第48話 【◯月✕日 晴れ クッキー】
飛ばし飛ばしではあるが、俺はベロニカさんの日記に目を通していく。
そこには彼女の恐怖、焦り、涙……そして俺達を好きになってくれるまでの過程がゆっくりと書かれていた。
暴力に怯えて、大声に怯えて、明日に怯えていたベロニカさん。
そんなベロニカさんが未来に希望を持てるようになるまでの過程だった。
涙で滲んでいる箇所もあった。破り捨てられている場所もあった。イライラしているときもあった。怯えているときもあった。
彼女の心に触れたようで……言葉では形容できないような気持ちになった。
次の手帳に移るたびに、明るい話題が増えていく。
サザンカさんと遊んだ。ローズさんが笑った。アマリリスがプレゼントをくれた。ギンと趣味の話をした。
ナナと恋の話をした。母さんと未来のことについて話した。感謝を伝えた。
そして俺と……他愛もない会話をした。意味のない、俺は覚えてもいない日常会話。
それらがすべて彼女にとっては特別だった。はじめて出会った自分を傷つけない家族という存在だった。
……
少しずつ読み進めて、ついに10冊目。今年の日記に到達した。
【◯月✕日 晴れ 10年目】
『今年はアタシが屋敷に来て、10年目らしい。ローズさんに言われて気づいた。
当日にはお祝いしてくれる、という話だったが断らせてもらった。
祝ってくれるのは嬉しい。でも10年目である今年は、アタシから恩返しがしたい。
なにかプレゼントをしよう。
なにがいいだろうか。
そうだ。クッキーでも作ろうか。
きっと喜んでくれる』
【◯月✕日 晴れ クッキー】
『隠れてコソコソ試作を繰り返して、なんとか完成した。
試作に夢中になってたら、掃除当番を忘れてしまった。
みんなは笑って許してくれるけど、忘れちゃダメ。しっかり仕事もしないと。
クッキー。美味しくできたと思う。
明日、みんなに配ってお礼を言おう。
アタシと家族になってくれて、ありがとう。
この幸せな毎日が、できる限り長く続きますように』
……
日記はそこまでだった。次のページからは白紙が続いていた。
……
クッキー。
俺は机の上にある袋を1つ開けてみた。
甘い匂いがした。
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