第14話 完成、キヨシの湯

■フィオレラ村 教会の庭


 俺は村長のところへ行き、酒の飲み終わった樽がないかと聞いたところビールを作っている村人を紹介してもらい、空いた樽を教会の方へ持ってきてもらう。

 我ながら、風呂に入れると意気込んでからの行動力は恐ろしい。

 いや、水で体を洗うのもいいんだが日本人としては湯舟につかりたいんだ。

 温泉があれば一番なんだが、贅沢はいえない。

 だから、五右衛門風呂にたどり着いた。


「よし、この樽に水をためてと……」


 俺は村人が運んできてくれた樽の蓋を開けてビールの香りがほのかに残る中へ〈浄水〉で水を張る。

 井戸で汲むのがこの村では一般的だが、面倒なのは避けたい。

 集まっている村人の視線が俺のやることに集中していた。


「パパ、何をしてるの?」

「風呂を作っているんだ」

「キヨシ様、お風呂なんて町でないと入れない高価なものを作ることができるのですか?」


 ドリーの問いかけに俺が答えていると、ホリィがガッと勢いよく話に割り込んでくる。

 女性な上にシスターという身を清めることが多いホリィにとって、お風呂の存在はとても興味深いものなのだろうな。


「俺の故郷での文化というかやり方でな、五右衛門風呂ってのがあるんだ」


 水を八割ほどためた樽の中に先ほどリカードからもらった温熱の魔導具に魔力を込めて投げ込んだ。

 本当なら、鉄製の窯を火であぶって沸かすのだが鉄の器などないので、湯沸かしの方法の1つである熱した石を投げこんで沸かす方式をアレンジする。

 しばらくすると、沸騰するほどではないものの湯気が立ってきて温まってきたのが分かった。


「さて温度は……ちょっと熱いか、〈浄水〉」


 女神様も俺が蛇口の水を捻るように〈浄水〉をつかうのは想定ないだろうか?

 まぁ、今更仕方ないので俺なりに自由にスキルを活用させてもらうことにした。


「いい温度になったな……入りたいが、さすがにみんなが見ている前で裸にはなれんか」

「そないなことなら、ええもんがあるで」


 俺が悩んでいるとちゃっかりとリカードが顔をのぞかせてくる。

 その顔には笑顔が浮かんでいるが、この顔は儲かりそうなことを見つけたセールスマンの顔だ。


「いいものがあるのはわかったが、金はもってないぞ」

「お金はええねん、このアイデアを買わせていただきたいんや」

「アイデアを買う?」

「せや、さっき魔導具の在庫があまってるゆーたやん? それをこないな形で空いた酒樽を使って風呂にするなんて大発見やん! 金の匂いがするでぇ~」


 そういうことかと俺は納得した。

 リカードは在庫処分する手立てができるので、いろいろと融通を利かせて使用感などを改善するつもりらしい。


「わかった。別に俺は五右衛門風呂で儲けたいとは思ってないからな、好きにしてくれ。で、脱衣所になるような囲いを用意してくれないか?」

「ほな、予備のテントの材料を使って作りましょ。セリアもてつどーてーな」

「わかった」


 こうして、教会の一画に五右衛門風呂式入浴場『キヨシの湯』が出来上がった。

 キヨシの湯がこの後、ほうぼうの教会に設置されて寄付がたくさん入るようになると噂になるのはまた別の話である。

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