第4.5話 ある男の記録
ここに引っ越して1週間たったろうか。
仕事の研修に行くことになった。
この街のはじには鉄鉱山があって、その採掘と製鉄がこのまちの重要な産業なのだそうだ。
この街には、都市部から移住してきた人間が多い。
よそものは、ひとめでわかる。
自分のことをあまり話さない。
若しくは反対に、相手のリアクションを無視してべらべら話し続ける。
一方、他人への興味を持たない。忘れっぽい。うまく受け答えができない。
浮いている、そんなのはたいてい僕みたいな移住者だ。
うっすら治安の悪いこの街は、ぼくにとっては居心地がいい。
移住の時、審査をうけ、職探しや適性テスト、健康診断なんかも受けている。
今日、ここにいるのは僕と同じ移住民で採掘・採集業の人間。
初日、鉱山内の移動トロッコの転がし方、ヘルメットや道具の使い方、
二日目、鉱物の見分け方、採掘、鉱物以外の、珍しい植物や、漢方になる生き物の捕り方。
三日目、坑内のモンスター駆除と踏破チームの遺体の救助活動のレクチャ。
救助、と言っても普通の救助ではない。
救助に行ったタイミングでは、だいたいのチームが全員死んでいるからだ。
生きているのをほぼみたことがない。
回収計画書にしたがって、決められた数の遺体をゴクラク袋で救助(袋詰め)する。
個人が特定できそうなものをよりわける。
ゴクラク袋は、ダストシュートに落とす。
この作業にはルールがあって、作業中決められた名前を呼び続ける。
「佐藤さん、佐藤さん」
みたいな感じで、作業中ずっと呼び続ける。
べつにこの名前はチームの誰かってわけではなくて、
「今日はこの名前を唱え続けなさい」
と言われる。
特定の声がけをするとか、みんなで歌を歌ったりってのは、においや疲労で意識が飛ばないように注意力を上げる効果があるそうだ。
確かに体力的にはきつい。3Kというやつだ。
そういえば就業の審査面接のとき 面接官が言っていた
「これはみんなに聞いていることなんですが、
たとえば、やりたくない仕事だけど高額なギャラの仕事。やりたい仕事だけど安いギャラ、キミだったらどちらを選びます。」
そんなの仕事内容によるだろ、と思ったけど、その時は審査をパスしたくて、
やりたくなくても大体のことはやりますね、と答えたんだっけ。
いつの間にか鉱物の採集の仕事は ほぼなくなって、救助作業ばかりになった。
このまえ、詰めた袋が運ばれるとき、一瞬動いたような気がした。
でも作業は忙しくて言える空気じゃなかった。
「さん…○○さん」
でも、ここにくる前の生活よりはずっといい。
たまに、目が覚めると家がとても臭い気がする。
死体のにおいだ。
このまえ、詰めた袋が運ばれるとき、一瞬動いたような気がした。
つかれているのかもしれない。
何かが腐っているのかもしれない
でも掃除する暇なんてないし。
「さん…○○さん」
でも作業は忙しくて言える空気じゃなかった。
そう思った瞬間、俺は思ったんだ。
入れた、って。
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