宇宙を見上げたらそこには猫がいた

ガラドンドン

宇宙にでっっかい猫がいた

「宇宙にでっかい猫がいます!」


某国某所天文台職員は、最初報告者に休みを取らせようとした。

曰く、天体観測中宇宙で寛いでいる猫を見つけた。毛づくろいをして、すやすやと寝たり。ぐるりと転がったり。伸びをしている。距離を考えれば、太陽も目じゃない位にでかいとの事。

皆が疑い笑う中。まぁ見て見ようかと、疑い十割で宇宙を観測してみた。


いた。宇宙に猫が確かにいた。なんなら星をつついて転がして玩具にしてる。あっ、今別の星に当たって砕け散った。

真っ白に輝く白い毛並み。黄色い真ん丸の目。相対的に考えずともとんでも無いでかさの猫だ。

実際に観測した者は頭を抱えてぶっ倒れた。当たり前だ。宇宙に猫がいたら誰だってそうなる。

猫好きな職員は取りあえず宇宙猫の画像をありったけ撮影し始めた。何度確かめてもそこにいる。ポージングまで変わる。


天文台はパニックに陥った。

え?これどうやって国に報告する?なんて言えば良いんだ?なんで猫が?猫なんで?昨日まではいなかったよね?

酸素は?何食べて生きてんの?無重力状態の筈なのに自由自在に宇宙を駆け回ってるように見えるけど?

あらゆる疑問点が沸き上がったが、当然解決される事は無かった。解決できずともそこに猫はいるからだ。


宇宙猫の報告を押し付けられた担当者は、取りあえず全てを諦めて、あるがままを上に報告した。この報告者も一度休みを取る様勧められた。


上の人間達も困り果てた。天文台の職員達が一斉に錯乱でも起こしたのかと思われたものの。職員達は至って正気であったからだ。提出されたあらゆる報告内容が、宇宙に猫がいる事を指し示していた。


これは一体、国民達にはなんと説明をしたものかと。宇宙に猫がいるなんて事を大真面目に発表する訳にもいかない。

その国の重役達や研究者が集まり、厳かな雰囲気の中で宇宙に猫がいる話について議論し始めた。


様々な意見が出たが。最終的に、まぁ、宇宙にバカでかい星を玩具にする猫がいるだけだしな、と。国は取り敢えず発表しない事にした。

こんな事を世論に発表したとしてどうするんだ?と言う諦めと呆れの見解が大半を占めていたらしい。


翌日。世界中から宇宙に猫がいると報告が上った。民間人等が、SNS等に写真を上げたようだった。

世間には最初、何かふざけた事を言っているとしか受け取られなかったが。次々と上がる証拠写真に、大手メディアも報道を加熱させ始めた。

世間で飛びかう報道に。国も社会も、猫が宇宙にいると認めざるおえなくなった。

仕方が無いだろう。実際、宇宙を覗けばそこに猫がいてしまっているのだから。各国首脳が宇宙にでかい猫がいる事を、報道陣に囲まれながら発表をした。


公に認められると。世界中が宇宙猫について熱狂し始めた。

四六時中宇宙で寛ぐ猫を観測する人間や、大真面目に宇宙猫を研究をする人間が現れ始めた。


何を食べているのか?は直ぐに解明された。宇宙を漂う無数の隕石群や小惑星を食べていた。カリカリご飯のようにかき集めてカリカリと。水分は宇宙の水素ガス等を舐めているようだった。

ならばやはり食料や水分が必要な存在なのかと問われれば、全くそう言った食事等をとらない日も続き。必ずしも必要の無い習性のようだと結論付けられた。

なんなんだ!と研究者は匙を投げた。大真面目に研究すれば研究する程訳が分からないのだ。仕方も無かった。つまり結局未解明であった。


なんで宇宙空間で生きていられるのか?の疑問については、猫は神秘的な生き物だから宇宙でも生きられるんだと言う説が出た。

宇宙に行った猫ならいるけど、宇宙空間に放り出された猫はいなかったよね?と詭弁を弄する金持ちが強く主張していた。


いやいや、あれは宇宙人から人類に対する、猫の形をしたメッセージだと主張する者。

猫は神様であり、猫神様が顕現した姿だと主張し。宇宙猫を祀る新興宗教も大量に産まれた。

今猫が動いている姿は、距離的に云十年以上前のものなのだとロマンを馳せるものもいた。あの猫は長い長い年月を、孤独に生きているんだなと寂しく思う者さえいた。

なんで光ってない筈の猫の姿が届くんだ?実は輝いてる?と言う疑問には皆目を逸らした。


ある時、例の詭弁金持ちが発表をぶち上げた。

曰く、『猫宇宙射出プロジェクト』。猫が宇宙空間でも生きる事が出来る証明をするのだとか。その為に生きた猫100匹をロケットに乗せ、宇宙に放り出すと言う余りにもふざけたプロジェクトだった。

当然批判が殺到したが金持ちは執拗に諦めず。猫愛好家の妨害に合いながらも最終的に、一匹の猫がロケットに乗せられ宇宙に旅立つ事になった。黄色と緑のオッドアイをした、ロシアンブルーの子猫だった。


猫好きの人間達は、無謀を超えて狂気、というかアホ……バカ……の行いに嘆き哀しみ。世界的に名前と姿が知られる事になった、その猫ちゃんが掘られた銅像をつくったりした。

猫宇宙射出プロジェクトは決行された。ロケットと共に、猫も宇宙空間に放り出された。

アホ金持ちは猫ちゃんに、生存を確認できる首輪型高性能発信機をつけていた。だが、その発信機は猫を放り出した後直ぐに途絶えてしまった。


当然の結果だ……と、金持ちには以前以上の批判や、なんなら殺害予告まで舞い込んだ。想像される猫ちゃんの惨い末路に、流石のアホバカ金持ちも応えたのか。全国の動物施設に超多額の寄付等を行った。


数日後の事だ。いつも通り、毎日宇宙猫を観測していた人間は宇宙を見上げた。


猫。増えてた。二匹に。二匹で星を突っつき合ってた。

しかもどう見ても、金持ちが宇宙に射出した猫の姿だった。首には発信機らしい首輪もつけていた。

なんで?どうして?と全世界混乱に陥った。つまり?猫が宇宙に生身で行くと?でっかい猫になる?何言ってんの?

この結果には当の金持ちも困惑したが、猫ちゃんが生きていたらしい事には心の底から安堵を浮かべたとの事だった。彼はちょっと本気で、猫ちゃん宇宙生存出来る説を信じていただけのおバカだったのだ。


ともあれこれを機に、宇宙に猫ちゃんを射出する事は世界的に禁じられる事になった。

当然だろう。バカスカ猫を宇宙に飛び立たせれば、宇宙猫が大量に増えかねない事になってしまう。そんな事になればどうなってしまうのか、一切予想がつかないからだ。と言うか、一匹ですら訳が分からないのにそれを増やさないで欲しい。と言うのが世の権力者達の本音だった。


ともあれ、宇宙の彼方では二匹のでっかい猫がじゃれあい。時に星で遊び始め。時に小惑星やらガスやらを奪い合い。のんびりと穏やかに過ごすようになった。

一部の人間はその姿に微笑みを浮かべ、もう宇宙に一匹で無くなったねと喜んだ。


いつのまにか宇宙猫は常識になり、人々の間でも大きくは取りざたされないようになった。勿論、今日の宇宙猫、等のニュース番組等は毎日放送されるようにはなりはしたものの。何も地球の生活に大きく影響を与える訳でも無し。

宇宙にいるでっかい二匹の猫は、人々の日常となっていた。


だが。

事前に宇宙猫の存在を知っていたものと、毎日宇宙猫を観測していた者だけがその異変に気付いた。

猫、なんか近づいてきてない?と。


秘密裏に報告を受けた世界中の機関は大慌てになり、各国で協力しての対策機関を設けた。

当然だ。これまではどれだけ猫がでかくとも、この星には関係が無かったのだから。なのに突然、その存在が脅威になる可能性が出て来たのだ。

世間に公表は避けたいが、いかんせん余りにも多くの人間が宇宙猫の事を観測している。パニックになる事は避けられはしないだろう。

しかも、二匹が意図してなのか気まぐれなのかは分からないが。追いかけっこ、所謂猫の運動会を始めると。周囲の星を置き去りにして、とてつもない速さで近づいたりする日すらあるのだ。

間違いなく光の速さは超えています。と言う研究者は白目を剥いた。


どうすれば良い?どうしようも無くない?と議論は踊った。宇宙から迫りくるでか過ぎる猫二匹とかどうすれば良いんだよ。デカ過ぎてあの質量に効く兵器とか地球に無いよと。

関係機関が手をこまねいている内に、恐れていた事態が起こった。マスコミの手により、宇宙猫地球接近の報道が為されたのである。

世界中パニックに陥った。当然だ。あの猫達の主な遊び道具が何か、最早地球人類皆知っていたのだから。猫に祈りを捧げるもの。我も宇宙猫ならぬ宇宙人間になるのだと宇宙に逃亡を図る者等。猫の手なら悔いは無しと、様々な阿鼻叫喚が世を制した。


人類が騒いでいる内に気づけば。地球から肉眼で、猫二匹が目視出来てしまうようになっていた。青い筈の。夜の筈の空を、猫の顔と目と毛が人類の視界を塞いでいた。

光を超える速さで近づいて来ていた猫達だった。気付いた後のそれは一瞬だった。


二つの余りにも巨大で、もふもふの塊が。計4つの眼を、地球の眼前で向けていた。地球の表と裏。それぞれを挟みこまれて。二匹の猫が囲むように眺めていた。

人類はかろうじて自分達を見るそれを、猫の瞳だと認識出来た。


白い毛並みの猫は、地球を見て尻尾を振り。長すぎる尾が太陽系の惑星達を撫で。

ロシアンブルーの猫はオッドアイの瞳を向けて、くんくんと地球の匂いを嗅いでいた。


人類は、このまま猫に玩具にされて地球は滅びるんだと。誰もが覚悟をした。家族を、恋人、愛猫を愛犬を抱きしめ。最期の審判を待つ事になった。各国機関も諦めた。例え核であったとしても、それこそ毛程の効果も見込まれないからだ。辛うじて宇宙外に脱出する人々はいた。


人類は待った。巨大過ぎる猫のもふもふと目玉、鼻に地球ごと覗きこまれながら。震えて待っていた。いつ気まぐれな猫に玩具にされるだろう。或いは牙で噛み砕かれるだろう。

その瞬間に絶頂をするだろうと確信している変態もいたが。殆どの人類は恐怖で、目を閉じた。


ふと気づくと、二匹の猫は消えていた。陰も形もそこには無く。空にはもふもふでは無く、いつも通りの青空が広がっていた。

誰も説明は出来なかった。元々説明がつく存在ですら無かったのだから。


只々皆喜び。こう記録には記された。


宇宙にでっかい猫がいた。猫達は、地球を前にしていなくなったと。

これを記した人間は。未来の人間は信じる事は無いだろうなと苦笑いをした。


ともあれ。世間を騒がせに騒がせた宇宙のでっかい猫の話題はいつしか過ぎ去り。人々は猫とかとも暮らしながら、以前通りの日常を過ごしていた。


そんな時。某国某所で、一見の報告が上った。


「アマゾン雨林にでっかい二匹の猫がいます!」



猫、地球に降り立ってたらしい。

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