第三章 一狩り行こうぜ

第21話 冬支度のために

■フィオレラ村 教会 薬草園


 リカード達がさって2週間がたった。

 次に彼らがくるのは冬が空けるころとのことである。

 物々交換が中心のため、交換するものがない時期に行商人はこない。

 どうしても物入りがあった時は薪などを集めて街へ売りに行って買いだしてくるというのがこの村のやり方だ。

 昼休みを知らせる教会の鐘が鳴る。


「ふぅ、こんなものか……一休みだな」

「パパ、お疲れ様ー」


 俺が薬草園の手入れをしてから腰を上げると、ドリーがパタパタとやってきた。

 むぎゅっと足元に抱き着きすりすりと頬をこすりつけてくる。

 植物の精霊からなのか、寒いのは苦手なようで肌を寄せ合ったり、一緒にお風呂へ入ることをいいだしてきていた。

 このくらいの年頃の娘を持ったことがないし、親戚の子の世話をしてもそれほど長い時間はないので、正直戸惑う。


「ドリー、そんなにひっつくと汚れるぞ?」

「汚れたら、パパとお風呂にはいるの♪」

「昼間から風呂にはいったら湯冷めするから、それはない。ほら、ホリィが昼ご飯を用意してくれるだろうからいくぞ」

「はーい」


 ぴょんと俺から離れたドリーを後ろに従えながら司祭の家にいこうとしたとき、教会の敷地内であまり見かけない人がいた。

 森の調査の時にいた狩人の……。


「たしか、ゴンゾ。ゴンじぃだったか?」

「おお、キヨシ様。お昼時にワリィなぁ……シスターへ相談に来たんだが、キヨシ様に相談してもよさそうだな」

「俺ではたいして役に立てないかもしれないが、話くらいは聞くぞ?」


 俺はそういって、宿舎の前に置いている木箱にゴンゾと共に座る。

 ベンチが作れればいいんだが、手間もかかるので空いている木箱を椅子代わりに使っているのだ。

 

「もうだいぶ寒くなってきてるよなぁ。キヨシ様のおかげで森も生き返ってきているもんだから、村の子に木を集めをさせてるんだ」

「ふむ、確かに薪の消耗が激しくなってきたからな……ただ、それとゴンじぃがどう関係するんだ?」

「ここからなんだよ、キヨシ様もあせっちゃいけねぇよ。んで、本題なんだがその村の子がデッケェ鹿を見つけたそうだんだよ」

「鹿だと! いい肉が取れるな。鹿は死すべし、慈悲はない」


 俺が本題を促したところ、ゴンじぃが告げた敵の存在に俺は胸の奥が熱くなる。

 小さいころ育てていた野菜の目を鹿に食われたことがあり、憎しみの心が思い返された。

 一度は狩猟免許を取って害獣駆除をしようかと思ったほどである。


「お、おぅ……キヨシ様がそんな顔をするなんて、珍しいな」


 そんなにひどい顔をしているのか、ゴンじぃがちょっと引いていた。


「話は聞かせてもらったわ」


 ちょっと変な空気になっていたところで、地面からズモモモという音がしそうな動きでシーナが地上に現れる。

 シーナは常に地上にいることはなく、地下や池の底などにいることが多かった。

 この間は樽風呂の足元から出てきてとんでもないことにあったんだが、別の話である。


「シーナか、狩りとか得意なのか?」

「もちろんよ、精霊騎士として活躍できる場面が来たということね!」

「……ということだから、昼飯後に鹿が出てきた場所まで案内してくれ」

「おう、助かるぜぃ」


 ゴンじぃの顔から気難しさが取れて、柔和な笑みが戻ってきた。

 さて、狩りなんて初めてだが、どうなることやら……。

 

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【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


新章はじまりました。

今回はシーナをメインに掘り下げていく予定です。

農家に鹿は天敵なので、キヨシもかなりヤル気まんまんです。

じょうずに焼けるかな? 今後の展開をお楽しみに!


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