5.レース荒らし
「このブルーム、フィンのお店にあったのとは全然違うね」
「あれは何世代も前のモデルだから」
大会運営のユーイさんから貸し出されたブルームは、フィンの店にあった不良品とは大違いだった。空飛ぶ箒というよりは機能的な杖に近いイメージで、
「こうやって魔力を流すと、ほら」
フィンはブルームに
「おぉ、ほんとだ! 浮いた!」
「うまいうまい! サラ飲み込み早いじゃん!」
股が痛くなるのでは? という心配もあったけれど、体全体に浮力が働いているような感覚だった。魔力を前へ押し出すようにイメージすると前進する。問題なく飛ぶことができそうだ。
そんなこんなで浮いたり動いたりしていると、ガラの悪そうな男の集団がレース場に入ってくるのが見えた。
「あの人たちは?」
「あー、よその町のグループの人たちだ。最近よくこっちに来るんだよ」
フィンとユーイさんは少しげんなりとした顔つきになる。
「レース荒らしっていうの? 少し速いからっていい気になってさ。来るたびに上位独占してくるし」
「うちは上位入賞者に町で使える商品券とか配ってるのもあるかもね。参加してもらうのはありがたいんだけど……」
「え? 町のレースで賞品とかあるんですか!?」
賞品とは聞き捨てならない情報だ。
「うん。最初は役場と連携が必要だったりで大変だったけど、ペルシくんがいろいろ頑張ってくれてね。これが上位入賞者が貰える賞品の一覧ね」
「へ、へぇ~」
賞品の一覧を見せてもらうと、沙羅時代でいう数万円分ぐらいの商品券が配られているようだった。我が家の財政難からすれば大金どころの話ではない。
「ユーイ。またよその連中が来てるぞ」
「あ、ペルシくん。今日も選手として出るの?」
「当たり前だ。あいつらにデカい顔させてられるか」
私が賞品の一覧表に夢中になっていると、町長の息子であるペルシさんがやってきた。青い短髪で目つきがキリっとした私と10歳ほどしか離れていない若者だ。町長の息子としての責務を果たそうと昔から頑張っているという記憶がある。
「ん? お前……サラか?」
「あ、はーい」
「おぉ、久しぶりだな! もう体は大丈夫なのか?」
「はーい」
「……」
えーと、レースは週に一回。一位になると月の食費がまるまる浮くとして……いや、先に衣類や寝具を新調したほうが……。
「俺こいつになんかしたかな?」
「たぶんサラはレースの賞品に夢中になってるだけだと思うよ」
隣で何か話しているような気もするけど、私の耳には何も入らなかった。
◆
「なんで一番後ろからスタートなの!? 不公平でしょ!?」
レース開始の間際、私は数十人と並ぶ選手の中で一番後ろの位置からスタートさせられようとしていた。
「ユーイさん言ってたじゃん。後ろでゆっくり走るなら参加してもいいよって」
「レースになったら関係ないよ! それに私はOKなんてしてないから」
「なに騒いでんだお前ら」
前のほうからやってきたのはペルシさんだ。
「サラがみんなと同じ位置からスタートするって聞かないんだよ」
「はぁ? お前今日が初めてのレースじゃないのか?」
「……別に初めてじゃないもん」
「なに意味わかんないこと言ってんだ。迷惑かけるなら追い出すぞお前」
ペルシさんは問題児を見るような目で私をギロリと睨んだ。レースから追い出されるのは困る。ここは大人しく退いておくべきか……。
「そ、それならスタート位置はここでもいいよ。けど、前があまりにも遅かったら追い抜いちゃうから」
「おい早くしてくれよ! いつになったら始まるんだぁ!?」
声を荒らげるのはよその町から来た連中だ。ペルシさんは露骨に顔をしかめる。
「すみませんねぇ。初めての子がいるんで」
「あぁ!? 初心者はスタートクラスで走っとけよ!」
「ったく、これだからクソ田舎は……」
ガラの悪いよそ者たちは思い思いに悪態を吐いている。言われ放題のペルシさんは無視しようとしているがイライラを隠せていない。そして、私に「後ろで大人しくしとけよ」と言ってスタート地点の前列のほうへと向かっていった。
「最近はずっとあの連中が上位独占してるからみんな冷めちゃってて、それでペルシさんがレースに出向いてるんだよ。ほら、町のみんなも賭けたりして楽しむ場になってるからさ」
フィンは小声でレース場の事情について教えてくれる。町のみんながカジュアルに楽しむレースで、ガラの悪いよそ者が賞品目当てに荒らしに来ているのだとしたら面白くない人もいるだろう。
「でもペルシさんでもなかなか勝てないんだよね……。少し前までは平和なレースだったんだけどなぁ」
「ペルシさんって速いの?」
「うん。
フィンの話を聞いて、このレース場は町のみんなの娯楽であること。そして、よそ者の連中が歓迎されていないことがなんとなく分かった。
――それなら町の住民である私がぶち抜いても文句言われないよね。
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