第34話 失格なのでしょうね
母さんの言葉によって場の空気が引き締まった。
苦しみから目を背けるのではなく、解決のために傷つく覚悟をした、というところだろう。
「ライラック」母さんがイスに座り直して、「成り行きを説明しなさい。全員に伝わるように、ね」
「……」俺は立ち上がって、重たい口を開いた。「ことの発端は……ギンが俺を襲った日から始まります。侵入者がいたってのは嘘で――」
俺は俺の知っていることを包み隠さず説明した。
ギンが俺を襲ったこと。
この世界はゲームの世界であること。
今のギンは別の世界から来たこと。
アマリリスとベロニカさんは、別人になってしまったこと。
解決方法はまったく思い浮かばないこと。
そして……
俺がこの屋敷の人間を皆殺しにする未来がある、ということ。
……
それらすべてを話した。俺の知っている情報はこれがすべてだった。
いつもなら言葉の途中でサザンカさんが茶化してくれたり合いの手を入れてくれたりする。しかし今は……彼女にもそんな余裕はないようだった。
何度も言葉に詰まったが、俺は説明を終えた。途中でナナが助け舟を出してくれて助かった。
「……俺が知ってるのはこれだけです……なんの解決方法も、思い浮かびません」
冷たい沈黙が流れた。それも当然だろう。いきなりこんな話をされても、どんな感情を抱いていいかわからないだろう。
ローズさんは真剣な表情で話を聞いていた。
サザンカさんは少し苦しそうな表情でうつむいていた。
フィオーレは珍しく困ったように周囲を見回していた。
ギンは憮然とした表情だった。
ナナは目を閉じていた。
そして母さんが、
「ローズさん……」
「……なんでしょうか」
「向こう半年の仕事をすべてキャンセル。先方にそう伝えなさい」
その言葉に俺が反応する。
「母さん……それは……」
「仕事などあとから取り返せばいい。私にはその能力がある」
「……でも、信頼とか、あるんじゃないのか……?」
「……でしょうね」母さんは弱々しい笑顔を見せてから、「仕事よりも家族を優先。そう最初に思ってしまう私は、商売人としては失格なのでしょうね」
そんなことは思わない。今だってうちの家を支えてくれているのだ。
母さんは続けた。その瞳からは強い意志を感じた。
「私の家族を傷つける輩は許しません。私の家族を傷つけさせることは許さない。これ以上家族は失わない。絶対に……失ったものは取り戻します」
失ったものは取り戻す。
……
……
俺だってそうしたい。でも……方法がわからない。
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