第24話 手の届く位置にあるんだから
家族だと思っていた。ベロニカさんのこともアマリリスのことも、ギンのことも。
そりゃ苦手な部分だってあるし、全部が全部好きなわけじゃない。ケンカしたことだってあるし、気まずくなった時期だってある。
ベロニカさんとアマリリス。独特な人だったけど、いつも俺に優しかった。だから俺も彼ら彼女らのことが好きだった。
血はつながっていないけれど、家族だと思っていた。ギンのことだってそうだ。
そんな3人が……いきなり別人になってしまった。
……
そんなこと、受け入れられるわけがない。
「返してくれよ……」怒りの感情がなければ、泣いていただろう。「ベロニカさんと、アマリリスと……ギンを返してくれよ……!」
ベロニカさんはただ冷たい目線だけを送ってきていた。
俺は勢いのままに続けた。
「頼むよ……! ゲームの世界だとか選択肢だとか……そんなこと言われても、俺にはわかんねぇよ……」俺の常識を超えた事が起こっている、ということしかわからない。「なんでもするから……どんなことでも成し遂げてみせるから。だから……俺の家族にもう一度、会わせてくれよ……」
俺の脳裏にベロニカさんの声が蘇ってきた。
――またね~――
あれが最後の言葉になるのか……? 俺が聞いたベロニカさんの最後の言葉?
あの間延びした甘ったるい声を二度と聞くことができない?
ギンのときにだって思った。でもあのときは、まだなんとかなると思っていた。いつかギンは戻ってきて、家族みんなで暮らせると思っていた。
でも……もう3人だ。3人も別人になってしまった。姿だけが同じ別人になってしまった。俺の知らない別の人間になってしまった。
……
……もうアマリリスの、あの変な言葉も聞けないのか……? 朝食のときに聞いた彼の声が、最後になってしまうのか……?
……
そんなことにさせてなるものか。
体が熱い。顔が熱い。怒りという感情が熱となって放出されているような感覚だった。
俺がベロニカさんを睨みつけると、
「怖い怖い」その顔で下品な笑いを浮かべるな。「さすがに……屋敷の住人を皆殺しにするやつの迫力は違うな」
「……俺はそんなことはしない……」……ハズだ。「お前……目的は?」
「それは簡単。フィオーレが好きだから、奪って逃げる」単純明快だ。「ここにいたら……お前に殺されるから。だから逃げるんだよ」
「……俺はそんなことはしない……」
なんで俺が家族を殺さないといけないんだよ。なんで……
ベロニカさんは上機嫌に続ける。
「私は……このゲームが大好きなんだ。商業ゲームと比べても上位に来るほどには好き。そんな世界に私が参戦できた……ならば……欲しいものは力ずくで手に入れるさ。目の前に、手の届く位置にあるんだから」
……
欲しいものは力ずくで。
意見が対立したのなら、それしかないな。
「なら、俺も力ずくでいかせてもらおう」俺は軽く準備体操をして、「アンタをとっ捕まえて、家族を取り戻す方法を吐かせる」
「それは無理だ」ベロニカさんは悠々とした表情で、「だって私は……この世界に来るにあたって、素晴らしい能力を授かったのだから」
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