第25話 共同戦線
ガキィンと金属同士がぶつかったような音が響いた。
「おいおい、どんなバケモノなんだよ……」
「マスターのいうとおり、この鹿はバケモノよ。瘴気に侵された、ねっ!」
シーナの身が心配で俺は思わず声を上げてしまったが、シーナの方は余裕がある。
鹿の頭に蹴りを入れて、距離をとった。
ブンと両手剣が軽々と動き、剣閃が走る。
キンキンと突撃してくる鹿をシーナがいなしている間にも、太陽が傾き始めており、森に闇が下りてきた。
「夜になると夜目の聞く鹿の方が有利だ。ここは逃げるぞ!」
「でも、マスター! あたしの出番!」
「バカッ! お前が傷つくほうが嫌なんだから従え!」
「マスター……」
シーナの顔が赤くなって照れだすが、そんな状況じゃない。
「あいつが瘴気に侵されているなら……俺の〈浄水〉は苦手なはずだ。これで撤退時間を稼ぐぞ!」
俺は目を閉じてイメージを固める。
水を操る力のようなものが、〈浄水〉を使ってきたことで成長してきていた。
今ならば、もっといろいろできそうである。
「この天幕で塞ぎつつ逃げるぞ!」
俺が出したのは〈浄水〉を両手を頭上に掲げてから放つことで噴水のように広がったカーテンでシーナと鹿の間を分断した。
予想通り、鹿は〈浄水〉が苦手なようで、近づこうとするもすぐに距離をあける。
「シーナ! こっちへ来るか地面に潜れ!」
「マスター、すぐにいくわ!」
俺達の方へシーナが駆け寄ってきたのを確認すると、俺は両手で思いっきり<浄水>を噴射した後、水飲み場である川の下の方へと逃げていった。
◇ ◇ ◇
川に沿って降りて行いき、開けた場所へとたどり着いた。
俺達は休憩をしつつ、今後の対応を考える。
「ぜぇ……はぁ……逃げるといったが、俺の、体力が、あまりないことを、忘れて……た……はぁ……」
「さっきまでカッコ良かったのに……マスターったら、面白いね」
「どうするなぁ……お嬢ちゃんの剣でも捌くのが限界となると厄介だなぁ」
「ふ、ふん! あたしだってねぇ……本来の力が取り戻せていたらあんな奴は一撃なのよ!」
「シーナさんはその姿が本来の姿じゃないってことなのかい?」
ガロが俺も気になっていたことを聞いてくれる。
幼女の姿が本来ではないというのはどういうことだ?
「瘴気に取り込まれかけていたから、力が弱まっちゃったのよ。ドリーだって、本来の力や姿はあるのよ」
「口調とかから全然子供だと思っていたんだがな……」
「精霊に年齢の概念はあまりないわよ。どちらかと言えば内なる力がそのまま精神に影響する感じかしら?」
「まぁ、気長にいくさ。それでだ……あいつとどう戦うかなんだが、俺の方で少し考えがあるシーナと俺が協力すれば倒せるはずだ」
「さすがキヨシ様だぁ」
「ええ、マスターとの初めての共同作業必ず成功させるわ!」
「シーナ、その言い方はちょっとやめようか?」
俺がシーナにツッコミをいれるも、シーナもゴンじぃ、ガロも「なんで?」という不思議そうな顔をしている。
もしかして、こっちじゃ初めての共同作業って結婚とかでいわないのか!?
「あー、いや……何でもない。そうだな、共同作業頑張ろうな」
「どうしたのよ、マスター。顔がちょっと赤いけど、何が今の言葉にあったの! ねぇねぇ!」
今度は俺が『穴があったら入りたい』気分になるのだった。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
異世界あるある。
言葉の言い回しでディスコミュニケーション!
僕はこういうのが好きだったりしますので、たまに使いたくなりますね。
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