閑話 ささやかな歓迎の宴
■フィオレラ村 集会場
俺が井戸を戻した夜、ホリィが〈浄水〉を飲ませて配ったおかげで村に活気が戻っていた。
快気祝いと俺の歓迎のために集会所ではささやかな宴が開かれることになる。
(腹がだいぶ減っているから、もっと食べたいところだが贅沢は言えないか……)
干し肉を焼いたものに、固いパン、それにシチューのような白いドロっとしたスープが並んでいた。
肉があるだけで子供は大喜びなので、俺は気持ちを抱くだけでぐっとこらえる。
日本がどれだけ裕福だったのかを感じる光景だ。
(コンビニもないんだから、狩りと農業、酪農くらいだもんな。商人だっていつもいるわけではないから、生活が大変なのはしかたないか)
「パパ、すわろっ!」
「お、おぅ」
「こちらにお座りください、キヨシ様」
「ホリィはもっと気楽になってくれ。なんか、こそばゆい……」
俺がドリーに手を引かれて慌てていると、信徒となったホリィが丁寧に案内をしてくる。
チートスキル〈浄水〉による浄化の奇跡だかを見たためか、俺を神格化しているようだ。
「そんな、女神セナレア様の使徒キヨシ様に対して恐れおおいですっ」
「確かに女神だかにこの力を貰って、この世界に来たけどなぁ……」
「おお、キヨシ様はやはり神の使い!」
「ありがたやーありがたやー」
「だーかーらー! 祈るのをやめてくれぇぇぇ!」
俺が余計なことを言ったからなのか、集まってきた村人たちが一斉に祈りだしたので、宴がなかなか始まらない。
無理やりにでも止めて、俺はビールの入った木製のコップを持った。
「あー、なんか言えと言われたので、ここに立っている。俺は農業が好きだ。だから、作物が育たない畑を見ると胸が痛む。俺の力で何とかできるならばしていきたい! 乾杯!」
「「かんぱーい!」」
村人たちが木製のコップに入ったビールを飲み始める。
ビールがあるなんて予想外だったが、どうやらこの村ではパンに使えない麦を使ってビールを作っているそうだ。
ただ、ビールに使うグルートというハーブでできた香料のようなものは領主から買う必要があるらしい。
それも値段が最近上がってきて残った最後の樽を開けているとのことだ。
「村の売り上げもあげなくちゃならないのか……俺はそういう領地改革なんて難しいことはしたくないんだがなぁ……」
「村の活性化はワシがやります。聖者様は村の収益の要である畑の活性化をお願いいたしたい!」
「お願いします!」
「お願い、おじちゃん!」
大人だけでなく子供まで頼んでこられると断れない。
こんなに真摯に頼まれることなんて、工場で働いていては味わえなかったことだ。
「よし! 俺に任せろ!」
酒がいい感じに回っていたせいか、大きなことを言ってしまう。
だが、それでもいいと思えるほどに村のことが好きになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます