第33話 チーズフォンデュ

■フィオレラ村 中央広場


 俺が広場に向かうと、雪を片付けた村人たちが祭りの準備を始めていた。

 村長に聞いたところによると、この祭りのあとは皆、家にこもって家族と年明けまで過ごすのが通例となっている。

 最後の顔合わせと、保存のきかないものや余った食材を持ち寄って盛大に振る舞って食べるのがこの祭りの趣旨らしい。


「チーズフォンデュを食べる習慣に近いのか……」

「パパ―、ちーずふぉんでゅって何?」

「チーズをワインなどで溶かして鍋で煮てな固くなったパンや肉、ゆでた野菜をチーズにつけて食べる料理だ」

「ほぅ、そいつぁ面白いじゃないさ。チーズを丁度消費するためにもってきてはいたけど、ただ切って食べるのにも飽きていたところさね。フィリップ、工房に行って鍋を持ってきな」

「姐さん、了解です!」


 俺がドリーに説明していたら、ちょうどエミルが来ていたのか面白そうだとのっかってきた。

 持ってきているのは大きなチーズに、売り物にしていたが余っていたパン類に燻製肉、そしてワインである。


「偶然とはいえ、丁度いい提案だったようだな」

「毎年恒例とはいえ、だいぶ長いことやっているとマンネリ化してきてねぇ。キヨのお陰で今年は楽しくなりそうさ」


 ケラケラと豪快に笑うエミルは広場に用意されているテーブルに食材を置いていく。


「キヨシ様じゃねぇか、この間は狩りありがとよ。それにさっきの雪を使ったヒムロだったか? 肉の貯蔵庫ができてワシらは大助かりよ。ちょうど、今朝もウサギをたくさん狩ってきたから一部いれておいたぞい」


 今度はゴンじぃが俺に声をかけてくる。

「大量にできた雪を使ったヒムロのアイデアが役に立ったなら何よりだ。ただの木の家ではあまり持たないだろうから土をかけたりもしていきたいところだな」

「そうかい、あれをもう少し増やせれば村で肉を食うことが多くなる。毎日とれるわけじゃないから、保存できるのは助かるってぇもんだ。何かできることがあれば手伝うぞ。なぁ、ガロ」

「オヤジのいうとおり、キヨシ様には俺ら狩人も感謝しているんだ。なんでもいってくれよ」


 感謝なんて言葉を久しく聞いていなかったので、途端に照れ臭くなってしまう。


「姐さん! 鍋を持ってきましたよ」

「キヨ、これをカマドにかければいいのかい?」

「卓上に鍋をかけてあっためられればみんなで摘まめるんだがな……この熱くなる魔導具をコンロ代わりに使ってみるか……」


 俺は魔導具に魔力を込めてあっためると、テーブルの上に石を置いてカマドっぽく作り上に鍋をのせてみた。

 しばらくすると温まってきたので、チーズをワインで溶かしてみるとグツグツと煮えチーズとワインのいい香りのするチーズフォンデュが出来上がる。


「まぁ、こんな感じだ」

「これにパンとかを付けて食べるのかい?」

「そうだぞ、熱いから串やフォークでやるといいぞ」


 俺の言葉に従ってエミルが一口パンのかけらをチーズにつけて食べた。

 その目がカっと見開いて、大きな声を上げる。


「うまぁぁぁい! こいつぁいいぞ、村長さんにも食べて貰って、今後の定番にしなくちゃいけないさ」


 エミルの反応を見る限り、気に入ってもらえたようだ。


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【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


チーズフォンデュって家ではあまり作らないけれど、冬場に食べたくなりますよね。

日本の鍋料理に通じる趣を感じます。


あと2回ほどでメインのストーリーは終わり、閑話を1話入れて年越し話は終わりとなります。


皆さまのお陰で異世界ライフ部門の10位のあたりを維持できておりますので、感謝しております。


ほのぼのあったかなエピソードを引き続き書いていきますので、よろしくお願いいたします。


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