「第8話」ズリパンプロレス
中休み、俺はアポロちゃんに無理やり校庭に連れて行かれた。
「逃げずにちゃんと来たってことだけは褒めてやるよ」
鉄棒の前には例のポニテちゃんが仁王立ちのまま腕を組んで待っていた。
「余裕ぶっかませるのも今のうちだぞ」
殺意マシマシのアポロちゃんが、俺に対して「そこで私があいつをぶち殺すところを見てろ、おすわり」と言ってきた。俺は適当にわんわんと鳴き、石段の上に腰を掛けた。
「ところで、勝負の内容は?」
「ふふっ……聞いて逃げるなよぉ?」
アポロちゃんが問うと、ポニテちゃんはニンマリと笑った。確かにこいつはなにで勝負するのかを言っていない……嫌だな、もしかしたら俺の金玉を蹴り飛ばして一番大きい悲鳴を出させたやつが勝ちとかじゃないよな?
「ズリパンプロレスだ!」
「望むところだ!!!」
「待てや」
振り返る馬鹿女二人に俺は思わずSTOPを繰り出す。
「なんだよ、なんで止めるんだよオモチャのくせによ〜」
「御主人様に対してその口の聞き方はなんなの? 去勢するよ?」
「野蛮すぎるだろお前ら! まず女子の口からズリパンとか聞きたくなかったし、アポロお前もまずちゃんと嫌がれ否定しろそして完膚なきまでに拒否しろ馬鹿!!!」
一週間前のD◯Oジ◯ジョ勃ち事件を思い出し若干のトラウマを抉られている俺は、ポニテちゃんはともかくアポロちゃんのそっち側の認識を思わず疑った。
「大体! 俺がここで見てたらその……お前が脱がされた時見えちゃうだろうが!」
「は? お前私が負けるとでも思ってるの? ぶっ殺すよ?」
この野郎、マジでバーサーカーなんじゃねぇの?
「いい犬じゃん、御主人様の貞操守ろうとしてるんだから。あ、もしかしてお前らそういう仲なの〜?」
「なっ……!?」
いざ言われてみると中々に心臓にきつい。確かに、これだけ距離感もお互いにやっていることのレベルも高い……いやこれ、あれ? 本当に実質──。
「そんなわけねぇだろ、気持ち悪いこと言うなよ」
アポロちゃんはそんな俺の淡い期待、今までほんのりと抱いていた感情を一言で踏みにじった。
論外だ、と。
ありえないだろ、と。
「そうなん? アタシはてっきり……そういう関係かと思ったんだけど?」
「誰がこんな、こんな気持ち悪いの……こいつはただのオモチャだよ」
そんなことより勝負しようよ。
そう言って、アポロちゃんとポニテちゃんはプロレスのための土俵を、靴でグラウンドの地面を削って円を描き始めた。
(……そんなこと、か)
俺が傷ついていることを知っているのは、俺だけでいい。
血の味がする唇を噛み締めながら、俺は土俵の中で退治する二人のうち……胸の奥にずっしりと重いものを残している彼女の美しい横顔を眺めていた。
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