第26話 俺、また何かやったのか!?
俺達は暗くなった中、念のためにもってきていたカンテラであたりを照らしながら木々を集めて焚火をする。
暖を取ることと共に、鹿を警戒させるためだ。
「まぁ……バケモノ相手だとどこまで警戒してくれるかわからないがな」
固いパンを食べて少し腹を満たしながら、俺達は焚火の音だけが聞こえる静かな時間が過ぎている。
集めた木々が無くなっていき、焚火の灯が小さくなりはじめた。
「こんなにもびくびくする時間は今回限りにしたいな」
「そうだなぁ、あのデカイ奴さえ何とかなればこの森も安全になるさぁ」
「ゴンじぃは落ち着いていてすごいな」
「老い先短いとならぁ、諦めも作ってもんよ」
「親父、冗談でも笑えないぞ」
ガロがいうように、老い先短いなんて言ってほしくはないな。
まぁ、異世界の寿命がいくつかはわからないのであんまり無理も言えないが……。
俺がそうもっていると、ボチャンと大きな水音がした。
パチンと同時に火が爆ぜる。
俺達は会話をやめて、静かに周囲を警戒した。
ゴンじぃとガロは弓矢を構えるが、俺は武器がないので、身をひそめる。
ボチャボチャと大きな水音が連続で続き、何かが近づいている気配が強くなった。
暗がりの中に大きな2つの玉が光って浮いている。
「眼だな……人間を見て逃げるよりも、人間を見て攻めてくるのは本当にヤバイ奴だ」
「ゴブリンを返り討ちにしたことで、自分の強さを理解できたってぇわけだな」
ゴンじぃの言葉に俺も頷く。
熊なども人間に慣れ己の方が強いとわかると、容赦なく襲い掛かるようになるなんて聞いたことがあった。
「ガロ、俺らの矢が効くとは思えねぇ……キヨシ様の作戦に乗るぞ」
「わかってる……今だ!」
近づいてきて、焚火の灯でうっすらの全身が闇に浮かび上がった鹿のバケモノへ向かってガロが矢を放つ。
ヒュンと空気を切る音と共に矢が放たれ、バケモノへと刺さった。
だが、バケモノは怯むことなくこちらに近づいてくる。
水音が無くなり、足音が草を踏む音に変わった。
だんだんと全形が見えてきて、見上げるほどの巨大であることが分かる。
「でかい……こんなのとシーナは互角にやりあっていたのか……」
「フシュルルルル! ギュォアァァ!」
バケモノが吠え、俺達の方へ駆け出した。
だが、その足がガクンと落ちる。
足に予備の弓矢の弦で作ったくくり罠だ。
「いまだ! 出てこいシーナ!」
バケモノの足元から両手剣を持ったシーナが飛び出しくくり罠で動けなくなった足を斬り上げる。
ブシャァアと血が飛び散り、バケモノがさらにバランスを崩してその場に崩れた。
足は繋がっているが、深手を負ったのは確かである。
「シーナ。剣をこちらに向けろ!」
「マスター? ……わかったわ」
疑問を抱く前に俺の強い言葉に何かを感じたのかシーナはバケモノと距離をとりながら下段の構えをとり、刃を地面すれすれにしながら後ろ……すなわち俺の方へ向けた。
血にぬれた両手剣を洗うつもりで俺が〈浄水〉を両手剣にかけるとシーナの両手剣が白く輝きはじめる。
濡れた血が洗い流さていくほどに両手剣全体に不思議な光が満ちていった。
「この力……いけるわ! ありがとう、マスター!」
シーナが自信に満ちた笑みを浮かべると一気に間合いを詰めて両手剣でバケモノの首を跳ねるように横に凪ぐ。
夜闇の中でも目立つ光の流れがバケモノの首に触れると、バターを切るようにスパっと首を綺麗にはねた。
「さすが、マスターね!」
「さすがキヨシ様だ」
「いやいやいや、俺は普通にやっているだけだ!」
脅威は去ったのだが、俺の〈浄水〉は思った以上にとんでもない力らしい。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
戦闘を短くかつ迫力あるように書くって難しいですね。
じょうずに書ける人達はすごいと思ってます。
これで戦闘は終了、事後処理を行ってこの章もあと2話程度で終わりますので最後までお付き合いくださいませ。
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