4.Formula broom

「サラが元気になって良かったよ! もう何年も家に籠りきりだったもんね」


 フィンはうきうきるんるんの上機嫌で私を先導して町を歩いていた。ここ2~3年は一緒に外出した記憶がない。普通は疎遠になったりするものだけれど、こんなにも喜んでくれるのはありがたいことだ。


「フィン、さっき言ってたFormulaフォーミュラ broomブルームって……」


 空飛ぶ箒によるレーススポーツ。沙羅時代にF1レーサーとして活躍していた私は、その情報に興味があった。


「サラも興味ある? 5年ぐらい前から流行り始めたスポーツなんだけど、もう世界中で大流行してるんだよ! 一昨年にさんとさんが牧場にレース場も作ってくれたからみんなそこで遊んでるよ!」


 ペルシさんは町長の息子さんだったはずだ。私がもっと幼くて元気だった頃に遊んでもらったり、みんなでペルシさんの成人をお祝いした記憶がある。ユーイさんのことは知らない。


「それって私でも遊ばせてもらえるのかな?」

「ブルームも貸してくれるし、誰でも参加できるからたぶん大丈夫!」


 私たちはその足取りで町はずれにある牧場のほうへと向かった。





「ここがレース場……」


 たどり着いたのは一見だだっ広い草原に見える牧場だった。しかし、お祭りのように露店や休憩スペースなどが数多く設けられていて、休みの日だからか数多くの人で賑わっている。


「よく来たねフィンちゃん。その子は?」

「ユーイさん! サラが元気になったので連れてきました!」

「あー、体が弱いって言ってた。初めまして、牧場主のユーイです」

「サラです。よろしくお願いします」


 ユーイさんは30歳前後に見える若いお兄さんだった。天然パーマの栗色の髪の毛は綺麗に整えられていて、身なりも町の人と比べて小綺麗な印象を受ける。


「ここは祖父がやってた牧場でね。僕はもともと国都のほうに住んでいたんだけど、田舎でまったり牧場経営するのもいいなーと思っててさ。それでちょうど祖父も引退したいって話だったから数年前に妻と一緒に越してきたんだ」


 どうやら国の栄えたところからやってきた人らしい。少し上品で垢抜けた感じ出ている理由が分かった気がする。


「とは言っても、最近は牧場運営よりもFormulaフォーミュラ broomブルームの大会管理に追われてるんだけどね。今日もこのあとレースがあるから見ていきなよ」

「ユーイさんはすごいんだよ! ペルシさんの無茶ぶりでレース場の設備を整えてくれたり、みんなが楽しめるようにレースのルールや賞金制度も作ってくれたり。あと奥さんもすっごく美人だし!」


 ユーイさんはフィンから熱烈な賛美を受けて苦笑しているが、この町でFormulaフォーミュラ broomブルームというスポーツの土壌を作った立役者なのは間違いないのだろう。


「ユーイさん、今日ってスタートクラスやってますか?」

「あぁー、そっか。初めてだからそうだよね。実は最近ほとんど開催していないんだ」

「ええ!?」

「ほら、もうこの町に初心者いなくなっちゃったから」


 ユーイさん曰く、Formulaフォーミュラ broomブルームは年齢によってクラス分けがされているらしい。


 具体的には

 初心者及び14歳未満:ジュニアクラス

 14歳以上の初心者:スタートクラス

 14歳以上:レギュラークラス

 に区分されるとのことだった。


 私は14歳なのでスタートクラスかレギュラークラスになる。


「新規の子供には安全なジュニアクラスから始めてもらってるんだけど、一応協会から運営許可もらってる公式レースだからサラちゃんをそっちに出すわけにもいかないしなぁ……」


 ユーイさんの言う通り、協会から許可を得て開催している公式レースで規約違反はまずい。大人しくレギュラークラスから参加したほうがいいだろう。


「私はレギュラークラスでも大丈夫ですよ」

「うーん、いきなりレギュラークラスだと少し危ないから……」

「あ、それなら私が一緒に付き添うよ! 後ろのほうでゆっくり走ってるなら大丈夫でしょ?」


 フィンは私がレースに参加できるように提案してくれる。けれど……。


「フィン、それだとレースにならなくない?」

「サラは今日初めてブルームに乗るんでしょ? いきなり大人に混ざってレースで競うのは無理だよ」

「そうだね。最近はレギュラークラスもだいぶ盛り上がってるし、先頭集団に混ざると接触もあって危ない。フィンちゃんと後ろでゆっくり走るなら許可できるかな」


 2人の間でどんどん話が進んでいく。しかし、私はまったく別のことを考えていた。


――レースで手を抜くとかありえないでしょ。

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