第2話

「ところで、その喋り方何とかならないのか?ずっと気になってたんだ。」


「その喋り方っていうのは...こういうのかい?」


どことなく気取ったような、ドラマやアニメでしか見たことがない話し方をしている。それこそ、爽やかなイケメンや文字通りの王子様の話し方に似ている。


「そう。それだ。その話し方しなかったらプリンスなんて呼ばれなかったんじゃないか?」


「ボクもそう思うんだが、残念ながら昔からこの話し方でね。中学生の時は、何も言われなかったから普通だと思ってたんだ。」


龍宮の両親は、この話し方をちょっとでも矯正しようとは考えなかったんだろうか?言い方は悪いが変な喋り方ではあるはずだ。


「だったら、プリンスとか言われでした時に、一般的な話し方に変えればよかったのに。」


「気づいた時にはもう遅かったよ。それに、話慣れてないと上手く言葉が出てこなくて、このままいくことにしたのさ。」


確かに一理ある。慣れていることほど使いやすいものは無い。たとえ、龍宮が話し方を変えてもそのうちボロが出ていたと思う。


そうなってしまうと、龍宮の恐れている自体になってしまうことは容易く想像できる。人というのは自分の理想を人に押し付け、それが壊れるのを酷く嫌うからな。


「まあ、お前がどんな喋り方してようと、どうでもいいか。俺には関係ない話だしな。」


関係あるのは俺じゃなくて、勝手な期待を寄せる他人だし。その期待に応えようとしてる龍宮に口出す必要は無い。


「君は悩みとか無いの?そう例えば、ボクが悩みを話してる時にしてた恨めしそうな表情の理由とか。」


「そんな表情してねえよ。気のせいだろ。」


「いいや、気のせいじゃないよ。ボクがどれだけ人の顔色を伺って生きていたと思ってる。」


胸を張って言うことじゃないと思うが、俺が恨めしそうにしてたというのは認めてやってもいい。


「それを俺が話さないといけない理由は無いだろ。」


だけど、それを話すとは限らない。俺にだって話したくないことの一つや二つくらいある。


「ボクの秘密を知ったんだから、君の隠してることを教えてくれても良いんじゃないか。」


「だから、ちょっとだけでも教えてくれと...」


「その通り。」


言わんとしてることは分かる。交換条件のようなものだろう?ボクの秘密を知ったからには俺の秘密を聞かせて欲しい。と...


「ダメだ。俺にもお前と同様に色々あるってこった。」


「その色々を聞きたいと言ってるんだが...余計な詮索は辞めておこうか。」


龍宮に深入りして欲しくないというのもあるが、こればっかりは気軽に話せるものでもない。


「そうしてくれると助かるよ。もし今後より良い関係が築けたなら俺から話すことくらいはあるかもな。」


「その時を待つことにするよ。」


まあ、俺と龍宮がこっから仲良くなることはほとんど無いと言っていいと思ってる。俺とコイツは真逆の人間だからな。当然相容れない。


それは、龍宮も分かっているだろう。でなければ、強引にでも俺から話を聞き出そうとしたはずだ。龍宮はそういう人間だと偏見を持っている。


「他に聞きたいことは無いかい?」


「どうしたんだ?」


「...?ああ!これを機に仲を、深めようかと思ってな。君は何も話してくれそうに無いからな。ボクから距離を詰めようかと。」


まあ、そういうことなら...とはいえ、龍宮にあんまり興味が無い身としては聞きたいことなんてパッと出てこない。


「そうだなぁ...あ、聞き忘れてたけど、結局かっこいいものよりも可愛いものの方が好きなのか?」


俺はコイツが可愛いものの方が好きだと思ってるけど、明言されてなかったのでちょっと気になった。


「ん〜、どうかな?かわいいものも好きだけど、かっこいいのも好きなんだよね。」


「それで、どっちなんだよ。」


「...優劣はつけれないな。ただ、ストリート系の服も着たいし、フリフリのスカートだって履きたい。かっこいいって褒められるのも嬉しいけど、かわいいって褒められてもみたい。そこに差は無いな。ありのままの僕を見てくれる人がいて欲しい。」


「なるほど。」


なんか、わかった気がする。学校でずっと履きたいスカートも履けず、ズボンを履き続けてるから休日は可愛くオシャレがしたいってことだな。


それで、休みの日にめいっぱい可愛くオシャレをしたら俺とぶつかって、正体までバレてしまったと。なんて災難な。可哀想。


「望む答えは得られたか?」


「ああ、よくわかった。苦労してるんだな。」


「君とぶつかったのが運の尽きだったよ。」


「どんまい。」


労いを込めて親指を立てる。


「他人事じゃないんだぞ。誰のせいでこうなったと思ってるんだ?」


「だから、話くらいは聞いてやるって言ってんだろ。」


「一週間無視され続けたがな。ボクも流石に悲しかったんだぞ。」


「しつこかったもんな。」


普通は一週間も無視したら話しかけてこなくなるもんだと思うんだけどな。


「話聞くって言って無視しする方がおかしいんだ。」


「聞くって言っただけで、話をするとは言ってないからな。」


「そう言われればそうなのか?」


「そうだよ。」


「だったら、ボクが悪いな。」


納得しちゃったよ。屁理屈捏ねただけなのに納得したらダメだろ。


「俺、お前が将来悪い奴に騙されないか心配になってきたよ。」


「ボクが騙されるはず無いだろう。何を言ってるんだ君は。」


そんなに自信満々に言われても信用ならん。今の感じだと屁理屈捏ねたらコロッと行ってしまいそうだからな。少なからず関わった奴が悪人に騙されて...なんてことは避けたいので、これはなんとかしたい。


「あ、もうチャイムが鳴ってしまったよ。今日の昼休みこの一週間で一番楽しかったな。」


「まあ、そうだな。」


女子に共感を求められた時は素直に共感しておけと古事記に書いてあったので、適当に頷いておいた。


すると、龍宮は満足そうに教室に戻って行ったので恐らくは正解を引くことができた。


「俺も戻るか。」


購買のパンの袋をポケットに突っ込んで重い腰を上げた。


放課後、担任の先生に話しかけられた。


「調子はどうだ?」


担任の難波なんば先生。一年生の時からお世話になってる先生で、教師歴四、五年目の眼鏡をかけている比較的新人の冴えない先生だ。


「ぼちぼちっすね。いつもと変わんないです。」


「そうか。ところで、最近龍宮と一緒にご飯食べてるな。仲良くなったのか?」


難波先生はあまり表情が変わらなければ、話すテンポも変わらない。俺としては助かる限りだが、他の生徒たちからは受けが悪い。


「仲良くは無いです。ちょっと知り合ってそれで、構ってちゃんされてるってだけっす。」


「そうなのか?それで、話してみた印象はどうだった?」


偽っても仕方ないので率直に述べる。


「贅沢な奴って感じすかね。俺とはちょっと相容れないっすね。」


「先生は結構相性いいと思うんだけどな。大和と龍宮。似たもの同士だと思うぞ。」


先生の言葉に耳を疑った。俺と龍宮が似たもの同士?先生の言葉を初めて信じられなかった。


「それは、無いですよさすがに。俺とアイツが似たもの同士なんて。」


「大和が言うんならそうなのかもな。まあ、俺としては大和と龍宮が楽しくやってそうで安心したよ。」


楽しくやってる...俺はアイツとの会話を楽しんでるつもりは全くない。それなのに、その言葉を否定する気にはなれなかった。


「何はともあれ、何かあったら相談に来い。いつでも相談に乗ってやるから。」


それだけ言い残して先生はそこを去っていった。他人がどう評価していようとかっこいい先生だと俺は思う。

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