試行錯誤と救世主のお告げ
目の前の男性陣、四人か……確かに、
でも、こんな人の多いところでトラブルは起こしたくないし、善悪関係なく、管理人につまみ出される。
そうなったら、せっかくの海水浴が……。それに、
「まあまあ、ここは穏便に」
「いや、そうはいかないな。俺たち、一応、チームやっているんで」
さらにまずい。俺は右手を伸ばし、近づいてきた男性の胸に、制止するように手を当てた。肘は伸ばし、身体中の筋肉を押さえ合うように力を込めた。
――ドサッ
目の前の男性が倒れた。
「おい、今、なにをした?」
「いえ、なにも。手をお貸ししましょうか?」
「いや、いい。お前ら、行くぞ」
どうやら「しらける」ことで怒りは収まったようだ。まったく、
「二海、今のなに? どうやったの?」
「
「
「見ての通り。殴ったように見えないからちょうどいいと思って」
「すごいわ、ね、どうやってやるの?」
「今夜、教えるよ」
「フタミン、怖かったよ」
「
「お母さんも一緒」
「じゃ、一度、
「ううん、このまま一緒に遊ぼうよ」
「ね、フタミン、その人、彼女?」
「そうだよ。可愛いだろ?」
「
「
「
「フタミン、最近、構ってくれないから、もう」
また、
引っ張り上げるように軽く抱き上げると、子どものようにしがみついてきた。
「よしよし。あ、そのビーチボール、
「うん、ビーチボール持って海に入ろうと思ったら、さっきの人たちに話しかけられちゃって」
「怖かっただろ? ちゃんと
「でも、お母さん、パラソルの下から動かないんだもん」
「よし、じゃあ三人で遊ぼうか」
俺たちは海に入り、ボールで遊び始めた。
結局、その後、三十分ほど遊び、
ホテルの傍まで戻り、シャワーで砂を落としてそのまま部屋に案内してもらった。
ダブルベッドか、もうちょっと大きいかも。一応、観光地と言うだけあって、ホテルもリッチな作りだ。
「ねえ、二海、どうして喋り方が違うの?」
「どういう意味?」
何か違ったか?
「
「まあ、妹みたいなものだからな」
「私には、あんな風にしてくれないの?」
どこまでどうやって話すべきか……。やっぱり
「
「そう」
「
「ふぅん。でも、他の友だちにもそんな感じだよね」
「まあ」
追い詰められた。
「いいよ。それより、髪の毛、乾かそ」
助かった。そうだ。
「乾かしてやるよ」
「二海が?」
「ああ」
俺はドライヤーを手にすると、
最初は普通に軽くクシャクシャっとする感じ。そして髪全体をほぐすように手を動かしたら、今度は頭皮を乾かす。
七割ぐらい乾いてきたら冷風に切り替えて手櫛で整えていく。
お袋から習った乾かし方だ。お袋は、ルターバックスで働く前は美容師だった。
「気持ちいい」
「そっか」
「私も二海の髪、乾かしてみたい。しゃがんで」
「ああ」
気持ちいい。人に髪の毛を乾かしてもらうのって気持ちいいな。疲れもあってか、眠ってしまいそうだ。
「ねえ、二海、あのさ……」
「ごめん、ドライヤーの音で良く聞こえない」
「なんでもない」
そのまま二人とも服に着替えて、俺は水着を洗った。まあ、家事全般、いつもやっているのでその流れで。
なるほど、ビキニはこういう構造になっているのか。奥深いな。
バスルームから出ると、
「ねえ、二海」
こちらを向いて転がるのをやめると、俺を見上げた。
「私も、その……
これは難題だ……。まず、俺と
前髪を分け、
「二海の髪、私と同じぐらいまで伸びたね。切らないの?」
「ああ、切らない」
「切って欲しい」
「それは……」
変だな。しばらく前にも髪の毛の話をしたが……。
「そうだ、
「ほんと? お師匠様、よろしくお願いします」
「ああ。じゃあ、わかりやすく原理から」
「うん」
機嫌は直ったようだ。俺は、
「デコピンだよ」
「デコピン?」
不意打ちを喰らってポカーンとした表情で、俺を見ている。
「デコピンって、中指を親指で抑えておいて弾くように打つ」
「それが?」
「試しに、親指なしでやってみな」
「あれ? 全然、力が入らない」
「今度は親指で中指を押さえてから」
「うん、あ、痛い!」
「これが
「そして、一気に開放する、それが
「なるほど、お師匠様、参考になりました」
「あと、肘を伸ばしていたけど、あれは?」
さすが
「肘を曲げると力の伝達効率が下がるから」
「ふむふむ」
「俺、すごい筋肉質ってわけじゃないから、肘を曲げた状態で
「なるほど、それは私にも当てはまる」
「ね、二海、まずは夕食前に一回目」
「あ――」
返事をする間もなく
俺は
「続けて」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夕食のバイキングは海鮮料理だけでなく、小さな丼ものやローストビーフもあって豪華だ。残念ながら、岩牡蠣は無かった。
二人で色々な料理の置かれたバイキングコーナーを回り、大きな皿にどんどん料理を乗せていった。そして、テーブルに戻り、二人で手を合わせた。
「「いただきます」」
それ以降、特に会話もなく、無言で黙々と食べ続けた。まあ、蟹があったからそのせいかもしれない。
「お、
「あれ、アズルアロックでお会いした……」
「覚えていてくれたんだ。彼女と一緒、やるね。それはそうと、ちょっと紹介したい人がいるから少しいいかな」
俺は
男性は俺を広間の別の席に連れて行った。女性がひとりで座っている。
「
「あの、そんなに説明しなくても」
「彼女、ボーカリストでね。まあ、あまり知人には会いたくないから、逆に近い方が穴場かなって思ってここに宿泊している」
「そうでしたか」
会いたくないのに俺を連れてきたってことは、どういうことだろう?
「ところで
男性は、俺をじっと見た。
「実は、彼女を紹介することが目的じゃなくて、ちょっと気になったから声をかけたんだよ」
「どういうことですか?」
「広間に入って来た時から君たちに気が付いていたんだが、なにかあったの?」
「いえ、その……」
「二人とも全然、楽しそうじゃない」
「なんとなく気まずくて」
「良かったら話してくれないか。オジサン、経験豊富だぞ」
「わかりました」
男性の秘密を知らされたせいか、俺はあっさりと手短に、ここしばらく
「なるほどねぇ。ちょっと、キスのところ、状況を詳しく教えてくれないかな」
言葉を発したのは女性の方だ。ショートヘア、五十代ってところか。女性にアドバイスしてもらえるのは助かる。
俺は、キスのあたりから、それはもう事細かに、使用済みの『
「君、それじゃダメだよ」
そして、大切、かつ重要なアドバイスを頂いた。セリフまで考えてくれた。
「
「そう」
「
「いい。ちゃんと食べる」
「わかった。じゃ、改めて、いただきます」
「二海が食べているところを見るの、好きだよ」
「そうか?」
「美味しそうに食べるから、ちょっとだけ楽しくなる」
「それは良かった。でも、今日は控えめにしておく」
「その量でセーブしているの?」
「まあ。いつもなら、もう二周はする」
「どうしてセーブしているの?」
待ってたぞ、その言葉。
「そりゃ、部屋に戻ったら激しい運動をするからさ」
「トレーニングでもするの?」
「ジョギング換算で一時間分ぐらいはしたい」
「なにそれ、よくわかんない」
「
「どういうこと?」
「そうだな、マット代わりにベッド。それに、汗をかくかもしれないから、二人とも全裸でエアコンをガンガン効かせて」
「うん」
よかった、正解だ。キスにしろ『
でも、俺は、心から
デザートまで食べ終わると、二人で部屋に戻った。
「二海、もしかしてさ……」
「何?」
「さっきの
鋭い。やっぱり
「よく気が付いたな」
「だって、二海、ステップ踏まないから。不思議に思ってたんだ。それに二海の蹴りって、異常に速いじゃん」
「結構、疲れるが」
「私、すごい秘密を知っちゃった、好き、大好き!」
思いっきりディープなキスをされた。バイキングの最後にデザートを食べたせいか、甘さが口の中に広がる。
そして、そのままベッドに押し倒された。押し倒す予定だったんだが、まあいい。
きっと、いい夏休みになる。
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あとがき
数ある小説の中から読んで頂き、ありがとうございます。
「
ワタクシも空手三段なので、まあ、それなりにうまいこと説明できているのではないかと思います。
アニメやコミックみたいに、光が出るとかそう言った派手なものではありませんが、良かったら、感覚の体験だけでもしてみることをオススメします。
おもしろいなって思っていただけたら、★で応援してくださると、転がって喜びます。
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それではまた!
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