第21話 スェコム、してますか?
王立図書館六階の通路。
ハリガネとメガネは扉の前で悪戦苦闘していた。
「...おいッ! コラァッ! 早くしろやぁッ! まだ開かねぇのかよッ!? 」。
ハリガネはアサルトライフルを構え、辺りを警戒しながら小声でメガネを急かしていた。
「ちょっと、あまり急かさないでよ~! それに俺達みたいな専門魔術師でも、王立施設の魔法陣解除って複雑で簡単に解除出来ないんだからさぁ~! 特殊な魔法陣だからシェルター施設の魔法陣みたいにバツ書き込むだけじゃ消えないんだよぉ~! 」。
「チッ...!! しかし、まずい事になったなぁ...。こんな事態とはいえ、ヤマナカ達が王国のセキュリティを力ずくでこじ開けて突撃するハメになっちまうとはな...。魔法陣で強化した建築物を物理的に破壊した奴なんて、俺は初めて見たよ...」。
「うん、俺も初めて見たよ...。カメアリ先輩も加担してたとはいえ、兵器だけで魔力をゴリゴリに削って扉ごと破壊しちゃうなんて...。しかも、あんな短時間で...」。
メガネは冷や汗をかきながら扉に描かれている魔法陣を消そうと、慌ただしく指先を動かしていた。
「ハリガネ、魔法陣を解いたよ」。
「オーケー、ちょっと
ハリガネは、そう言いながら扉の前に立った。
そして、人がいないか扉の傍で聞き耳を立てながら気配を確認した。
(...? 施錠されてないぞ...? )。
不審に思いつつハリガネは剣を抜き、音を立てずドアノブを捻った。
そして扉を一気に開けたと同時に、素早く前転しながら部屋に入り敵の有無を確認した。
(夜は暗くて見えづらいはずなんだが、おそらく騎兵隊の爆撃だろうけど各所で炎上してるから周辺が明るくて助かるわ。まぁ、被害を受けた側からしたらたまったもんじゃないけどな~。え...と、この室内にノンスタンスのメンバーはいなさそうだな...)。
ハリガネは剣を構えながら外部からの攻撃を警戒しつつ隅を確保し、窓越しから外を確認した。
「クリア、扉をロックしてくれ。窓から外へ姿を晒すな」。
「大丈夫だよ~。窓も魔法陣かかってるから頭撃ち抜かれる心配はないよ~。さっきみたいなハチャメチャなことをしない限りはね~」。
メガネはそう言いながら扉を閉め、手早く魔法陣で入口を塞いだ。
「一応、姿は外から晒さないでおけよ? 常に敵がいることを想定しておかないとな。てか、さっきの扉鍵かかってなかったぞ? 一体どうなってんだ?? 」。
「いやいや、少なくとも公共施設や上中流階級の邸宅では金具鍵の扉なんてもう使わないよ。都市でも民間人の住居は施錠魔術が一般的なんだって。お前みたいな時代に取り残されたアナログ戦士だけだよ。未だに金具鍵使ってる人間なんて」。
「マジかよぉ~!? 」。
「それで、資料室で何をするんだよ~? 」。
メガネはハリガネと窓から外を覗き見しながら問いかけた。
「ここは場所的に隅だし人目に付きにくいんだ。しかも、ここからだと見晴らしが良くて時計塔や街全体を見渡せられるし、外の状況が確認しやすいからな。さっき、ヤマナカ達にはここら辺は俺達が探索しておくから他を回れって言っておいたし、この辺には来ないはずだ。...ところでお前、通信魔法使える? 本部の方には連絡出来るか? 」。
「ああ、現場と本部に交信出来るようにしてあるよ。今は本部も各部隊も現場が混乱してるから交信を遮断してあるけど」。
「オーケー、ここからデイや他のノンスタンスメンバーをサーチして軍と連携を取っていく形でいこう。戦闘は先輩達やヤマナカ達に任せておけばいいさ」。
「なるほどっ! 偵察かっ! 」。
「軍と連携を取れる立場になれば、色々と言い逃れが出来るはずだ。つまり、俺達は派手なアクションをせずに王国軍に有益な情報を提供して協力的な姿勢を見せれば、今回の件は免じてるくれるかもしれん」。
「無理矢理参加させられたって供述出来るよなっ! 特にハリガネは直属の部下だったから断れないしなっ! 」。
「まぁ、あれだ。俺達は何とか要領良くやっていく必要があるっていう事だな」。
「そうだね~。何とかこの場をやり過ごすしかないよね~」。
「とにかく、他の戦闘部隊でこなせてない部分を俺達が補いつつ、情報を通じて王国軍と部隊双方をバックアップしていけば良いと思う」。
「あ~! だったら通信じゃなくて拡声魔法を使った方が良いわ。さっき軍が警告した時、音声が街中に響いてたじゃん? あれはスピーカーじゃなくて、拡声魔術で各所配置している魔法陣から音声流してるからね。それだったら、敵を見つけた時に隊長側も把握出来るでしょ? 」。
「へぇ~! お前、そんな魔法とかも使えんの? 」。
「一応、王国軍の魔術師ですからね~! 」。
メガネは得意げに自身の胸を叩いた。
「なるほどな~。てか、今更だけど本当に窓も強化されてるんだな~。へぇ~」。
ハリガネは窓を剣の先端で小突くと、光り輝く魔法陣が姿を現した。
「...」。
それを見ているメガネが腑に落ちない表情で首を傾げていた。
「...ん? どうした? 」。
ハリガネがそう問うと、メガネは両腕を組んで考える仕草をした。
「...やっぱり違うんだよな。あの正面の扉に設置された魔法陣とは」。
「...え? 」。
「正面を施錠してた魔法陣は公式の陣形じゃない。あの時、どうもおかしいなと思ってたんだよ。あんな陣形有り得ないからさ~」。
メガネは神妙な表情を浮かべてそう答えると、ハリガネは眉をひそめた。
「そんな変な陣形だったのか? 俺はそっち専門じゃないからよく分からないんだけど...」。
「魔法陣がまず描いてある陣形は古い形式だし、使われてる言語がポンズ王国の公式じゃないんだよ。それに、王国の魔術師だったらあんな魔法陣の描き方はしない。あれは明らかにおかしい」。
メガネをそう答えると、ハリガネは表情を曇らせた。
「つまり、何者かが入口に設置した魔法陣を解いて図書館へ侵入した後、再び魔法陣で入口を塞いで人を入れないようにしていた。...という事は」。
「ここにノンスタンスのメンバーがいる可能性は大いにあるという事になるね」。
「いや...」。
そう言って納得した様に頷くメガネに対し、ハリガネは首を少し横に振った。
「それだけじゃない...。扉一つを火力のある兵器の集中攻撃でやっと破壊出来たくらいだ。当然、そいつは実力もあって...。ここは図書館だし...」。
「何か心当たりでもあ...」。
メガネがハリガネに問いかけようとした時...。
ドガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!
バガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!
突如、館内から爆発音と銃声が響き渡った。
「...やっぱりいたかッッ!! 」。
爆音が響き渡る中でハリガネは足早に扉の前へ立ち、耳を澄まして室外の戦況を確認した。
「エネミッッ!! エネミッッ!! フォーフロアッッ!! フォーフロアッッ!! 」。
「...なるほど」。
ハリガネは神妙な面持ちでヤマナカの叫び声を聞き取り、急いでメガネの下へ戻った。
「メガネッッ!! 拡声魔法ッッ!! 」。
「了解ッッ!! 」。
メガネは自身の手の甲から赤色に光る魔法陣を呼び出した。
ハリガネはメガネの手の甲に輝く魔法陣を顔に近づけて言葉を発した。
「ESッッ!! ESッッ!! SK4ッッ!! SK4ッッ!! メンバーッッ!! ドアロックッッ!! メンバーッッ!! ドアロックッッ!! 」。
ハリガネがそう言った後、外部から射線に入らぬよう窓から外の様子を確認していた。
「専門用語久々に聞いたわ~。こういう有事以外使わないから施設のアドレス以外忘れちゃってたけど...」。
「敵発見と場所言って、それで隊員に敵が外へ出られないよう入口の方回れだな...ん? 」。
ハリガネが外を見ると、数人の兵士が図書館に突入していくのが見えた。
「あ、ディメンション先輩の班だ」。
ライフルのスコープで窓越しを確認するディメンションと目が合い、ハリガネは手を振って挨拶した瞬間...。
ピシュッッ...!! ピシュッッ...!!
「うわぁっっ!! 」。
ハリガネが慌てて窓から頭を引っ込めた。
「あっぶねっっ!! 撃ちやがったよっっ!! しかも地味にサプレッサー付けてたし...」。
ハリガネは恐る恐る窓から外を覗くと、ディメンションは笑いながらからかうように大きく手を叩き人差し指を自身の眼に差した。
そして、ディメンションは続けて片手の人差し指と親指を立てて自身のこめかみに当てていた。
何やらハリガネにサインを送っているようだ。
ハリガネは申し訳なさそうに何度か頭を下げ、拳を握って自身の胸を叩くジェスチャーをした。
それを見たディメンションは笑いながら手を振り、図書館の中へ入っていった。
「何のサインだったの? 」。
「『お前もそこで籠ってないで参戦しろ。偵察してるんだったら不注意に顔を出すな。撃ち抜かれるぞ』って注意されたっぽい。それで、俺がすいません気を付けますってな感じで返してたんだよ」。
「ちょっと、戦闘部隊のコミュニケーション手荒過ぎな~い? 」。
「実弾撃ちこむコミュニケーションがあってたまるかっ!! 」。
「ははは、確かに...」。
メガネが苦笑してハリガネにそう相槌を打った時...。
キィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン...ッッッ!!!
「...ッッッ!!!」。
ハリガネは何者かの気配を即座に感じ取った。
(近くに気配がするッ!! ...てか、今まで何で感じ取れなかったんだッ!? )。
神経を研ぎ澄ませて敵の居場所を感じ取ろうとするハリガネの様子を察し、メガネが近づいてそっと耳打ちしてきた。
「...隣の部屋に通じるあの扉。あそこから誰かが魔力を今使ってる気配がする」。
「...分かった」。
ハリガネは声を押し殺して返事した。
「...味方に知らせなくて大丈夫? 」。
「...敵の始末が先だ。あっちは俺等に気付いてるか分からないが、逃げられるかもしれないしアナウンスしたらバレて隙を作らせて攻撃されちまうからな。相手の動きを封じてる時に拡声魔法で応援要請頼むわ」。
「...分かった。気を付けて」。
「...おう」。
ハリガネは忍び足で扉に近づき、音を立てずドアノブをそっと捻った。
(この扉は魔力で施錠されてない...。敵は奥か)。
ハリガネは利き手の右手で掴んでいる剣の柄を握り直し、扉の前で耳を澄ませて人の気配を確かめた。
(足音がしない...。魔力を使っていると言ってたし、もしかしたらドアの前でスタンバってるのかもしれないな。こんな興奮する気持ちは久しぶりだな...。迎え撃っているなら...いいだろう...。俺がぶった斬ってやるよッッ!! )。
ハリガネが微笑を浮かべて目を爛々とさせる様は戦士の闘争心からか、この緊迫した境遇を楽しんでいるように思えた。
バァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!
ドアを一気に開け、先程と同様に勢い良く前転しながら部屋に突入した。
ハリガネの視界に入ってきた一人の男は白装束を身に纏い、壁に魔法陣を描いている途中であった。
驚いた様子で振り返る男に臆せず、ハリガネは相手の射線から逃れるように素早く前転しながら軸足を使って飛びかかった。
「逃がすかぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。
「うわぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?!? 」。
一気に距離を詰めてきたハリガネに対し、男はとっさに両手を前に突き出した。
ガァァッッッキィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン...ッッッ!!!
ハリガネが縦に振り下ろした長剣は、男が召喚した白く光る防壁と衝突し大量の火花をまき散らかした。
ダァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン...ッッッ!!!
「うぐぅ...ッッッ!?!? 」。
ハリガネは防壁で防御する男を長剣を使って、力ずくで壁に押さえつけ身動きが取れないようにした。
「...久しぶりだな。ノンスタンスのサブリーダー、“白装束のホワイト”。普段は潜伏してる国外のアジトに引き籠って、戦地にいないはずのお前がまさかコッソリ帰国してたなんてな...。しかも今回は付き添いを同行させずに、ノコノコと無防備に侵入しているなんて随分と不用心だな~」。
「いやぁ~! ハリガネさんお久しぶりですぅ~! 斬新なご挨拶どうもありがとうございますぅ~! いやぁ~! 館内は爆撃音でやかましかったし、全然足音聞こえへん上に魔法の効力も消えてましたわ~! まだまだ修行が足りまへんなぁ~! 」。
ホワイトは顔を強張らせながらも笑顔でハリガネに挨拶した。
「そうか~。今まで“サイレンス”で気配を隠してたんだな? それは気づかないはずだわな~。それで、犯罪者の分際がご丁寧に入口の戸締りまでして、図書館の一室で一体を何してたんだよ? 」。
「い、いやぁ~! ほらっ! 僕達って国際指名手配犯になってるから、“普通に”図書館へ来ちゃいけないじゃないですかぁ~! でも、どぉ~しても読みたい本があったんでぇ~! 今日、来ちゃいまし...いたたたたたっっ...!! 」。
ギギギギギギギギギギッッ...!!
ハリガネは無表情でホワイトをさらに強く壁に押さえつけた。
「しばらくは防御で腕が使えまい。それに、この場合は来館じゃなくて不法侵入だろが。一体、何の魔法陣を描いていたんだ? 」。
「へ? 何の事で...いたたたたたっっ...!! 」。
ギギギギギギギギギギッッ...!!
「もう、いいや。さっさと本部に突き出してやる。おいッ!! メガネッ!! 応援の...」。
ビリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ...ッッ!!
「...ッッッ!? 」。
その時、ハリガネは背筋に電流が走る様な感覚を受けた。
(後方から急接近してくる奴の気配がする...ッッ!! て、敵か...ッッ!? )。
グン...ッッ!!
「あっっ!! ちょちょっ!! ちょっとぉ~!? 」。
ハリガネは力ずくでホワイトの背後を取り、ハリガネが壁に寄りかかる形で体勢を入れ替えた。
「メガネ...ッッ!! 室内を警...。チッ...ッッ!! 遅かったか...ッッ!! 」。
ハリガネが迫り来る敵の気配を感じ取り、対応出来るようホワイトを盾にしたものの...。
「お邪魔しま~す」。
部屋の入口には、メガネの背後を取ったデイが姿を見せた。
「チッ...ッッ!! 面倒クセーッッ付け!! だからお前は嫌いだよッッ!! 」。
ハリガネは舌打ちしてデイを睨め付けた。
デイは捕獲したメガネのこめかみに拳銃を当てながら、不敵な笑みを浮かべていた。
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