第3話 自宅を特定されて草なんだが


「光魔術は、こんな感じで、炎とは違う熱をイメージするんだ。こう…ぐぬぅっーって感じだ」

“???”

“まじでグレイ感覚派すぎるww”

“先生!全然使えません!”

「ん〜…やっぱりそっちには魔力がないのか?使い方としてはこれで合ってるんだけど…」

“その伝え方じゃ使えるものも使えねーよ!”


 視聴者といつものように魔術について話をする。


 俺が配信を始めてから約1ヶ月が過ぎた。


 どうやら最初のスライムが印象的だったのか新たなジャンルである異世界配信者として俺は一躍有名、とまでは行かないものの結構な視聴者を獲得することができた。


 平均同接3000人以上、フォロワー4万人超え。


 毎回来てくれる常連さんも増えてきて、とても順調である。


 最近は魔術の使い方講座という感じで配信しているのだが、これがなかなかウケがいい。


 2週間前の派手な魔術10連発が非日常を求む現代人に刺さったようだ。


 今のところCG説が一番有力だが、本当に信じている視聴者も少しずつだが増えてきている。このまま順調に行けば魔術や超能力を信じる視聴者も集まってくるだろうし、フォロワー10万人もちょちょいのちょいだ。


「いや、だからこうやって『ガッガッ』っうお?」

“ノック?”

“誰か来た?”

“お客さんか?”

「え?いやいや、ここ、めちゃめちゃ危険な森の中央だぜ?人が簡単に来れるような場所じゃ…」

“グレイの友人とか?”

「生まれてから今まで友人なんて関係性の相手はできたことないな」

“あっ”

“あっ”

“気にすんなよ”

“俺達がいるぞ”


 少し乱暴なノックが配信に乗り、視聴者がざわめく。当然俺も驚いている。


 ここは朧の大森林。超がつくほど危険な魔物がわんさかいる人類未踏の地と言っても過言ではない森の最深部。


 稀に神話級の大型の龍が現れるようなレベルのこの森に、普通の人間が到達できるわけがないのだが…


「…一旦出てくるわ」

“配信は?”

「ん〜…一応持ってくわ。音声だけになるかもだが」


 そう言い俺が玄関の方に向かうと、水晶は浮きこちらについてくる。こういうときに手が塞がらずカメラを持っていけるのは便利だ。自動追尾機能をつけておいてよかった。


 そして、慎重に扉を開くと…


「初めまして、朧の魔術師様」

「………どなた?」

 

 そこには、金色の髪と紫色の瞳の美少女が立っていたのであった。



 ▽



「はぁ、それで俺を探していた、と…」


 総勢13名にもなる騎士を引き連れてこんな森の奥深くまでやってきた彼女は、ここ、朧の大森林のすぐ近くにある王国の王女様らしい。


「はい。どうか朧の魔術師様のお力をお貸しください」


 そう深く頭を下げ話すのは、エアラル王国第一王女、イレーネ・エアラル様である。


 彼女の話を簡単にまとめると、エアラル王国の王であったグラディウス・エアラルが次の王に第二王子を指名し命を落とす。


 だが、それに納得できなかったのが側室の子である第一王子。なんとクーデターを起こし第二王子とグラディウスの正妻であるルフア・エアラルを殺害し、王城を占拠したらしい。


 そして第一王女である彼女もクーデターに巻き込まれ命を狙われたため、王都から逃げ出したそうだ。


 本来なら第二王子派閥である辺境伯の元に向かう予定だったが、途中追手により馬車が使えなくなり、仕方なくこの朧の大森林に隠れることにしたそうだ。


 とても強い魔物避けのアイテムがあるようでここまでは特に何事もなく来れたのだと。


 だが、準備もなく朧の大森林に迷い込んだ彼らは、魔物に見つからないから大丈夫、というわけではない。


 外では追手が待ち伏せているかもしれないし、辺境伯の領まで行くにはあまりにも距離がある。


 そのため森の最深部に住んでいるという噂の朧の魔術師に一か八かで助けてもらうため、わざわざここまでやってきたのだという。


 朧の魔術師って、俺そんなふうに呼ばれていたんだ…


 昔は色々やんちゃしたが、最近は外に出てなかったのでそんなことになっているとは知らなかった。


「うーん、そう言われても、俺、そういう権力争いはあんまりなぁ…」


 面白ければ手を貸してもいいかもしれないが、正直無しだ。


 戦争、とは違うが、人間同士の争いは正直見飽きた。


 国王争いというのもありきたりと言うわけではないが、そこまで面白くもなさそうだしなぁ…


 何か見どころがあるなら異世界配信ということで行ってもいいかもとは思うが、この内容となるとモザイク必須だ。何が起きているのか半分以上わからないだろう。


“なんか難しいな”

“俺達は魔術と平和を求めてるんだ。却下”

“面白そうじゃね?”

“国王争いとか怖い”

“内乱とは違うのか”


 コメント欄は6対4で否定派が多い印象だ。


 まあ、それもそうか。今までの配信は魔術を使ったり魔導具を作ったりと争いとは無縁の配信だったし、これからもそれを求めている視聴者は多いだろう。


 俺も正直そっち派だ。このまま行けば安定して視聴者も稼げるし、配信活動も楽しめる。


 俺の配信活動の目的は楽しむ為だし、そこには視聴者が楽しむことも含まれている。わざわざ来てもらって申し訳ないが…


「ぁ〜、今回はご縁がなかったということで…」

「もし、手を貸してくださるのであれば、朧の魔術師様の命じることになんでもお従い致します」

「………ふむ?」

“今なんでもって言った?”

“ざわ…ざわ…”

“!!!”

“ほほう?”

“金髪美少女のじゃ王女様がなんでも…?”


 その瞬間、視聴者のコメントの流れが一気に変化する。


 そういう方向に捉えた視聴者も多いが、俺は少し違う。そういうことに興味がないわけではないが、何でもとなると話は別だ。


 俺の配信には色々と問題がある。


 その中の一つが、華がないというものだ。


 魔術や景色よる美しさではない。美少女や美女といった華の方だ。


 今は魔術や異世界という目新しさがあり、活動も順調ではあるが、いつかは視聴者も飽きが来るし、男が一人で雑談しているだけじゃつまらないと思う人も多いだろう。


 だが、彼女がいれば話は別だ。


 輝くような長い金色の髪と紫色の瞳、日本人離れした顔立ち、そして完璧なプロポーション。


 まるで黄金比のような美しい形のたわわは流石の俺でも惹かれるものがある。


 丁寧で可愛らしさに美しさも兼ね備えており、The王女様という性格でキャラも立っているし、確実に人気の出るタイプである。


 たまにでいいので配信で色々のやってもらえば、それこそフォロワー100万人も夢じゃない。それだけのポテンシャルが彼女には確実にある。


「なんでも、ねぇ…そういうことも入っちゃうけど大丈夫そ?」

「駄目に決まっているだろう!!貴様のような下賎な男が殿下に触れて良いとっ」

「口を慎みなさい、ドルドフ。私が良いと言ったのです」


 俺の言葉を聞き、何が起こるのかを想像したのか先頭にいたドルドフと呼ばれた若い騎士がブチ切れるが、すぐにイーリスによって口を塞がれる。


 そして彼女はこちらの目をじっと見つめ、答える。


「はい。構いません」


 そう堂々と答える彼女の瞳には、確かな覚悟が伺えた。


 自分の命ではなく、配下である騎士たちを無事にここから帰してみせるという覚悟が、だ。


 肝が据わっているというかなんというか…


「認められません!」

「ちょ、まてまて!落ち着けって…まだモザイク魔術掛けてないし、そういう暴力行為は困るんだよ」

「もざい…?何かは知らんが、小細工を用意していない魔術師など脅威ではない!」


 ついに耐えられなくなったのか、ドルドフ君はついに剣を抜く。


「殿下の身を捧げるぐらいなら、貴様を殺して─」


 ちょい待て!準備してないから殺傷沙汰は困る!


 ある程度の暴力行為ならこの配信サイトでも放送できるが、流石に刃物で切りかかったりするとまずい。この配信のアーカイブが見れなくなるだけならまだしもアカウント停止にでもなったら流石に3年は立ち直れないぞ!?


「殺意の呪縛!」

「なっ…にが…!?」

“うぉー!”

“かっけー!!!”

“何それ厨ニ病過ぎだろwwww”

“†殺意の呪縛†www”


 慌てて拘束魔術を発動すると、騎士の抜いた剣は周囲から突如現れた黒い鎖によって剣を握った腕と共に雁字搦めになる。


 配信は盛り上がっているが俺はドキドキだよ!?


「やめなさいっ!!」


 彼女の一喝で、ドルドフ君に感化され動き出そうとしていた他の騎士の動きも止まる。


「…あー、なんだ…ちょっと落ち着けよ?流石にそれはまずいんじゃないか?」


 俺はそう声をかけるが、ドルドフ君はまだ納得していない様子だ。周囲の騎士たちも彼に同調しているようだが、イレーネは毅然とした態度で彼らに注意する。


「私の身を守るために剣を握るのは分かります。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではないのです。グレイ様は私たちに必要不可欠な存在です。この方の助けを借りねば、私たちがどうなるかは理解できるでしょう」


 イレーネがドルドフに向き直り、厳しい眼差しでその言葉を発する。


「殿下…」


“おー!王女様カッコいい!”

“ドルドフっち、やらかしたなぁ”

“グレイ、どうするんだ?”


「ま、確かに俺がどうにかしなきゃこっから出たら死ぬだろうなぁ…こんなふうに剣で斬りかかってきた時点で、助けたいとは思えないけど…」


 少し脅しも込めてそう言いながら、とりあえず拘束を解く。


“ぽまえ怖いぞ”

“面白くなってきたぁ!”

“一旦お茶飲んでもちつけ”

“脅すな脅すなwww”


「自分が何をしたのかを理解したのなら、今すぐ剣をしまいなさい」


 コメントとは真逆の雰囲気のイレーネの迫力に迫られたドルドフは、結局剣を収めるしかなかった。周囲の騎士たちも、彼女の言葉に納得した様子で落ち着きを取り戻していく。


 そうして、気まずい空気の静寂が家の中を満たしたのであった。

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