第5話 依存症

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寒い。

頭が重い。

実際は全身の倦怠感、頭だけが重いのではない。

それでも なぜだろう、頭が重い、とまず最初に思ってしまう。


次に、自分が歯の根が合わないくらい奥歯がガチガチと震えているのに気が付く。

ふるえる、というのは、自分の意思には関係がない。

少しでも細かい動きをして全身の血を巡らせるように起きる反応なのだそうだ。


「××××。」


テテン。と何かのサウンドエフェクトが鳴った。


「×××× サン イフク を着用し、隣室で診察を受けてください」


全身のしびれは収まらない。

私は何回も、服を取り落としながら準備し、診察室へと入った。

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「本日はぁー!ご来店 誠にぃーありがとうございます!

当店のーラストオーダーわぁ午後ぉ20時ぃとーなっておりますー。

どなたさまもー、ご準備の上、お願いいたします。」


村に一軒しかない 飲食店はそこそこ広い。


結局、診療所は閉館、役場も17時閉館した。


途方に暮れたものの、

復活したてで餓死しそうなほど空腹だった俺は、流れで食堂に直行し、同じくすさまじい空腹を抱えたベコさんも、ここへ現れた。

この時間に相方と落ち合えたのは運が良かった。


「もが、 クロさんは 体はだいじょうむなんすか」

人間バキュームカーになっている彼女が言う。

口にものを入れながら話さないでほしい


「うむ、まあちょいちょい痛いけど。

傷あととかはともかく、骨は大丈夫だと思う。」

俺の顔の傷は浮き出てピンク色のケロイドになっているようだ。

無理やりに治癒させた傷がかゆい。腕の傷跡からは糸がピヨっと出ている。


そういう俺に比べると彼女はほぼ無傷に見える。

そもそも着込んでいるのであくまで雰囲気の問題だが。


「ベコさんは大丈夫なの」

彼女はベーコン・エッグさんという、ふざけた偽名だ。


「私は(もぐもぐ)そもそも後衛ですしね、あんまり覚えていませんが、

たぶんっ(もぐもぐもぐ)クロさんたちが死んだあと、一撃で吹っ飛ばされて内臓破裂したみたいです。」


「そうなんだ…」

「結構スルっと治せたっぽいですねぇ。」

「…丈夫そうだもんねぇ」

会話の間も彼女はペースを崩さず豪快に飯を掻っこんでいる。生き返ったばっかりでそんなに食うのか。生き物として格の違いを感じる。


彼女は物理的な攻撃力こそ雑魚だが、いつの間にか周りになじむ順応性、タフさにかけては一級だった。胃腸の強さも実力のうちだろうか。


前衛は俺以外にも2人居たはずだ、今ここに居ない。ここにいるはずだった人間の不在が急に思い出された。

おれは頭を抱えた。


「二人ともほんとに死んじゃったのかなぁ」

「組織が活性化できる期間はとっくに過ぎてるっていわれましたねー」

「俺は、残りの二人は回収すらされてないって聞いたけど」

「そうなんですか」

「労災登録されてなかったんだって」

「あの二人、ライセンス偽造してたってことです?」

「わっかんない。それもショックなんだけどさーせめて言っておいてほしかったわー」

もうちょっとしっかり聞いておけばよかった。


「まあ今となっては言うても仕方ないですけども」

「そうだけども、ね。」


せんないことばかりだ。


「どうします、このあと」

「それを話したいと思っていた」


「私はこの後、解散でもいいんですけど」


頭をかかえた。

そもそもこの国には、ベコさんのような、魔力適性のある人間が大変すくない。

少しでも適性があった時点で、その後の人生は決まったようなものだ。

供出に近い形で集められ専門教育を受け、国家公務員になり、各地に派遣される。

実のところ彼女はこんな感じでもハイスぺ女子であり、引く手あまたで職務かけもちの人だ。

ギルドや村にとって使えないパーティであれば、いずれ彼女は異動になるだろう。


「ん?」


苦悩のポーズのまま、ふと違和感を感じた。

右耳の下の方、つまり耳たぶにあるべきものがない。


「穴ふさがってる!」

「なに?」


「ピアス、穴!」

「なに急に女子高生みたいなこと言ってんすか」

「いや護符ですよ、アンタがバフ付加したやつ」

耳についていたはずだ。

丸い金属と紫の石がはまっているはずの場所が。耳たぶの皮膚はつるりとしている。


「あーら」

「えええ高かったのに!ローン残ってるのに!?」

「戦闘中に吹っ飛んだんですかねえ」

「防御アイテムが戦闘中ふっとんじゃまずくない?!」

「しらんですよ。」


失くしたのは、一定の金属に反応する御守りである。

魔力的性のある人間に機能をセットアップしてもらって初めて使える。

昔流行ったもので、特定の金属にのみ反応して近づけなくする。

いきなり斬りかかられたときに、たまたま該当の金造製だと武器そのものが近づけない。はじいたすきに反撃できる、というものだ。

石器、木刀、合金、また嚙まれたり殴られたりにももちろん効かないニッチでレトロなアイテムだ。

つまり、今回の戦闘では特に役に立っていなかった装備である。


「復活の時に穴も治癒しちゃったんですかねぇ。」

「えーーーーピアス穴って怪我???」

「そんな細かいとこいちいち気をつかってくれるわけなくないですか」

「ショックなんですけどーーーーー、うーわ死亡保険でなんとかならないか。これっ。」

「そういう小者みたいなとこがいろいろまずい気がします。」

「うわーー」

「気にするとこもっと他にあるでしょうよーこれからのこととk」

「ええ?!アレ一回も使えてなくない?なのに?うそだろ」

「男のくせにちまちまちまちまアクセに護符機能付けるからじゃないすか」

「口悪っアンタにも付加代余分に払ったでしょーよ」


はあ?わたしはちゃんと仕事しましたしー、とか言っていると、誰かが近づいてきた


「もう閉店なんですけど」

店員がけげんそうにこちらに言った。


今日のところは宿屋に引き上げることにした。

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