第19話 貴方があたしのマスターなの?

■沼地

 

 ヘドロの怪物を洗っていたら幼女が中から出て来た。

 何を言っているのか分からないかもしれないが、ありのまま目の前に起きたことなんだよ。

 瘴気の雰囲気がまだあったので、俺は沼地全体を<浄水>で洗い流してから、幼女を任せたセリアの方に戻った。

 

「こんなところに鎧をきた幼女って、なんなんだ? セリアのような被害者か?」

「わ、私がドジをしたみたいにいわないでくれっ。確かに不覚にもやられてしまったのは事実なのだが……」


 無愛想に思えたセリアの表情がコロコロと変わる。

 打ち解けてくれたのであればよかった。


「で、結局この子は何なんだ?」

「私も初めてみるのだが、伝承で行けば彼女は……」


 そうセリアが言い始めた時、騎士幼女が目を覚ます。

 金髪のツインテールを揺らして顔が向き、目を開けば澄んだ空のような青い瞳が俺を見つめて来た。


「貴方……貴方があたしのマスターなの?」

「はい?」

「パパはね、ドリーのパパだよ」


 おぶったままのドリーが騎士幼女に向かって笑顔を向けている。

 周辺の瘴気が無くなったせいか元気になったようだ。

 だが、微妙に会話が成り立っていないよな気がするんだが……。


「わかっていないならそれでもいいわ。あたしは精霊騎士ディーナ・シーのシーナよ」

「ただのおっさんのキヨシだ」

「ドリーはドリアードのドリー!」

「エルフ族の戦士、セリア。やはり、ディーナ・シーなんだな……」


 お互いが挨拶を交わしたところで、シーナの処遇について相談しあうことにした。


「シーナはこのままここに居るのは危険だと俺は思う。瘴気というのがどこから来ているのか分からんし、取りつかれたら逆に瘴気をばらまく存在になるっぽいしな」


 俺はシーナが元に戻り、一旦〈浄水〉で洗ったことから綺麗に戻り始めている周囲の状況を眺めて告げる。

 あと、幼女を森に放置しておくのは人としてやっちゃいけない気分になるのもあった。


「私もキヨシの意見に賛成だ。森から離れておいた方がいいが、森自体の維持管理は別にやっていく必要もある」

「それはそうかもな。何かあったら呼んでくれれば俺が〈浄水〉で何とかできる」

「わかったわ、じゃあマスターと一緒にいくわ。助けられた恩義を返さないと騎士の名折れよ……べ、別にここが怖いなんてことはないんだからねっ!」

「まぁ、瘴気で怪物になったのなら怖くはなるよな……わかったわかった」

「だぁかぁらぁ! 別に怖くなんてないの! 騎士としてマスターを守るのが責務なの!」


 ぽかぽかと俺を叩いてくる金髪幼女は顔を真っ赤にしている。

 お嬢様な見た目と相まって、その姿は微笑ましく感じた。


「なにはともあれ、帰ろうか。ホリィがびっくりしないといいけどな」

「ちょっとぉ! あたしの意見を流さないでよぉー!」


 にぎやかになった一団となり、俺らは岐路につく。

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