第一章 村の畑を豊かに

第6話 彼女嫁なし男、娘を認知する

■フィオレラ村 教会司祭の家 寝室


「パーパッ! 朝! 朝だよー!」

「ドリーか……ちょっとゆっくりさせてくれ、昨日は飲みすぎた」


 俺の体をゆすって起こそうとするドリーを無視してシーツを被り直す。

 若干頭が痛いのは事実で、村のビールを結構飲んだ記憶があった。

 

(大学のコンパとかで飲んだのが最後だから……10年ぶりの飲み会にはしゃぎすぎたな)


 ジンジンと痛む頭を休めるように眠ろうとする俺をドリーがゆすってくる。


「むー! パーパ! ドリーお腹すいたのー! パパのお水が欲しいのー!」

「誤解されそうな言い方をするな」

 

 ゆさゆさと揺らされながら変なことを言い出すドリーに根負けして俺は起きあがった。

 ドリーはにっこりと微笑んで起き上がった俺を出迎える。


「パパ、おはよー!」

「ああ、おはよう……そのパパというのは……もう、いいか」


 昨日から何度か訂正を求めたが「なんで?」と純粋な瞳で見返されるだけだったので、あきらめた。

 ヒヨコの刷り込みみたいなものだろうと納得する。


「彼女どころか、嫁さえいたことないんだがな……」


 ぼりぼりと後頭部をかきながら、憧れていた兄嫁のことを思い出した。

 

(いや、もうここにはいないし再会するかもわからないから気持ちを切り替えよう)


「パーパ! おーみーずー!」

「ああ、そうだったな……〈浄水〉」


 俺が掌をドリーの口元にもっていきながら、水を出すとドリーはんくんくと喉をならしつつ水を飲む。

 水を飲むとドリーの頭にあった花が元気に咲き誇った。


「ぷはぁ! パパ、ありがとう!」

「よかった。それじゃあ、ホリィにも挨拶しにいこう。着替えるから先にいっててくれ」

「はーい!」


 元気に挨拶して部屋からドリーが出ていったのを見送ると、俺は村人からもらった服へと着替える。

 作業着を脱ぎ捨て、麻だかでできた質素な服へと変えたら俺はいよいよこっちの世界の人間になった気がした。


■フィオレラ村 教会司祭の家 キッチン


「おはようございます、キヨシ様。着替えられたのですね? とってもお似合いですよ」

「お、おう……ありが、とう?」


 着替え終わってキッチンに向かうとホリィがスープを作っていた。

 昨日とは違い、野菜が結構入っている。

 服を褒められると照れ臭いが、ホリィの態度が明らかに昨日の朝とは違っていた。

 俺を女神の使徒と信じており、崇拝するような感じである。


「美女に構われて悪い気はしないんだが、もっと普通にしてほしい」

「そうはいわれましても、私は女神セナレア様に仕えるシスターですので、セナレア様の使徒でありますキヨシ様に仕えるのも当然です」


 胸をぐっと張って主張をするホリィに対して俺は何とも言えない気分になった。

 ドリーといいこの世界の人は自己主張が強いのだろうか……。


(いや、日本人というか俺が受け身すぎるんだろうな……)


 事情はあるにせよ、自分の心を塞いで生きて来たのを改めて生きようと気持ちを切り替えた。


「では、朝食にいたしましょう」

「ああ」


 そういえば、美女と幼女に囲まれて朝ごはんを食べるなんて家族みたいだな……。

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