第2話 この世界はゲームの世界だ
ギンに命を狙われて、そのままその場は解散となった。
さすがに大勢に見られている場面で俺に切りかかってくるわけじゃなさそうだった。そのことに安堵しつつ、俺は妹であるナナとメイド長のローズさんに目線で合図を送る。
この場は解散とするが、警戒は強めてほしい。そういう合図である。
メイド長のローズさんは軽く礼をして、その場を立ち去った。おそらく俺の意図は通じただろう。そもそもあの人ほど優秀なら、俺が合図を出す必要もなかったかもしれない。
しかし……相変わらず優雅な所作だなぁ……10歳くらい年上だけれど、見とれてしまう。俺が18だから、彼女もまだ28のハズだが、所作としてはもっと大人びて見える。
大抵の人間が自室に戻って、
「……お兄ちゃん……」
ナナが不安そうな表情を向けて来たので、
「大丈夫だ。明日……詳しいことは話すよ」
「ダメだよ」ナナは強い口調でそう言って、部屋の中のイスに座った。「ここで話を聞かせてもらう」
「……おい……」
「なにがあったのか知らないけど……お兄ちゃんに手を出すやつは許さないから。たとえそれがギンランさんでも」
「……だから窓の外から知らない男が――」
「鍵がかかってるのに? 窓も割らずに入ってきたの? 幽霊でも見たって言い訳してみる?」
ごまかしは通じないみたいだな。
というより……大抵の相手にはバレていただろうな。とくにローズさんはごまかせるような相手じゃない。俺の親にしたってそうだ。
さて……というわけで、部屋の中には俺とナナ、そしてギンが取り残された。
ギンは剣を抜いたまま俺を睨みつけていた。しかしナナがいる手前、あんまり暴力的なことは見せたくないようだ。かなり大人しくなっている。
俺はベッドに腰掛けて、
「さて……ギン。ちょっと話を聞かせてもらおうか」静かな夜だ。大声を出す必要もない。「……なんで俺の命を狙ったんだ?」
ギンは憎しみの目を変えずに、
「それを知ってどうするんだ?」
「……傷つけてしまったのなら謝る」それしかできない。「俺の知る限り……ギンランって男は無意味に人を傷つける男じゃない。まじめに礼儀正しく、この屋敷で働いてくれていた」
それでも俺の知らないところでストレスを溜め込ませてしまっていたのだろうか? だとしたら申し訳ない。
だが……俺とて簡単に殺されるわけにはいかない。俺は家族を守らなければならないのだ。
俺は言う。
「ギン……お前、言ってたよな? 『お前さえいなければ』とか……『ハッピーエンド』がどうとか……」
寝起きだったのと、突然の出来事に混乱していたのと。それらが相まって詳しくは覚えていないけれど。
とにかくギンは意味不明なことを口走っていた。しかし……あの必死の形相。ただ寝ぼけていただけ、とも考えづらい。
ギンはしばらく剣を構えたままだった。しかしこの状況で暴れても勝ち目がないことはわかっているようで、すぐに剣を収めた。
それから、
「お前……ライラックだろ? ロベリア家の長男、ライラック・ロベリア」
「……? なんで今さらそんなこと……」
ギンはこの屋敷の使用人だ。仕えている家の者の名前など、今さら確認するか?
ギンは今度はナナを見て、
「そっちは……ナナコだろ。ナナコ・ロベリア」
「……」言われたナナは首を傾げて、「そうですけど……」
「……なるほど……ショートカットの黒髪美少女。普段は優しげだが、凄むと怖い。情報の通りだな」
妹を美少女と言われて悪い気はしないが……
「情報ってなんのことだよ……」俺は言う。「情報も何も……見慣れてるだろ?」
ギンはこの屋敷で数年も働いている。今さら主人の容姿を確認することもない。
ギンは俺を嘲笑するように笑って、
「察しの悪いお前に教えてやるよ」
「おう。助かる」
察しが悪いのは自覚している。
挑発が通じなかったギンは一度舌打ちをしてから、
「この世界はゲームの世界だ」
「……」突拍子もない事を言いだしたとしても、驚いた様子を見せてはいけない。「……ゲームの世界……? それは、どういうことだ? トランプとかってことか?」
「……そうか……この世界ってPCゲームとかはないのか……」ギンは頭を抱えて、「そこからの説明かよ……面倒だな……」
面倒なのはこっちだよ。なんで殺されかけた挙げ句、面倒に思われてるんだよ。
ともかく……1つわかったことがある。
やっぱりコイツはギンじゃない。
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