第18話 制裁という名の暴力
「整列ッッッ!!! 」
ゴリラ隊長はハリガネ達の方へ歩み寄り、再び号令をかけた。
ハリガネとヤマナカはゴリラ隊長の前へ素早く整列し、再び直立不動を保ったまま待機の姿勢に入った。
シェルター内では、修道士と修道女達が不安そうな様子で三人を見つめている。
ゴリラ隊長はハリガネ達を睨みながら、後ろに手を組んで目の前をうろつき始めた。
「貴様等に問うッッ!! 貴様等は何故、シェルター内で悠長に談笑していたッッ!? 答えろッッ!! まず筋肉ッッ!! 」。
ヤマナカは、ゴリラ隊長に指名されるとより一層背筋を伸ばした。
「はッ!! 傭兵として出動致しましたが、待機命令によりシェルター内で待機しておりましたッッ!! 」。
ゴリラ隊長はヤマナカの答えを聞くと、続いてハリガネを睨みつけた。
「次ッッ!! 勇者ッッ!! 」。
「右に同じですッ! 」。
ハリガネがそう答えると、ゴリラ隊長は顔を二人の鼻がくっつく距離まで近づけた。
「では、もう一度ッ!! 貴様等に問うッッ!! 貴様等は何故、この緊急事態にもかかわらずこのシェルター内で悠長に談笑していたッッ!? “正ッッ直に”答えろッッ!! 」。
ゴリラ隊長は“正直に”を強調し、再度ハリガネ達に問いかけた。
「...」。
ハリガネとヤマナカは、ゴリラ隊長に追い込まれて互いに視線を泳がせていた。
「こ、国内の防衛に努めるという事が私の責務でありっ!! あっ! あまり他のトラブルに巻き込まれたくなかったので避難しておりましたっ!! 」。
ヤマナカは冷や汗を滴らせ、緊張で声を裏返しながら必死な様子でそう答えた。
「次ッッ!! 勇者ッッ!! 」。
「ヤマナカと同様で傭兵として出動しましたが、先程、第一中隊“ガレージ”カワチャン副隊長から隊長の行動を制止するよう指令を受けておりましたッ! ただ、周囲は特殊治安部隊と憲兵が配置されているとの事で、『あ、じゃあ勝手に片づけてくれるっぽいから変に邪魔しなくていいや~』、と思ったのと面倒な事に巻き込まれたくなかったので避難しておりましたッ! 」。
ハリガネも覚悟を決め、正直に思っている事をゴリラ隊長へ伝えた。
「なるほど...」。
ゴリラ隊長は少し頷き、瞳を閉じてしばらく沈黙した。
「...」。
固唾を呑んでゴリラ隊長の様子をじっと見つめるハリガネとヤマナカ。
「脱帽ッッッ!!! 」。
ゴリラ隊長がカッと眼を見開いて号令をかけると、ハリガネは被っていた兜を即座に外した。
ヤマナカは頭部に防具を着けていなかったが、強張ったその表情はこの後の結末を悟っていた。
(あ~あ、やっぱりこうなるのね...)。
ヤマナカと同様にこの後に起きる結末を悟ったハリガネは、死んだ眼のまま兜を脇に抱えて小さく溜息をついた。
「歯を食いしばれぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええッッッ!!! 」。
ゴリラ隊長の怒号と共に、拳が二人の顔目掛けて飛んできた。
ボカァァアアアッッッ!!! ドゴァァアアアッッッ!!!
「グァ...ッッッ!!! 」。
「ゴハァ...ッッッ!!! 」。
ゴリラ隊長の鉄拳をまともに顔面で受け取めたハリガネとヤマナカの身体は、後方へ吹き飛ばされて地面に倒れ込んだ。
二人が倒れたと同時に、周囲から悲鳴が上がった。
「ちょっ!! ちょっとっ!! 貴方っ!! 何するんですかっ!? 」。
主任が血相を変えてゴリラ隊長に歩み寄ろうとすると、ゴリラ隊長は倒れた二人を見下ろしたまま手で制止した。
「うぐぅ... 」。
ハリガネとヤマナカは口から流れる血を手の甲で拭い、よろめきながら立ち上がった。
ガ...ッッ!!
「グ...ッッ!! 」。
「ヌ...ッッ!! 」。
ゴリラ隊長はよろめきながら立ち上がった二人の胸倉を乱暴に掴んだ。
「ちょっ!! ちょっともうやめてくだ...」。
「黙れぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええッッッ!!! 」。
「...っっ!? 」。
ゴリラ隊長が怒号を飛ばすと、主任はひるんで黙り込んでしまった。
「貴様等ぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああッッッ!!! 久々に面合わせてみれば何ったる体たらくだぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああッッッ!!! 恥を知れぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええッッッ!!! 」。
(恥を知った方がいいのはアンタだよ...)。
ハリガネは胸倉を掴まれ苦悶の表情を浮かべたまま、ゴリラ隊長に対し心の中でそうツッコんでいた。
「いいか、お前等ぁ...。今、このポンズ王国がどうなってんのか分かってんのか...? ああぁぁぁぁああああああああああああああああああああああッッッ!?!? 」。
ゴリラ隊長はこめかみに青筋を浮き出たせながら、二人の顔を自身の顔にぐっと引き寄せた。
「ぞ...存じておりますっ...(アンタが王国を破壊しそうなのも...)」。
「分かってんなら...。こんなとこで女とダラダラだべってんじゃねぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!! 」
ゴリラ隊長はそう叫びながら、胸倉が掴んでいる手で二人を思い切り投げ飛ばした。
「いってっっ!! 」。
「うわぁ...っっ!! 」。
後方へ飛ばされた二人は、そのまま尻餅をついた。
「こっ!! これ以上の乱暴行為は許せませんっ!! 本部に連絡しますからねっ!! 」。
ゴリラ隊長は主任の毅然とした態度にも動じず、地面に唾を吐いて嘲笑っていた。
「...フンッ!! 何とでも言いやがれ。しかし、こんな平和ボケした奴等を連れて行ってもすぐに死にそうだな~。使えなさそうだぜ~」。
「た、隊長...。まさか今から現場へ突入するつもりですか? 」。
ハリガネは立ち上がりながら隊長に問いかけた。
「あ? 当たり前だろうが。そもそも、ノンスタンスのクソ野郎共に易々と侵入させてんのも馬鹿げてんのに、未だに奴等を始末出来ねぇでクソ同士睨めっこしてる下痢グソ連中は仲良く便所へ流されるべきだ。何が鉄壁な魔術部隊に特殊治安部隊だ。そんなカス共はクソ中のクソ野郎共だ。肥溜め以外に役立ちはしねぇ。動けねえ部隊はそびえ立つクソ同然だ」。
(この人は相変わらず口悪いし、流れるようにクソ連発するよな...。あとカスなのかクソなのかどっちなんだよ? )。
ハリガネは心底うんざりしながらゴリラ隊長を見つめていた。
「さて...」。
チャキ...ッッ!!
ゴリラ隊長は懐から拳銃を取り出し素早く壁に向けると、周りは再び悲鳴を上げた。
「おいッッ!! そこにいるのは知ってんだッッ!! 魔法を解いて後ろを向けッッ!! そのまま両手挙げて壁に貼り付いたまま動くなッッ!! 従わなければ撃つッッ!! 」。
ゴリラ隊長が何者かにそう忠告すると、背を向けて壁に密着するメガネが姿を現した。
メガネは魔法で姿をくらましていたようだが、ゴリラ隊長には気配を感じ取られていたようだ。
「いやぁ~!! お見事~!! さすがは戦闘部隊“ガレージ”の指揮を執る名隊長...うっ!? 」。
メガネはゴリラ隊長を刺激せぬようおだてていたが、後頭部に拳銃を突き付けられた。
「お前は魔法で姿を隠したつもりだったかもしれないがな、動揺していたかは分からんが途切れ途切れに気配を感じてたんだよな。あと、お前が俺の事を単細胞野郎とか脳筋野郎とかオワコンクソ戦士とか、他の部隊の連中と陰口叩いてんの知ってんだからな? 本来だったらボコボコにした後、便器の中へ頭から突っ込んでやりたいところだが今回は許してやる。ありがたく思え」。
ゴリラ隊長はメガネの耳元でそうささやいた。
「ひ、ひぃ~!! あ、ありがとうございますぅ~!! 」。
メガネの瞳には涙が溜まっていた。
「ところで、シェルターの入口を閉めてたのは...お前か? 」。
ゴリラ隊長はそう言うと、メガネに銃を突きつけたまま更に詰め寄った。
「す、すいませんっ!! あ、あのっ!! 外が凄まじかったしっ!! この施設の安全は確保しなければならないのでやむを得ずっ!! こういう決断に至りましたっ!! 」。
汗を滝の様に流すメガネの必死な釈明に、険しい表情を保つゴリラ隊長は何度も頷いた。
「ほう...。シェルターは軍においての貴重な連絡口だし、怪我人のケアとかもあるし必要不可欠な施設だからな...。実に適切な判断だな~」。
「あ、ありがとうございますぅ~!! 」。
「しっかし、入口を開けてもらうのに苦労したぜ~。お前の仲間に開けてもらってようやく中に入れたけどな~」。
隊長が一瞥する後方の入口付近には、血にまみれた傷だらけのミイラ隊長やカッパ副隊長と他の兵士達が倒れていた。
(げぇぇぇえええええええええええええええええええ...っっ!! この人、遂にやっちゃったよ...)。
ミイラ隊長達の痛々しい姿を目の当たりにしたハリガネは顔を強張らせた。
そして、微笑を浮かべながらメガネの後頭部に拳銃を押し付けるゴリラ隊長の姿は、非常に狂気じみていた。
そんなゴリラ隊長の一連の行動で、修道士と修道女達はすっかり怯えていた。
(あ~、隊長とメガネのこの絡みも久しぶりだな~。見慣れてない人間には刺激的かもしれんがな。まぁ、俺がいる当時は部隊が違えど、メガネは隊長に基地でよくボコボコにされてたもんな~。懐かしいな~)。
ハリガネはこんな状況ながら、王国軍に仕えていた兵士時代の頃を思い出していた。
「今、お前は俺に感謝しているか? 」。
「...へっ? 」。
ゴォ...ッッ!!
「グォ...ッッ!? 」。
ゴリラ隊長は拳銃でメガネの頭部を壁に思い切り押さえつけた。
「今、お前は俺に感謝しているか...と聞いている。お前が今まで散々吐き散らした陰口は、使ったトイレットペーパーと一緒に便器の中へ流してやると言ったんだがなぁ~!? 」。
「ぐ、ぐぁっっ...!! も、もちろんでございますぅ~!! 」。
メガネは壁に顔を押し付られ、苦悶の表情を浮かべながらそう答えた。
そんなやり取りをしていた時、壁に描かれている大きな魔法陣が白く光りだした。
その光の中からマント付きの鎧を着用した一人の兵士が現れた。
兵士はゴリラ隊長と目が合うと、血相を変えて身構えた。
「ここにいたかッ!! ゴリラ曹長ッッ!! 公務執行妨害罪で現行犯逮捕するッッ!! 」。
兵士が即座に拳銃を取り出したが...。
チャッ...!!
先にゴリラ隊長がもう片方の手で忍ばせていた拳銃を取り出し、兵士の眉間の位置に銃口を突き付けた。
「な、何の真似だッ...!? 」。
「誰かと思ったら王国の庭犬じゃねぇか。撃たれたくなければ拳銃を地面に捨てろ。魔力を出したり不穏な動きをしても撃つからな」。
ゴリラ隊長はメガネの頭を壁に押さえつけたまま、兵士にそう告げて拳銃を向けながら睨みを利かせた。
シェルター内は緊迫した状況下に置かれ、周囲は固唾を呑んでこの状況を見守っていた。
「貴様ァッッ!! 誰に向かってそんな口を利いているッッ!? 」。
「早くしろ。死にたいのか? 」。
ゴリラ隊長は臆することなく、淡々とした口調で兵士に催促した。
「...ッッ!! 」。
兵士は憤慨しつつも、握っていた拳銃を地面に放り投げた。
「しっかし、自分のお庭なのに野良犬のノンスタンスに侵入されて、好き放題荒らされるなんて情けないなぁ。自分のお庭を追い出されて今どんな気持ちだぁ? 負け犬の遠吠えって言葉がよく似合ってるぜ~。こんなとこで俺に吠えてんだもんなぁ~」。
「...ッッッ!!! 」。
兵士は怒りでみるみるうちに顔が紅潮していく。
(いや、部隊から追い出されたアンタもなかなか情けないです)。
ハリガネは心の中で、そうツッコんだ。
「そうだよなぁ。野良犬を何とかしないとハウスに入れてもらえないもんなぁ。番犬は大変だなぁ」。
「貴様ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 言わせておけば減らす口を叩きおって...ッッ!! 」。
兵士の言葉に、ゴリラ隊長は不思議そうに首を傾げた。
「“減らす口”...? 俺は事実を言っただけなんだがな~」。
「...チッ!! 」
言い返された兵士は悔しそうな表情で舌打ちし、ゴリラ隊長を睨み付ける事しか出来なかった。
「それに、お前一人では俺をどうする事も出来ない。そもそも、お前はこの現状をおかしいと思わないのか? 」。
「どっ...! どういう事だッ!? 」。
「俺が前線から抜けて騒ぎを起こしてるっつーのに、このシェルター内には傭兵が二人いるだけで兵士は俺が拳銃を突き付けているコイツだけだ。なんかおかしいと思わないか? 」。
「いっ...! 一体何が言いたいッ!? 」。
「まぁ、無理もない。どうせお前は先に現場へ急行した奴等が、俺を片付けたかどうかを確かめに来ただけだから何にも把握してなかったんだろ? 分かんねぇんだったら、テメェの腐った眼で確かめてみろや」。
ゴリラ隊長が兵士にそう言いながらシェルターの入口に視線を向けた。
「何をふざけたこ...うっ!? なっ...!! 何だこれはッッ!? 」。
兵士は地面に横たわるミイラ隊長達にようやく気づくと、目を丸くして愕然とした様子を見せた。
「こ、これは...いいいぃぃっっ...!? なっ...!? 何だぁぁぁぁあああああああああああああああああああッッッ!?!? これはぁぁぁぁああああああああああああああああああああああッッッ!?!? 」。
兵士が倒れているミイラ隊長の下へ歩み寄った時、外を見るなりそう叫びながら愕然と立ち尽くした。
「お前等も見てみろ。なかなかの光景だぞ? 」。
「な、なかなかの光景...? 」。
ゴリラ隊長の言葉に、ハリガネとヤマナカは怪訝な表情を浮かべながらお互い顔を見合わせていた。
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