第2話 服を溶かすスライム作ってみたwwww


「はい。どうも皆さんこんにちは。グレイです」

“キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!”

“wktk”

“例のアレを作るんですか!?”

“逃げなかったのは偉いぞ”


 水晶に向かってそう挨拶をすると、勢い良くコメントが流れる。


 同接は50人前後。初配信から少し減ったくらいだ。


 とはいえ、掲示板の住民である彼らは意外と積極的にコメントしてくれるので、盛り上がりに欠けるということはなさそうだ。


「ということでね。今日はタイトル通り男の夢である伝説のスライム…服を溶かすスライムを作ろうと思う」


 神妙な面持ちで理由を話す。


「当然これを作るのには理由がある。それは…スライムに襲われて乱される美少女や美女が見たいんだ…!」

“欲望丸出しで草”

“草wwww”

“これはひどいwwww”

「ま、そんなわけで作っていくぞ!必要な材料はこちら」


 視聴者の興味を掴めたのか、同接は変わらず。なのでそのまま次のステップに進むことにする。


 テーブルに置かれた物が何かを一つずつ持ち上げ紹介していく。


「まずはこれ、スライム用手袋。スライムを普通の素手で掴むと逃げられるし、結構あいつらの溶解能力は強いからな。取れなくなって手が爛れるなんてこともあるから安全器具は必要だ」

“な、なるほど?”

“いや、そんな化物で人の服溶かすなよwww”


 そんなツッコミがコメントで流れる。


「いやいや、だからこそこ今があるんだよ。人間の肌に無害な布と鎧を溶かすだけのスライムを…俺は作りたい」

“良い顔するな”

“ニヤけてるぞ”

“悪の魔術師じゃねーか”

「ニヤけてないわ!…っとコメントにいちいち返事してたら進まねぇな。とりあえず材料は一気に紹介するわ」


 さっきから全く内容が進まないので、とりあえず材料を全部紹介していく。


「えー、これは、スライムを入れる容器だ」


 一番うしろの方に設置された正方形の水槽を叩きながら紹介する。


「200Lくらい入る大容量のものを用意した。一応ガラスだが、普通のだと溶かされるので特殊加工を施してある。用意に半年かかった。これが一番大変だったな」


 正直こんな簡単に紹介できるほど簡単な作成ではなかったが、くどくどと解説しても仕方ないので次に行く。


「そして、妖精の鱗粉。妖精が飛ぶときに舞う粉末なんだがこれが重要なんだ。簡単に言うと他人を落ち着かせる、って感じなんだけど…まあこれも取り扱い注意だ」


 そう言い小さな瓶に入った虹色の粉を見せる。


 妖精の鱗粉。精神安定剤のような効果だと説明したが、これには致命的な問題がある。それが…


「一定量吸った奴は、二度と悲しみ、怒り、迷いなどの負の感情を抱けなくなるんだ。ずっと平穏で穏やかな精神状態で生きていくことになる」

“え?こわっ”

“○物?”

“そんなのあったら大問題だろwwww”

「本当に危ない物なので、服を溶かすスライムを作ろうと思う人は取り扱いには注意してくれよな」


 そう注意喚起をし、次に近くにあった小石のような宝石を取り出す。


「これは水竜の魔石だ。これがどうしても必要だったから、竜種の住処を一つぶっ壊してきた」

“とんでもないやつで草”

“服を溶かすスライムを作るために竜の家を壊すなwww”


 そして、カメラの後ろにあった大きめの瓶を持ってくる。


「これが最後の素材。今回服を溶かすスライムになってもらうスライムだ」

“おお?”

“なんか動いてる?”

“揺れてるだけじゃね”

“普通のスライムに見えるけど”

「そう見えるか?じゃあここにこの鶏肉を入れてみよう」


 俺はそう言われると思って前もって用意しておいた小さな鶏肉を取り出し、瓶の中に入れる。


 すると…


“おお?”

“溶けたな…”

“めっちゃ早くね?”

“この速度、普通の酸じゃないよな…”

“え?なにこれ”


 鶏肉はすぐさま分解されていき、跡形もなく消化された。


「とまぁ、こんな感じにちょっと強めのスライムを用意した」

“はぇ〜”

“普通に実験チャンネルとしてやったほうが伸びるんじゃね?”

“たし蟹”

「チッチッチッ…わかってないな君たちは…俺の目的は実験ではない。浪漫だよ、浪漫」

“いちいちうざいぞ”

“さっさと作れ”

“まだ信じてないぞ”

「お前らはせっかちだなぁ。ま、それじゃ作っていくぞ。まずは、このスライムをこの大きな水槽に移し、この妖精の粉を入れます」


 水色の半透明なスライムを移動させ、妖精の鱗粉を慎重に全て入れる。


 すると虹色の粉をスライムが溶かし…


“おぉ〜”

“なんかラメ入ったな”

“キラキラスライムさん!?”

“可哀想”

“スライムさん精神崩壊してて草”


 取り込んだスライムの体は、まるで星空のような美しい姿に変化する。


「よし、ここからが本番だ。この水竜の魔石に砕ける限界まで魔力を込めていく」


 水竜の魔石を手に持ち、ゆっくりと魔力を込めていく。


“ナニナニ!?”

“すご!これ生放送でCG使いながらやってるってこと?”

“え?これマジ?”

“綺麗〜”

“本物の魔術?”

“なわけ”

“俺は信じてるぞ、この世界にはまだ見ぬ神秘が眠っていることを!”


 幻想的な光が俺の腕から溢れ、魔石に流れるように入っていく。そのファンタジーな光景に視聴者は大盛り上がりの様子。


 よしよし、なかなか好評のようだ。


 魔石はゆっくりと輝き出し、罅が入り…そして砕ける。


「こうしてできた粉を、スライムに混ぜる。ここで一気にかき混ぜるとスライムが吸収できず爆発するので注意だ」


 その水槽の中のスライムを、大きめのかき混ぜ棒で混ぜていく。魔石が溶けるまで、ゆっくり慎重に。そして混ぜること数分、スライムは大きくなりながらもついに完全に魔石が溶ける。


「これで服を溶かすスライムの、完成だ!」


 カメラを近づけ、2倍ほど巨大化したスライムを映す。


 半透明の、水色に透き通ったキラキラしたスライムだ。


 手で掴み、伸ばしたりしてみる。


「うん、触り心地は普通のスライムだが、手は溶かさなくなったな」

“おま、怖wwww”

“よく躊躇なく触れるなw”

“指溶けたらどうすんだよ”

「いやいや、安全なのかどうかはチェックする必要があるしな。……よし、これなら大丈夫そうだ」


 肌がピリピリすることもなく、俺の腕に巻き付こうと蠢くだけ。ナイフで指を切り、スライムに入れてみるが、傷に入り込んだりしようともしないし、粘液が傷をどうにかすることもない。


“ただ石と粉入れただけだけど服溶かせるの?”

「お、いい質問だな。このスライムは酸性と攻撃性を失っただけのただのスライムだ。普通ならそのまま死を待つだけの最弱ちゃんになるはずではあるんだけど…」

“うぉー!”

 

 近くにあったタオルを入れると、端の方からゆっくりと溶けだす。


 そして、数分ほどじっくりと時間をかけてスライムはタオルを溶かした。


「このスライムは簡単に言えば満腹状態なんだ。獲物を溶かし魔力を捕食するのがスライムなんだが、それに限界まで魔力を込めた魔石を砕いて混ぜるとお腹いっぱいになる。人は個人によって違いがあるものの等しくある程度の魔力を保有している。つまり、もう人なんて指先一つ食べられない、というわけだ」

“な、なるほど?”

“なるほどわからん”

“なんかすげー”

“大食いしたあとにラーメンは食えないけどアイスは食えるってことか?”

「そう、そういうこと!魔力のない物質は溶かすが、魔力が含まれているものは溶かせないスライムということなんだ!」


 この5年、俺がついにたどり着いた結論を、皆に説明する。


“でも異世界なら魔力装備とかあるんじゃ?”

「そう、そこがネックなんだ。魔力装備は高級品で、初心者冒険者や普通の騎士なら通用するんだが、上位の冒険者や女騎士になると魔力の篭った装備をしててな…」

“つまり初心者狩り用のスライム…ってコト!?”

「そうなんだよなぁ…ま、あんまり言葉で説明しても理解できない人もいるだろうし、実演してみよう」

“実演?”

“ざわ…ざわ…”

“もしかして協力してくれる美女が”

「いるわけないんだよね。ということで、俺が実験体だ。よろしく」

“ちくしょぉー!”

“誰得?”

“お前かい!”


 そんなツッコミを尻目に、俺はカメラの前に立ち、スライムを取り出し地面に放す。


「お…おお!」


 するとスライムは、勢い良く俺に飛びついてくる。


 攻撃性を無くした満腹状態とはいえ、スライムは少しでも蓄えを得ようと獲物を本能で捕らえようとする。拘束力はなかなかに強く、体は満足に動かせない。


「お〜…いやーん」

“草”

“マジで服だけ溶けててワロた”

“伝説のスライムの完成だ!”

“誰得だよwwwww”


 上に来ていたローブがゆっくりと溶け、シャツとパンツだけになる。


 配慮のため下着は魔術で加工済だ。


「結構いいできなんだけど、ちょっと拘束力が強すぎるかもな。一般ピーポーが襲われたら逃げられずに餓死とかもあり得るかもしれん。あと、普通なら下着も溶かすから何か対策がないとBANされそうだわ」

“こy”

“ちゃんと対策してたか”

“お前のポロリとか本当に誰得?”

「ま、使用するときはそばで適切な時間で引き剥がさないといけないな。ただ、肌の汚れとか角質とかも食べるから美容効果はありそうだ」

“何それすごい”

“スライムデトックス!?”

“女性に人気の服だけ溶かすスライム(笑)”


 この辺りは少し改良の余地ありだ、そんなことを考えながら締めに入る。


「と、皆さん。こんな感じで、服を溶かすスライムの完成です!」

“お疲れ様”

“888888”

“乙”

“茶番でも動画としてはいい出来だった”

“俺は信じてるぞ”

「えー、chフォローと高評価もよろしくね!それでは次回の配信でお会いしましょう。ばいばい!」


 そうして、グレイは枠を閉じる。同接の視聴者数は3000人超え。とても満足のいく結果であった。


「っ…こいつ、結構力強いな」


 カメラが消えたことを確認し、スライムを掴み引き剥がす。顔もないし表情もないが、何故かこちらも満足そうな雰囲気だ。


 そんなこんなで、グレイの初配信は成功を収めたのであった。

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