第9話 巡ってきた戦士としての仕事


「そういや、お前もこの店の用心棒だろ? 店の人助けなくていいの? 」。


緊張感に包まれた店内で、不意にミドルがハリガネにそう問いかけた。


「シッ!! こんな厄介な事に巻き込まれたくないわっ! ただでさえ、面倒そうな魔法使い相手に...」。


ハリガネがミドルに静粛を促している時、近くのテーブルに置いてあったおしぼりで血を拭っているオーナーとハリガネの目が合ってしまった。


「うぐぅぅぅううう...。ち、畜生ぉぉ...。あっ! お、おいッッ!! そこのチビッッ!! 」。


「へっ? チビって俺の事っすかぁ~? 」。


オーナーに指を差されたハリガネは白々しい態度でそう答えた。


「お前以外のチビがいるかッッ!! 早くアイツを始末しろッッ!! 」。


「えぇ~?? 始末って、追い出すだけでしょ~?」。


「アイツはタダでは帰せんッッ!! もう、お前でいいから徹底的に死の手前まで痛めつけろっっ! 」。


「えぇ~?? 」。


ハリガネはオーナーに向けて露骨に嫌がっている表情を浮かべて自身の腰に両手を掛けた。


「何だッッ!? 俺の言う事が聞けないのかッッ!? 」。


「まぁ~、こんな“オッサン”別に俺が相手してやってもいいっすけど...。ん~、ちょっとなぁ~」。


「何だッッ!? 何が言いてぇんだッッ!? 」。


「もうちょっとね~、“こっち”の方を上乗せしてくれると嬉しいんですがねぇ~」。


ハリガネは“黒い”笑顔と片手で丸を作ると、オーナーは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。


「...チッ!! 日雇いの分際で足元見やがって...ッッ!! 分かったッッ!! いいだろッッ!! アイツを片付けられたらボーナス上乗せしてやるッッ!! 」。


「それじゃあ...はいっ! 」。


ハリガネは片手を出しながらオーナーの下へ歩み寄った。


「あぁん? 何の真似だぁああ~?? 」。


追加料金オプションで百万ゴールドですっ! まずは交渉って事で、その半分を前金としていただきまぁ~す! 」。


「はぁぁぁぁあああああああああああああああああッッッ!?!? ふざけんなぁぁぁぁあああああああああああああッッッ!!! オイッッッ!!! 前払いだとぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!? 」。


オーナーは苦悶の表情を浮かべて痛みをずっと堪えていたが、ハリガネの要求を聞いて血相を変え詰め寄った。


「すいませんねぇ~。ウチは全額後払いシステム受け付けてないんでぇ~。半分は信用のために先払いしていただかないといけないんっすよねぇ~。あっ! 支払いは現金キャッシュでお願いしますよぉ~? 」。


「...ッッ!! し、失敗したらタダじゃおかねぇぞぉッッ!? オイッッッ!!! 金持ってこいッッ!!! 」。


オーナーがそう叫ぶと、ボーイが慌ただしく帯封された札束を持ってきた。


「...チッッ!! オープン初日からとんだ損害だぜ...」。


オーナーは愚痴を零しながらその札束から半分程の札を抜き、残った札をハリガネの方へ投げ付けるように渡した。


「よぉ~し、五十万ちょうどっすねぇ~! 交渉成立でぇ~す! 」。


ハリガネは受け取った札を指で弾き数えながらミドルの方へ戻っていった。


「ミドル、ちょっと預かってて...。仕事中に抜き取るなよ? 」。


ハリガネはミドルに釘を刺しながら、札と装備していた剣を預けた。


「おいおい、するわけねぇじゃん。...それより大丈夫なのかよ? あのオッサンヤバそうだぞぉ~? 」。


ハリガネとミドルはそう話を交わしつつ、男に視線を向けた。


男は周りの気にも留めない様子で、テーブルに置かれていたワインをラッパ飲みしていた。


「まぁ、荒仕事になったが何とかなるっしょ。よぉ~し、久々に腕が鳴るぜぇ~!! 」。


「成功したら奢れよ~! 」。


「おう~! 」。


ハリガネはミドルとグータッチを交わし、気絶した用心棒の近くに転がっている巨大な金棒を拾った。


そして、それを何度か素振りして感覚を確かめていた。


(装備してる剣はちょっと短いからな...。相手魔法使いだし、ある程度の打撃距離は欲しい...。長さと柄の部分は、長剣と比べると違和感があるが重さは申し分ない...。まぁ、とげ付きだし...。これでいいか...。魔力付きの武器や飛び道具だと魔法で跳ね返されるだけだろうし。とりあえず、攻撃を仕掛けながら相手の出方を見るしかないな。まぁ、これは長期戦になりそうだな)。


ゴトン...ッ!


「...ん? 」。


男が用心棒が持っていた複数の武器をハリガネの足元へ転がしていた。


「さぁっ!! さぁっ!! 持つと炎が出るこん棒~!! こちらは雷を呼ぶ金槌~!! こっちは毒が塗ってある鎖鎌~!! 他にもいっぱいあるよ~ん!! 」。


男は商人の様に手を叩きながらハリガネに声を掛けていた。


そんな男の様子に呆れるハリガネは溜息をつきながら金棒をゆっくりと構えた。


「露店なら外でやってくれ。あと、店がアンタのせいで滅茶苦茶だから、とっとと出てってくれたら死ぬほど嬉しいんだけどね~」。


ハリガネがそう言うと、男は両目を閉じ両腕を組んで考える素振りを見せた。


「よしっ!! 」。


しばらく考え込んだ後、男は満面の笑みをハリガネに向けた。


「それじゃあ、テイクアウトで三人ばかし踊り子ちゃん達頼むよ~ん。あ、女の子は俺に選ばせてね~」。


「あ、駄目だ。コイツ会話が通じねぇ」。


ハリガネが男に心底呆れていた時...。


ドカァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!! ドゴォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!


外から凄まじい爆発音が聞こえ、店内は地震が起きた様に大きく揺れ動いた。


ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ...ッッ!!


爆発音が聞こえた直後、けたたましいベルのサイレンが街中に鳴り響いた。


「何だっっ!? テロかぁっっ!? 」。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!! 」。


「は、反乱軍だぁぁぁぁああああああああああああああああああああッッッ!!! 」。


「は、反乱軍だって...ッッ!? 」。


店内が混乱する中、ハリガネは男を無視して足早に窓の方へ向かい外の様子をうかがった。


夜空の下、街路では逃げ惑う民衆と現場へ向かっていく兵士達が交錯している。


「やりやがったか...。デイの奴...」。


ハリガネは店から距離の離れた時計塔を睨みながらそう呟いた。


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