第4話 お騒がせ後輩
「中学生と付き合っているのですけど、ちょっと心配なことがあるんです」
電話に出たのは、若い女性相談員だった。
「へえ。どんなこと?」
「『卒業生による学校説明会』に去年、呼ばれたんです。熱心に訊いてくる子がいまして、帰った後、どこで調べたのか、ボクの家に電話があったんです。
『もっと詳しく聞かせてください』
って」
電話で長い間、話した。
「うわ、先輩の高校、行きたくなっちゃった。先輩、勉強教えてくださいませんか」
結局、後輩の家に行くことになった。
後輩も母子家庭だった。母親は昼間、勤めに出ていた。
後輩は薄いブラウスに短パンという軽装だった。熱心に質問してきた。
二回目に訪問した時はすっかり打ち解けていた。
心なしか、胸をはだけ、脚も大きく開いている気がした。つい、胸元に目が行ってしまう。短パンの奥にはパンティが見えていた。
「休憩しましょう。コーヒー淹れてくるね」
後輩は部屋を出て行った。
改めて部屋を観察した。小さな衣装ケースがあった。一番上の引き出しに、きちんとパンティが折り畳まれていた。そっと手に取ったが、後輩が戻る気配がしたので、慌てて戻した。
三回目。休憩しながらコーヒーを飲んでいると、後輩はいたずらっぽく笑って言った。
「ねえ、先輩。この前、私のパンティ触ったでしょ」
Ⅹの顔が真っ赤になった。
「でも、先輩なら、許してあげる。中身が見たい?」
いきなり、後輩は立ち上がって、ポロシャツと短パンを脱いだ。
女性の体は見慣れているつもりだった。
妹も母親も、風呂から出た時など、素っ裸で部屋を歩いていた。妹は小学校三、四年になると、さすがにⅩの目を意識し、全裸というのはなくなったものの、母親は相変わらず大胆だった。
後輩はブラジャーを外した。Ⅹは息を呑んだ。次いで、パンティに手をかけた。
「先輩も裸になってよ」
言われるまま、Ⅹは一糸まとわぬ姿になった。
「あなたたち、まさか!」
女性相談員は悲鳴に似た声をあげた。
「大丈夫です。避妊具を使いましたから」
Ⅹが初めて口にした単語だった。Ⅹは不思議に落ち着いていた。
「そんなもの、持ち歩いてるの!」
「いいえ。後輩が机の奥にしまってあったのです」
相談員の呼吸が速くなった。
「それで、何が心配なの?」
相談員は気を取り直したようだった。
「ボクが行くたびに、後輩が迫ってくるのです。ボクはずっと罪悪感に苛まれていました。そのことを話すと
『私のこと捨てたら、死んじゃうから』
って」
後輩は真剣だった。
Ⅹの前に左腕を突き出した。リストカットした跡があった。
Ⅹは後輩を抱きしめた。離すと、机からカッターナイフを取り出しかねない気がして、いつまでも抱きしめていた。
「その子、あなたに会えて、良かったのかもね。辛いことがあったのでしょうね」
相談員は涙声になっていた。
「お姉さんは独身?」
Ⅹは相談員に興味を持った。
「ええ、独身よ」
「なぜ相談員になったの?」
しばらくして、重い口を開いた。
「私もね、手首に傷跡があるの。大学三年の時だったわ。彼氏に裏切られて。発作的に切っちゃったの。気が付いたら救急病院だった。
『あるいは、この世の人間ではなかったのかも』
と考えると、ベッドでガタガタ震え出したわ」
後輩の姿が重なった。
「あら、もうこんな時間。相談員はプライベートなことしゃべっちゃいけないんだけど、今日はつい…。あれが、相談員になろうと決意した原点だったのよ。立ち戻らせてくださり、今日は本当にありがとう。また、お話したいわね」
Ⅹはなかなか電話が切れなかった。
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