだよね?それなのに女の子二人って言うのは危ないのではないかと思ってね。護衛の意味も兼ねて私も同行しようと思ってね。ダメだったかい?」


ヨハネスがアイラへ説明した。


「え?あ、ダメという訳ではないのですが」


アイラが戸惑い気味に応えた。


(まさかヨハネスが来られるなんて思ってなかったから驚いたわ。きっとニーナから今日の事を聞いてニーナの事が心配なのね。そうよね。ニーナはまだ小さいし変な人に絡まれても私なんかじゃ刃がたたないもんね。大切な妹に何かあったらって考えるとヨハネス様は気が気じゃないものね)


アイラは頭を悩ませながら考えていた。


「ヨハネス?」


そこへカイルがやってきて言った。


「やぁ!カイル!おはよう」


「おはよう。ヨハネスどうしたんだ?」


ヨハネスがカイルへ挨拶をするとカイルは少し驚きながら挨拶を返してヨハネスへ尋ねた。


「あぁ。今日はニーナがアイラの出店の手伝いで街に出ると聞いてね。女の子二人だと危ないだろう?だから私が二人の護衛役をしようかと思ってね」


ヨハネスがカイルへ説明した。


「そういう事か。確かに女の子二人だけだと心配だね。うん、ヨハネスがいてくれるなら安心だな。申し訳ないが二人の護衛をお願いするよ。私は今日予定があって私が付き添うのは難しいからな」


カイルはヨハネスの話を聞くと納得した様に言った。


「あぁ。もちろんだよ。私がしっかり護衛役をするから安心してくれ。カイルはローズ嬢との約束があるのだろう?楽しんできたらいいさ」


ヨハネスはにこりと微笑みながらカイルへ言った。


「あぁ。そうなんだ。悪いな。助かるよありがとう」


カイルはヨハネスに言われると少し照れたように応えた後でヨハネスへお礼を言った。


「あぁ」


ヨハネスが応えた。


「アイラ、そういうわけだからヨハネスとニーナと三人で行って来るといいよ。私もローズとアイラの出店先へ顔を出すから」


カイルがアイラへと言った。


「え?あ、はい。分かりました」


アイラはカイルに言われて戸惑いながらも了承するしかない空気の中応えたのだった。


(何?この流れ。お兄様とヨハネス様だけで勝手に話が進んだけれど。ヨハネスが一緒にいてもし学園の人なんかに見られたらどうするつもりなのかしら。ヨハネス様もそれは困るんじゃないのかしら。でも、妹のニーナの護衛って言えば大丈夫なの?いやでも私はカカオール学園の女子生徒だし。う〜ん。大丈夫なのかな)


アイラはあれよあれよと話が進む中で頭を悩ませながらそんな事を考えていた。


まさか、ヨハネスがアイラとニーナの護衛も兼ねているが街の市でアイラに近づく男を牽制するつもりでいる事などアイラは知る由もなかった。



そして、アイラが不安に思う中アイラ達が乗った馬車は街へと出発したのだった。


馬車の中ではニーナのお陰で明るい雰囲気の中会話をしていた。


会話していたらあっという間に街へ到着した。


到着した三人は馬車を停めた近くのコロ付きの荷台を借りてきて馬車の荷台から全ての荷物を移して出店場所へと向かった。


出店場所に着くと既に沢山の人と沢山の店が並んでいた。


アイラ達はその雰囲気に圧倒されながらもうまく見通しのいい場所を確保する事が出来たのだった。


アイラ達は早速その場所に小さな机に棚を二つ並べた。


アイラは前世でハンドメイドのイベントに出店していた時の様にディスプレイにこだわりながら机と棚に作った商品を並べていった。


(よしこんなものかな。前世のイベントの時のようにとなるべく寄せてみたけどいい感じだわ)


アイラは完成したディスプレイを見て納得のいく表情を浮かべて考えていた。


「アイラはセンスがいいんだね。出店している店のどこよりも寄ってみたいと思うような雰囲気を出しているよ」


ヨハネスがアイラがディスプレイした店を見て感心しながら褒めた。


「本当ですか?!良かったです。そう言ってもらえるととても嬉しいです」


アイラはヨハネスの言葉に満面の笑みを浮かべて嬉しそうに言った。


(嬉しい!ディスプレイを褒めてもらえると嬉しいわ!前世でもディスプレイには本当にこだわってたから)


アイラはディスプレイを褒められた事を素直に嬉しいと思い考えていた。


そんなアイラを見てヨハネスはとてもアイラを愛おしいという目で見つめていた。


そんなヨハネスをニーナがじっと見ていた。


その時だった、、


「アイラ!」


突然、男性のアイラを呼ぶ声がした。


その声を聞いたアイラ、ヨハネス、ニーナは驚き声のする方を見た。


その声の主は、、


王太子であるレオンだったのだ。

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