3.空飛ぶ箒
「なにこれ……」
私は手のひらへピタッと吸い付くように飛んできた箒をまじまじと見つめる。それなりに大きい箒のはずなのに、ほとんど重さを感じないのは何故だろう。
「サラ大丈夫!? おかーさん、このブルームやっぱり不良品だよ! 安いからって変なもの仕入れちゃダメだって!」
「仕入れたのはとーさんよ。ごめんねサラちゃん。怪我はない?」
どうやらこの箒はお店の商品のようだ。ていうか意図せず動き出すとか危なすぎる。危うくスープを零してしまうところだった。
「大丈夫ですけど……ブルームって?」
「空飛ぶ箒のことだよ。これで飛んでレースする
空飛ぶ箒のレーススポーツ。
家で寝てばかりだった私の記憶の中には、それに関する情報はなかった。
「ていうか、なんかこれ手に吸い付いちゃってるんですけど……」
「サラちゃん、いったん体から出してる魔力止めれる? 多分だけど不良品だからサラちゃんの魔力と勝手に反応しちゃってると思うの」
魔力とは、元の世界で言う気力や精神力のようなものだ。魔力を体から表出させることで、この空飛ぶ箒のような魔道具や魔石を起動することができる。
「ええ!? 私、魔力なんてほとんどないですよ!」
しかし、私は魔力を体から出している自覚などなかった。それどころか病弱な私に魔力なんてほとんどない。日常で使うような魔石すら動かせないほど魔力がないと記憶している。
「おかしいわね……。えーと、確かここの魔石を外せば停止するはず」
「あ、離れました」
シュンお母さんが魔石を取り外すと、私の手に吸い付いていた箒(ブルーム)は簡単に離れる。
「……サラちゃん、この調理用魔石に魔力を流してもらえる?」
調理用魔石はひし形に近い形をしていて、でっぱり部分に魔力を流すと上に乗せた鍋などを加熱することができる代物だ。
私は言われるがままに机に置かれた調理用魔石に魔力を流そうと手を近づける。すると、魔石からボゥ!と大きな炎が噴き出した。
――なんでぇ!?
まだ魔力を流していないどころか、魔石に触れてもいない。
「お母さんこれどういうこと? サラは触ってもないのに……」
「サラちゃん、ぎゅーって魔力が出ないように絞ってみて?」
私は言われた通りに腕にぎゅーっと力を入れてみる。すると、魔石の炎が段々小さくなって、最後には消えていった。
「うーん、幼少期に魔力を制御できなくて溢れる子もたまにいるんだけど、それと同じ感じがするのよね。元気になった弊害かしら? サラちゃんも本当に体調が良さそうね」
「サラほんとに体良くなったの!?」
フィンはものすごく嬉しそうに表情を崩した。その様子を見たシュンお母さんは、何かを考えるように口元に片手を当てる。
「体調も戻ってて、魔力も溢れるぐらいあるなら仕事も紹介できるかも……。私のほうで少し探しておくから、今日は久しぶりに2人で町を見てきたら? もう何年も一緒にお出かけできてないでしょう?」
「おかーさんいいの!? やったー!」
お出かけ許可と店番からの解放を与えられたフィンは大喜びだった。
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