ルビーで機嫌は直ったけど
「ふわぁぁぁ」
隣に座っている
もうすぐ八月、夏休みだ。もうバイトをたくさん入れている。しかし、
正直、やばい。ちょっと海綿体に血液が流れ込む。
「
「それほどでも」
「そっか、エアコン効いているもんね」
俺たちの出身地には海が無い。だから、夏休みには海水浴へ行く予定を入れた。日頃、節約しているから、たまには贅沢をしたい。
そんなわけで、ちょっと古いホテルだが、バイキング料理付きで目の前にビーチがあるホテルを予約した。
とはいっても本当に金が無いので、バス、電車、再びバスで行ける近場の海水浴場だ。車なら一時間ちょいで行けるだろう。
夏休み価格でちょっと高めだが、週末じゃないので多少は安い。
それにしても、割り勘というところが情けない。できれば、しっかり稼いでなんとかしたいものだ。夏休みまであと数日、早く来い来い夏休み。
講義が終わり、
「
「うん、今日もがんばったよ。今日の晩御飯、なに?」
「ハンバーグ」
「時間かかるんじゃないの?」
「いや、今朝、仕込んだから焼くだけ」
「うれしいな、ハンバーグ、ハンバーグ」
七月の誕生日プレゼント以来、まだ不安定感はあるが、
ちょくちょく喧嘩はするが、まあ、翌日にはケロっとしている。
実は昨日も喧嘩をした。どこのハンバーガーが美味いかという、どうでもいい話だ。
俺はあまりファーストフード店に行ったことが無いから、色々なハンバーガーの名前を連呼されて負けた。
トイレは最強だ。悔しくてトイレにこもっていたら、
それにしても、あの時の
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夏休みに入ると、俺たちは早々に海水浴に出かけた。まずは大学まで行って、ロータリーからバスに乗る。
終点は大きな駅なので、そこから電車に揺られて三十分ちょい。
この電車は初めて乗るが、結構な田舎を走っているせいか、気持ちがいいほど線路がまっすぐに続いているところがあった。
「
「ホントだ。こんなところがあったんだね」
さらに電車の終点まで行ってからバスに乗り換えて移動、ようやくホテルに到着。時間は十一時前、チェックイン時間にはまだ早いが、荷物を預かってもらうためだ。
何階建てだろうか? かなり高い。見上げてみると、白い建物が青い空に映えている……が、太陽が窓に反射してまぶしい。こっちが南側なんだな。
ホームページで見た写真の期待値は裏切っていない。古いがきれいだし、明るい感じがいい。
たまにあるんだよな。どことは言わないが、この街に初めて来たときに泊まったホテル、ホームページには綺麗な写真が掲載されていた。
しかし、値段相応だった。まあ、サービスは悪くなかったし、フロントの人も親切だったが、騙された感が大きかった。
俺たちは荷物をホテルに預けると、
「少し歩いたところに、人気のお店があるんだよ。ちょっと早いけど、お昼を食べに行かない?」
「もちろん行く」
食に関しては、とにかく経験したい。何事も経験だ。ホテルから歩いて十五分ほどのところに、たくさんの食堂が並んでいる大きな駐車場があった。
平日なのに駐車場は半分以上埋まっている。
「おお、
「バスからもチラチラ見えていたじゃん」
「いや、波がある海ってすごいな」
「
真っ青な空、太ったタケノコのような形をした入道雲、そして、ちょっと海苔のような香りのする風、そして空に合わせたかのような青い海。
いや、まあ、海ってのはそもそも空が映り込んでいるんだが。
何軒かある食堂から、
でっかいアサリや、ありえないサイズの牡蠣がゴロゴロっと水槽の中に入っていた。
焦げた醤油の香りがする。見ると、大将らしき男性が、店先で牡蠣やアサリ、サザエなんかを焼いている。
「
「いいね」
「岩牡蠣も食べようか。あれ? 『生食は自己責任で』って書いてある」
「運試しで両方」
「いいよ。私、胃袋も強いし」
「『も』ってのは、『夜も』ってことか?」
「違うわよ、空手よ、空手!」
まずは生の岩牡蠣がテーブルに届けられた。殻の上に乗っているとはいえ、でかい。俺が知っている牡蠣と全然違う。なんだかワクワクする。
もう、この時点でまた来たいと思っている。
ここなら、頑張れば自転車でも来れそうだ。マップを見た感じだと、自転車道もそこそこ整備されているみたいだし。
「
「なに?」
「レディーファースト」
さて、なんて返してくるんだろうか。楽しみだ。
「
「なんだ?」
「はい、あーんして」
く、そう来たか。
「まさか、こんなに可愛い彼女が『あーんして』ってやっているのに、断る男はいないわよね?」
意を決して、食べてみた。ん? ちょっと磯臭いが、うまい、めちゃくちゃ美味い。
「
「
何と言うか、プリっとしていて、ツルっとしていて、細かなザクっていう感じがするが硬くない不思議な食感、それに芳醇とでも言ったらいいんだろうか?
うまい。口の中の満足感がすごい。
続いて、焼き大アサリが二皿、テーブルの上に置かれた。
「ところで
「そうなのか?」
「
「まあ」
「これはね、『ウチムラサキ』っていう貝なんだよ。アサリとは生息海域が違うのよ。ほら、貝殻の内側が紫でしょ?」
「そうなんだ、それにしても美味いな」
「あ、もう食べ始めてる、ずるい」
「すごく熱いから気をつけて」
「うん。もしかして?」
「ああ、口の中をやけどした」
「あはは、勝手に食べ始めた罰だよ、きっと」
「はい、お待ちどうさま」
「ありがとうございます」
ラスト、焼き岩牡蠣がやってきた。これまたでかい。サイズは三種類あって、せっかくということで一番大きな岩牡蠣を頼んでおいた。
「なんかね、ここのお店が一番焼き加減がいいんだって」
「そうなんだ」
「じゃ、レディーファーストで私から」
「おう」
「おいしーい!」
「じゃあ、俺も」
箸を殻に当ててしまった。牡蠣の身がプルプルっと揺れる。本当にプリンみたいだ。
「うまい……生も旨かったが焼きの方が美味いかも」
焼き加減が絶妙で、身が硬くなる直前で火から降ろしたんだろう。もう、クリーミーで、濃厚で、しかも口の中、いっぱいになるボリューム、最高だ。
「そこそこお腹、膨れちゃったね」
「ああ、想定外のサイズだ」
「夜はバイキングだし、これぐらいにしよ。ホテルに戻って泳ぎに行こうか」
お店で水をお替りして飲み干すと、俺たちは店を出た。
八月で晴天ということもあり、さらに、さっき食べた岩牡蠣の興奮で汗だくだ。
ビーチはホテルの目の前にあり、ホテルから直接、出ることができる。一応、隣の一般向けの海水浴場とは別管理のようで、プライベートビーチ扱いのようだ。
ホテルの北側がビーチになっているので、疲れたらホテル側に戻って休憩したらよさそうだな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「
「おう、お?」
そういえば、よく、「カモシカのような脚」って言うが、あれはちょっとおかしいよな。太ももが頭で膝の辺りが前足で、つま先が後ろ脚ってことになる。
正確には「カモシカの足のような脚」というのが正しいはず。
どうも、理系脳のせいか、こんなことばかり考えてしまう。
「ね、どう?」
「その、すごく可愛い」
「どの辺りが?」
「全部」
「
「ちょっとエロくないか? なんか、パンツ、結構、低めだぞ」
「ふふーん、興奮した? なんなら夜、水着プレイする?」
「ちょっと、声、大きいぞ」
近づいてくると俺の腕を掴み、胸を押し付けてきた。ん?
「
「もう、そういうことは言わないの」
つねられたおかげで、ちょっと冷静になってきた。
だからこのビキニ姿、余計に興奮するんだ。
「ここはあまり波が高くないんだな」
「ホントだね、おもしろい。でも、泳ぎやすくていいじゃん」
俺たちは小さなレジャーシートを広げてステンレスボトルを重し代わりに置き、サンダルを脱いで海に入った。
海水浴は初めてではないが、滅多に行ったことが無かったのでテンションが上がる。やばいな、テンションが上がると……でも……。
「海、海、海。おい、
「うわ、ホントだ。そういえば来る時に乗って来たバスにも書いてあったね。ってかさ、
「おう」
「でも、私の水着姿は見ないのね」
「それは、その……」
「素直じゃないなぁ」
でも、ここは敢えて
「興味があるのはどっちかな。胸かな? それとも……うふふ」
「全部」
「
「まあ」
「のど湧いたから、一旦、砂浜に戻ろうか」
まずい。海綿体に血液が大量に流れ込んでいる。
「いや、もうちょっと泳いでから」
「やっぱり。興奮してくれているんだ。うれしいな」
悔しいけど、その通り。
「ねえ、あの子、なんか、ナンパされているみたいよ。困っているんじゃないかな」
ホテル前のビーチから少し離れた所のビーチ……恐らく、ホテル管理じゃないビーチなのかな、そこで、女の子ひとりと、男性数人が話をしているのが見える。あれ?
あの子って……。
「ちょっと行ってみようよ。もしかしたら、別にナンパじゃないかもしれないけど。
「
「そうなの?」
「祖母ちゃんちの近くに住んでいる」
「じゃあ、可能性、高いね。行かないとだね」
「ああ」
近づいていくと……やっぱり
名前がバレると後々、面倒なことが多いから。
「あの、その子、どうかしましたか?」
「いやいや、ひとりで暇そうに立っていたから、一緒に遊ぼうかと思って」
男性のひとりが答えた。そんなに悪い奴らじゃなさそうだ。
「でも、未成年の見知らぬ女の子に声をかけるのはどうかと」
「まあ、いいじゃん、こういう所だし」
「それはダメです」
こんなやり取りを続けていたら、なんとなく、男性陣、ちょっと怒り始めている気がする。
――パシッ
手を出したのは
「何すんだよ!」
「しつこいわよ」
「おい、やめときなよ」
「こんな奴ら、ちょろいわ!」
まずい、喧嘩になる。ここでトラブルは起こしたくないな。
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あとがき
数ある小説の中から読んで頂き、ありがとうございます。
「大アサリ」実はアサリが大きくなったものではなく、ウチムラサキという種類の貝です。とても美味しいですよね!
岩牡蠣も、サイズがバグっていて、ビジュアルもよく、牡蠣好きにはたまりません。ただ、シーズンを誤ると味は落ちます。オススメは七月下旬から八月下旬です。
おもしろいなって思っていただけたら、★で応援してくださると、転がって喜びます。
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それではまた!
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