第4話 村を襲う脅威

■フィオレラ村 教会菜園


 俺に対して祈りを捧げていたホリィを立たせると俺の腹がグゥと鳴る。

 そういえば朝食があれだけだから腹が減るのはしかなかった。


「食料がほとんど村にはないんだったな」

「はい、ですがキヨシ様の奇跡の力で解決できるかと思います」

「買いかぶりすぎだ……俺は綺麗な水を出せるだけのおっさんだ」


 美人によいしょされるのは慣れていないので、こそばゆい。

 照れ臭いので正直なところやめて欲しかった。


「パパの力で村の農地を全部治しちゃうの! パパならできるの!」

「そのパパというのはやめてくれないか? 刷り込み見たいなものかもしれないんだが……そういえば、名前は?」

「ドリーはね。ドリエルっていうの!」


 元気な幼女あらためドリーにいわれたら、できるような気がしてくるのだから不思議である。

 幼女趣味があるわけじゃないが、姪っ子のわがままを聞いてあげたくなる気分と同じだ。


「では、まずは村長さんの下へいきましょう。食料をいつも分けてもらっていますし、今日も貰えるかもしれません」

「それは助かる。昨日の夜からまともに食べていないからな、何か食べられるなら大歓迎だ」

「キヨシ様の御威光で村を救ってくださることを伝えればきっと納得していただけることでしょう」


 ホリィの様子が狂信者っぽくなりだしていてちょっとこわい。

 あっれれぇ~、おかしいぞ?


「ま、まぁ……まずは村長の家だな。ドリーもつれていこうか」

「パパとおでかけー♪」


 俺の手を握ってドリーははしゃぎながら歩きだす。

 子供は元気でいいな。


■フィオレラ村 村長の家


 ホリィの案内で村長の家についたが、道中でほとんど人に会わなかったことが気になる。

 朝だからとも思わなくもないが……嫌な予感がしていた。


「キヨシ様! 急いできてください」


 先に村長と話をつけにいったホリィが村長の家から出てきだかと思ったら、俺の手を引いて中に入っていく。

 寝室へ連れ出されたら、年老いた男がベッドで苦しそうに横になっていた。

 黒いモヤのようなものが体にうっすらまとわりついている。


「黒いモヤみたいなのが見えるが、これがさっき言っていた瘴気なのか?」

「はい、瘴気を取り去ることができるのは上位の神官くらいです……でも、村にはお金がないので神官を呼ぶことができないのです」


 ホリィが悔し気に呟いた。

 彼女もきっとシスターとして相談を色々受けて来たのだろう。

 力がないことで悔しい思いをして来たのが、手に取るように分かった。


「俺の<浄水>でどうにかできるかわからんが、やってみよう」


 俺は念じて掌に水を湧きあがらせると、苦しそうに唸っている村長に水を飲ませる。

 飲み終わった村長の体から黒いモヤがうすくなって消えていくのが見えた。


「おお、シスターホリィ。それにばあさんも」

「あんたぁ、元気になったんだぁねぇ~。よかった、よかったよぉ」


 苦しむ村長の汗を拭こうと布を持ってきた老婆が村長に駆け寄って互いに抱き合う。


「見かけない顔だが、旅人ですかな?」

「あー、俺は……」

「こちらの方は【浄化の聖者】キヨシ様です。瘴気で苦しむ私たちの村に、女神セナレア様が使いとして寄こしていただいたのです」


 俺はが説明しようとしたら、ホリィが割り込み芝居がかった様子で村長に伝えていた。

 いや、浄化の聖者とか初耳なんだけど!?


「神の奇跡によってワシは救われたのですな。ありがたや、ありがたや」

「ありがたや、ありがたや」

 

 村長と村長の奥さんが両手をああせて念仏のようにありがたやと唱えていた。

 派遣社員として働いていたとき、ここまで感謝されたことはあっただろうか?

 いや、ない。


「ああ、そんなに祈らないでくれ。俺は大したことのないただのおっさんだ」

「パパはすごいパパなの!」

「おお、ドリアードに父と認められているとはまさに神の使徒様じゃ……ありがたやありがたや」

 

 俺が訂正をしようとしたが、ドリーが割り込んでしまったのでさらに勘違いが加速していた。

 どうしようかと本当に悩んでいると家の外から男の声が聞こえてくる。


「村長! 井戸にも瘴気が入り込んでいて村の衆が大半やられてしまった! どうしたらいい!」

「井戸水までも……キヨシ様。大した報酬もだせませぬが、ワシの願いを聞いていただけないだろうか?」

 

 体を起こし、ベッドに腰かけ、村長は俺の方を見てくる。

 その目にあるのは”期待”だ。


(期待なんてされたのも就職して1年目の時くらいだよなぁ……)


 俺がたそがれはじめたとき、ホリィが俺の両手を掴んで自分の胸の前で組む。


「キヨシ様。村のために井戸の浄化をお願いできないでしょうか?」

「俺ができるのは浄水であって、浄化じゃないんだが……できちゃっているからなぁ、否定が仕切れない」


 ポリポリと頬をかいた俺はホリィに向き直り、決意を新たにした。


「では、ホリィ。井戸のところまで案内してくれ」

「はい、私に任せてください」


 俺の両手を離したホリィは家を出て、村にある井戸へと走り出す。

 俺達はホリィの後についていくように走るのだった。

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