第23話 ホワイトの恐ろしい復讐劇
ゴリラ隊長が率いる元王国軍兵士部隊と反逆軍ノンスタンスとの争いは、佳境を迎えようとしていた。
「...」。
剣を構えて二人を警戒するハリガネ。
「え~とぉ~? 」。
そして、頭を掻きながら魔導書を構えるホワイト。
(デイもダメージを負っているとはいえ、グレネードや火炎とかの危険物が懐に隠してある事を考えると迂闊に近づけないな。でも、室内で使うわけはないだろうし...。穴を開けたところから奴等が逃げようとしても、ここは六階だしな~。それに、魔獣に乗った騎兵隊がこっちに気づいてきたら二人共逃げられまい。今の俺に出来る事は、魔力を使い兵器を隠し持ってる奴等を用心しながら逃がさないよう足止めしておく事だ。...それにしてもなぁ~)。
ハリガネは後ろ足の
そのデイは懐から包帯を取り出し自身の手に巻いて治療を施していたが、眉間にしわを寄せたまま明らかに苛立ってる様子が垣間見えていた。
(しかし、何なんだ...? 緊迫感も殺気も感じないこの状況はかえって不気味だな...。それに、ホワイトもアジトに乗り込んだ時に何度かは出くわしたけど、知らない部分も多いから要注意だな...)。
ハリガネがそう思いながら、デイとホワイトを警戒していた時...。
ドガァドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!
ドガァドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!
ハリガネ達のいる部屋付近から凄まじい爆撃音が鳴り響いた。
(...ッ!! ヤマナカ達が近くまで来たな...ッ!! )。
味方は周囲に設置されたデイが建てた防壁の存在に気づき、部隊で一斉に防壁を攻撃しているようだ。
「おい、早くしないと俺の仲間達が来ちゃうぜ? それともグレネードのピン抜いて一緒に天国逝く? 」。
ハリガネは不敵な笑みを浮かべて、親指で部屋の扉を差した。
「あ、俺は死にたくないから防壁使うね」。
「マジか...。とは言っても、俺もまだ死にたくないからな~。ま、グレネード投げられても壁穴にホールインワンすれば良い事だしなぁ~! どっかの誰かさんが穴開けてくれたからさぁ~! メガネ、お前スコア記録しとけよ~? 」。
「あいよ~! 」。
ハリガネはメガネとジョークを交わしながら、剣を使ってゴルフスウィングの素振りをして余裕な姿勢をデイに見せつけていた。
案の定、二人の挑発的な態度にデイは苛立ちを隠せない様子で舌打ちを繰り返していた。
「つーか、いつまで魔導書見てんだよ。反論する暇あったら、ちゃんと魔法覚えとけっての。ろくに覚えられねぇで...。こんな切迫した状況下でダラダラと魔導書見ながら唱えようとしやがって...。この、のろまがぁッッ!! 」。
デイはホワイトから視線を逸らしながら小声で愚痴を零し始めた。
「...っっ!! 」。
デイの棘ある言葉に、ホワイトはぴくっと肩を動かして反応していた。
(呑気に敵前で包帯巻いてるお前が言う事かよ...。まぁ、こんな場面で冗談言い合ってる俺達も俺達なんだけどな。せいぜいお前等は仲間達がなだれ込んでくるまで、ずっとそのまま喧嘩してろよな)。
ハリガネは心の中で呆れながらも、冷静な表情でデイを見つめていた。
「...ケッ!! 何を偉そうに...」。
ホワイトはデイを睨みながらそう吐き捨てた後、魔導書に視線を戻して詠唱を始めた。
「“まだ食べてる途中でしょうがっ”!! 」。
ホワイトが魔導書の開いている箇所を手でかざし、詠唱するとそこから白い光が放たれた。
魔導書をかざしたホワイトの手は白い光に染まり、その手の人差し指でデイを差すと指から魔光が放たれデイに直撃した。
(変な詠唱っ!! 一体どんな魔法だよっ!! )。
魔法を発動させたホワイトは、身構えるハリガネとメガネを余所にデイの方へ小走りで歩み寄り...。
「オルァァァァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! ボケェェェェエエエエエエエエエエエエッッッ!!! 」。
ボカァッッ!!
ホワイトは怒鳴りながらデイの顔面を力一杯殴った。
「...ッッッ!? 」。
ホワイトの奇行に目を丸くするハリガネとメガネ。
顔面を殴られたデイは微動だにしていない。
「ゴルァァァァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! クソがぁぁぁぁあああああああああああああああッッッ!!! ボケェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!! 」。
ドスッッ!! ドスッッ!!
ホワイトは蹴飛ばし、床に倒れたデイをそのまま足で踏みつけ始めた。
(な、何だ一体っ...!? )。
ハリガネは困惑した表情でやりたい放題のホワイトを見つめた。
「よしっ!! 」。
ホワイトはそう言うと、満足げな表情を浮かべてデイから離れた。
「ぬうッッ...!? 俺は何故倒れているんだッッ!? こ、これは一体どういう事だッッ!? 」。
デイは即座に立ち上がり、狐につままれたような表情で辺りを見回していた。
「な、なんてことやぁぁぁぁああああああああああああああッッッ!!! わしの魔法がきかぁぁぁぁあああああああああああああんッッッ!! 」。
突然、ホワイトは驚愕した表情で声を上げた。
「し、しかも...デイを吹き飛ばしたっっ!? な、なんちゅうスピードやぁぁぁぁあああああああああああああああああッッッ!! 」。
「えっ...? 」。
ホワイトの言葉に、ハリガネは困惑した表情を浮かべた。
「ん...そうか。なるほどな、どうやら思いもよらぬスピードで攻撃されたようだな...」。
“一連の出来事を知らぬ”デイは頬を手で押さえながら、ハリガネに微笑を浮かべた。
「あ、ああ...」。
“一連の出来事を知っている”ハリガネは複雑な心境で苦笑いを浮かべた。
「“まだ食べてる途中でしょうがっ”!! 」。
ホワイトはもう一度同じ魔法を発動させた。
「...」。
デイは微笑んだまま動かない。
そして、ホワイトは再びデイの方へ足早に歩み寄り、懐から火炎瓶やグレネード等多数の兵器を取り出した。
「はいっ!! いらんいらんっ!! 」。
ホワイトはそう言いながら、デイから没収した兵器を腕一杯に抱えて...。
ゴト...ッ!! ゴトッ...!!
「えっ...!? 」。
それらをハリガネの足元に置いた。
「...ん? な、なぁ...ッッ!? 」。
静止していたデイは再び動き出し、ハリガネの足元にある大量の兵器を見て愕然としていた。
「うわぁぁぁぁあああああああああああああああああああッッッ!!! えらいこっちゃぁぁぁぁああああああああああああああああッッッ!!! 目にも止まらんスピードでデイの武器を盗みよったでぇぇぇぇえええええええええええええええッッッ!!! 」。
再び驚愕するホワイトは尻餅をついて、さっきと同様の小芝居を打ち始めた。
「なんちゅうこっちゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああッッッ!!! デイが一気に無防備になってしまいよったでぇぇぇぇええええええええええええええッッッ!?!? 」。
頭を抱えて“迫真の演技”をするホワイトを見て、さすがのメガネも苦笑を隠せなかった。
「お、おう...。ど、どんなもんじゃい...」。
ハリガネも困惑しつつ、ホワイトに合わせる事にした。
「クッッ...!! お前、そんな力を秘めていたのか...ッッ!! 単独で行動した分のケチがついてしまったか...ッッ!! クソォ...ッッ!! 」。
デイは歯を食いしばり、握り拳を壁に叩きつけて心底から悔しがっている様子をハリガネ達に見せた。
「ま、まぁ...。頭領の単独行動は良くないわな...(憐れというかピエロというか...)」。
一部始終を見ていたハリガネにとっては、そのシュールな光景がとてもおかしく思えて吹き出しそうになったが何とか堪えていた。
「“まだ食べてる途中でしょうがっ”!! 」。
ホワイトは再び動きを封じる魔法を発動させ...。
「...クククッッ!! 」。
魔法により動きを封じられたデイをやりたい放題できる事を良い事に、ホワイトは笑いながら彼の人差し指と中指を鼻の穴に差し込んで悪戯をしていた。
「ブフ...ッ!! 何してんだお前...クククッッ...!! 」。
ハリガネとメガネはホワイトの悪行を見て思わず吹き出してしまった。
まるで修学旅行で寝てしまった友達に悪戯をする学生である。
「フゴォオオ...ッッ!? 」。
「“まだ食べてる途中でしょうがっ”!! 」。
魔法の効果が切れるとデイは鼻を突っ込まれたことに狼狽し、その瞬間にホワイトが再度発動させるとそのままの状態で静止した。
「ギャハハハッハハッハハハハハーッッ!! 」。
「アッハッハッハッハッハッハーッッ!! 」。
「ダハハハハッハハハハーッッ!! 」。
デイの醜態を目の当たりにした三人は、その場で手を叩きながら爆笑した。
とても戦場で敵同士が遭遇しているとは思えない光景だ。
「“まだ食べてる途中でしょうがっ”!! ...うりゃぁぁぁぁあああああああああああああああッッッ!!! 」。
ボゴォッッ!! ドガァッッ!!
「“まだ食べてる途中でしょうがっ”!! ...オルゥゥゥアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。
ガンッッ!! ドゴォッッ!!
「どうじゃぁぁぁぁああああああああああああああああああッッッ!!! この魔術を習得するのに多くの時間と金を用したんじゃぁぁぁぁああああああああああああああああッッッ!!! 俺はこのチャンスを待てたんじゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああッッッ!!! 」。
ガゴォッッ!! ドスッッ!!
「散々ワシをこき使いおってワレェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!! やるべきことのほとんどを俺に丸投げしおってぇぇぇぇええええええええええええええッッッ!!! 日頃の恨み晴らしたらぁぁぁぁああああああああああああああああッッッ!!! 」。
ボゴォッッ!! ゴッスッッ!!
ホワイトは動きを封じる魔法を使いながら、日頃の鬱憤をデイにぶつけていた。
「お、おいおい...っ!! 敵側の俺がこんな事言うのもアレだけど...。な、何してんだよ色々とっ...!! つーか、そのヘンテコな魔法は何だよっ!? 」。
困惑するハリガネは、暴走するホワイトを見かねて呼び止めた。
「この魔法は見ての通り、特定の相手の時間を止められる魔法でしてねぇ~。色んな国を旅して研究と練習を重ね、ようやく最近になって発動出来るところまでになったんですわ~。でも、まだ完全にマスターしてへんから魔導書が無いと発動出来まへんね~ん。動きも十秒ちょいくらいしか止められまへんから、まだまだ鍛錬が必要ですわぁ~」。
ゲシッッ!! ゲシッッ!!
ホワイトは動きを封じられたデイを再び殴り倒し、足で踏みつけながらそう答えた。
「でも、一時的とはいえ人の動きを止められるのは凄いな。ポンズ王国の魔術師とかもこういう魔法使えるのか? 」。
ハリガネはメガネに視線を向けてそう問いかけた。
「いや、使えないと思うよ。てか、相手の動きを封じたり自由を制限したりする行為は、正当防衛とか正当な理由が無い限り法律で禁止されてるよ。そういう魔法って悪用されやすいし、場合によっては現行犯逮捕の事由になるね~。年配の魔法使いとかは分からないけど、俺等とかの代の人間は教わる事すら出来ないはずだよ。それに、静止系の魔法取得も結構難しいからね~。まぁ、国外とかで学ぶ機会は...無きにしも非ずかもしれないけどね~」。
メガネはホワイトが各階から持ってきたであろう、隅の机に山積みされた魔導書を眺めながら答えた。
「実は魔法陣を改造したり製作したりしてオリジナルの魔法を作るのが好きですね~ん。さっきのオリジナル魔法はまだ不完全だけど、他にも色々なオリジナル魔法がありまっせ~」。
「へぇ~!! さっきの魔法も自分で開発したのかぁ~!! それは凄いなぁ~!! それじゃあ、何か所か塞いであった扉もオリジナルの魔法で強化したわけ? 」。
メガネは感心しながらホワイトに問いかけた。
「いえいえ~、あれは捨てられてた魔導書とか拾って色々と実践や勉強をして身に付けたものですね~ん。ウチらノンスタンスのメンバーは指名手配されてるから各国の図書館とか、よう使えまへんでね~。せやから、知識も技術もツギハギなんですわぁ~」。
メガネの問いにホワイトは笑顔で答えた。
バキッッ!! ドスッッ!!
椅子を使ってデイを殴打しながら...。
「俺は使った事は無いから体感が分からないんだけど、こういう魔法って結構高度だと思うから魔力とか大分消費するんじゃないか? 」。
「そうなんですわ~。せやから、あんまり乱発し過ぎるとすぐに空っ欠にな...あっ!? 」。
魔法の効力が切れた事もあり、デイがよろめきながら立ち上がった。
ホワイトにフルボッコされていたデイの顔はすっかりパンパンに腫れ上がり、口や鼻からの出血もおびただしい。
「ふぉうふぁ...ふふぁふぁいふぁふぇふぃほほはおふぁふぇはふぃふぁんふぉほへへひふぁふぁらふぁ...。ふぉへははひいはふぉふぉっへははははらふぁひはら...(そうか...不可解な出来事はお前が時間を止めていたからか...。それは何が起こってたか分からないわな...)」。
もう、デイの顔は腫れて変形してしまったせいで顔の表情が分からない。
「あれ...っ? あれれっっ!? ま、魔法が発動しないっっ!? 」。
ホワイトは目を丸くして後退りしながら動揺していた。
「あ、魔力が無くなったんだな~」。
メガネは肩をすくめてそう呟いた。
「...」。
デイは手の関節を鳴らしながら、一言も発せず赤い魔力を体内から放出し始めた。
「ヤバいっ!! ヤバいっ!! えぇ~!! あぁ~!! ...あっ!! これだっ! これしかないっっ!! “何が出るかな~”!! 」。
ホワイトは慌てて魔導書のページをめくり、即座に魔法をデイに向けて発動した。
(だから、何だよっ!! さっきからそのヘンテコな詠唱はっ!! )
白い光が魔導書から再び放たれ、目にも止まらぬ速さでデイに直撃した。
「ぐっっ...!? 」。
魔攻を受けたデイは、ぐったりとこうべを垂れた。
まるで、何かに取り憑かれたかのように...。
「な、何だ? 一体何の魔法だ? 」。
怪訝な表情を浮かべるハリガネは、うなだれるデイの様子を見ながらホワイトに問いかけた。
「え~と、“何が出るかな~”は、正直何が起こるか分からへん魔法なんですわ~」。
「何が起こるか分からない...? 」。
「この魔法は少ない魔力で引き出す事が可能なんですけど、発動される魔法はランダムなんですわ~。だから、どんな魔法が出るかは出す方も分からんのですわ~」。
「何だよ、その楽しそうな魔法は...。それで、一体どんな魔法なんだ...? 」。
ハリガネは黙り込んでいるデイを怪訝な面持ちで見つめながら、ホワイトにそう問いかけた。
「う~ん、まだ効果出てないみたいやし...。もしかして不発...」。
「グォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!?!? キエエエエェェエェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!?!? 」。
「...ッッ!? 」。
黙っていたデイが突如、天に向かって奇声を上げ始めた。
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