第10話 グッドラック、 “勇者”


ジリリリリリリリ...ッッ!!


『緊急事態発生ッッ!! 緊急事態発生ッッ!! 第一部隊から第四部隊は緊急事態発生現場へ出動ッッ!! 第五部隊から第九部隊、各地憲兵隊は指定区域へ出動ッッ!! 民衆は治安部隊の指示に従って速やかに避難してくださいッッ!! 』。


けたたましいサイレンと共に緊急事態放送が街中に鳴り響いた。


「本格的に始めたな。ここ最近は大人しかったのに」。


ハリガネは身を潜めつつ、外の様子を観察しながら独り言を呟いていた。


「...反乱軍かい? 」。


一戦交えようとしていた男は窓で外を見張っているハリガネの下へゆっくりと歩み寄り、神妙な面持ちでハリガネと同じく身体を屈みながら小声で話しかけてきた。


(...なぁッッ!? 背後を取られていただとぉッッ!? 気配を魔力で隠していたというのかッッ!? 何者だ、このオッサン...)。


いつの間にか見ず知らず男に背後を取られていた事に元王国軍兵士のハリガネは、一瞬困惑しながらも冷静さを装ってその場の空気に合わせる事にした。


「ああ、アンタは時計塔にいる奴等が分かるかい? 」。


ハリガネはそう言いながら遠方にある時計塔を窓越しに睨んだ。


「う~む...」。


男はそう唸りながら目を凝らしつつ、懐から望遠鏡を取り出した。


「時計塔にいる人間は...。ありゃあ、“赤髪のデイ”か。それじゃあ、騒ぎを起こしたのは“ノンスタンス”か? 」。


「オッサン、“赤髪のデイ”を知ってるのか? 」。


ハリガネは外の様子を見ながら男に問いかけた。


「そりゃ知ってるよ~ん。国際指名手配犯にされてるテロリスト集団じゃ~ん。あと、俺はオッサンじゃなくてジューンって名前なんだ~。よろしくね~ん」。


オッサンことジューンはそう答えて、ハリガネと共に外の様子を観察していた。


「...一応名乗っとくよ、俺はハリガネ。この先、会わないかもしれないけど...。よろしく」。


二人はお互い顔を見ずに外を警戒しながら握手を交わした。


「しっかし、過去に何度か反乱起こした影響で、団員が兵士に随分と殺されてからは弱体化していると聞いていたが...。そうか...。国外で人員確保してたのか...」。


ジューンは眉間にしわを寄せ、険しい表情で呟いた。


「奴等は年齢が若いから活発的だ。デイを潰さない限りはキリがないぞ」。


「うーむ、なるほど。そういえば、さっき友達に剣を預けていたよね? 君は剣士なの? 」。


ジューンの言葉に、ハリガネはフッと自虐気味な微笑を浮かべた。


「まぁね...。とは言っても、今は仕事が全く無い傭兵の端くれだけどさ~。だから、実質フリーターってとこかな~。こうして酒場の日雇い用心棒やってるわけだし」。


欠伸しながら外を見るハリガネの呑気な様子に、ジューンは思わず苦笑した。


「まぁ、こういう事態でもない限り傭兵の出番はないかもしれないね~」。


「今も無いようなもんだろ? 」。


「え? そうなの? 」。


ジューンは店内の様子を眺めながらハリガネに問いかけた。


店内ではオーナーと用心棒が混乱している客を落ち着かせたり、外で逃げ惑う民衆を店内へ避難するように促していたりと右往左往していた。


「だって、今は国家間の戦争も無いし王国兵士の組織部隊も大分強化がされてて、もう傭兵なんかいらない存在だからなぁ~」。


ハリガネがそう答えると、ジューンは怪訝な表情を浮かべて小首を傾げた。


「そうかな~? でも、こういう時だからこそ“野良戦士の傭兵”は必要だと思うぞぉ~? 」。


「そう? 」。


「ほらぁ~! あそこ見て~! 」。


「...え? 」。


ハリガネはジューンが指差す方向を辿ると、大声を上げて手招きしているオーナーの必死そうな表情が視界に入ってきた。


「げぇっ!! サイレンのベルがうるさくて呼ばれてることに全然気づかなかったっ!! 」。


ハリガネは慌ててオーナーの下へ向かった。


「グッドラックッッ!! “勇者”ッッ!! 」。


ジューンは離れていくハリガネの背中にウィンクしながら親指を立てた。


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