第3話 新しい朝が来た
■フィオレラ村 教会司祭の家 キッチン
キッチンではすでにホリィが起きて何かスープの様なものを作っている。
「あら、おはようございます」
「おはよう、ホリィ」
ホリィに挨拶をして、テーブルにつく。
「こんなものしかないですが朝食です」
ホリィが出してくれたのはスープだ。
スープと言っても野菜の切れ端くらいしか入っておらず、腹にたまるようなものではない。
「この村というか、教会の経営は厳しいのか?」
「はい……先日、司祭様が病に倒れて亡くなってしまい菜園も整えられていない状況でして」
「そうなのか……」
「村の方から施しをいただいている状況ですが、村事態も瘴気の影響で作物が育たないようで苦労されているようです」
俺の向かい側に座ったホリィは一通り話し終えると両手を組んで祈りを捧げた。
宗教のことはよくわからないが、何となく俺も食べる前に同じように両手を組んで祈る。
いただきますの精神は万国共通だ。
「昨日も聞いたが、瘴気ってのは具体的になんなんだ?」
「正体や原因についてはわからないのですが、この国に今広がっている黒いモヤみたいなもので、それが広がった土地は植物が枯れたり動物が狂暴化や異形化したりしています」
「なるほど……大気汚染か、公害みたいなものなんだな」
「タイキオセン? コウガイ?」
「ああ、こっちの世界の話だ……すまない」
俺の呟きにホリィが首を不思議そうに傾けたので、訂正をした。
美人ではあるもののちょっとしたしぐさが可愛い。
年齢は俺よりも一回りは下に見えるので手を出すのははばかれるが、村人から人気になるのもわかる気がした。
そういえばと俺は思い出したように言葉を紡ぐ。
「そういえば、その女神か? それの加護を貰ったらしい」
俺の言葉にホリィがガタッと立ち上がった。
「今の話は本当ですか!? すみませんが菜園でキヨシさんの力を見せてください!」
キスをしそうなくらい近く身を乗り出してきたホリィに俺は体が熱くなるのを感じながら頷く。
朝食をそのままに俺達は菜園へ向かった。
■フィオレラ村 教会菜園
家の裏手にあったのは俺の家庭菜園よりも広い畑ではあったが土が死んでいるのが触っただけで分かる。
命がないというか、温かみが消えていた。
「これじゃあ、確かに育たたないな……俺の力というかこれでどうにかなるかわからないが……」
そう思いながらも、俺の中ではどうにかしたいという思いが沸き上がっている。
昨夜に出会った女神の姿が脳裏に浮かび、体中に入った光の力が俺の全身にみなぎっているのが分かった。
自分の持っている力が初めから手に入れていたかの様に使う。
スキル名を口にして掌を上にすると、湧き水のように水が溢れだしてきた。
「すごい……魔法のような詠唱もなくできるんですね」
水が地面に零れると黒ずんだ土の色が茶色に代わっていく。
そして、枯れていた畑に芽が生えて来たのだ。
「芽まで生えて来たぞ!?」
その芽はニョキニョキと急成長して大きな花が咲いたかと思うと、花弁が散って幼女がそこに立っていた。
「ああ、浄化の女神セナレアよ……私は奇跡を見ております。ありがとうございます」
ホリィは思わず涙を流して、俺が畑を元気にしていく様子を見ている。
なんだか、恥ずかしいぞっ!
「ホリィ、そこに幼女がいるんだが……なんなんだ?」
「はっ! すみません……ええと、幼女、ですか?」
正気に戻ったホリィが俺が指し示す方向を見ると、葉っぱの服を着ている幼女が眠っているかのように閉じていた目を開く。
その目が俺と合った。
「パパ―!」
葉っぱの服を着た緑髪の幼女が俺にタックルするように抱き着いてくる。
「まて、パパとはなんだ? ホリィ! こいつは何なんだ!?」
「ドリアードですよ!? 植物を見守る精霊です! 瘴気が濃くなったこのあたりでは精霊や妖精は死滅したといわれていたのですが……」
ホリィは驚きながら説明をしてくれるが、俺にはよくわからない。
いうなれば害虫ではなく益虫みたいなものなのか?
抱き着いてウリウリと頭をこすりつけてくる幼女の頭を撫でながら、俺はホリィに顔を向けた。
「あー、ホリィ。こういう力なんだが……どうだ?」
「神の使徒キヨシ様。ありがとうございます。貴方様のお陰で教会も、村も救われます」
「おい、ちょっと待ってくれ。なんで様付けになった!?」
「何をおっしゃいますか、キヨシ様。奇跡を見させていただきましたので、私は貴方様に仕えるのは当然です」
膝をついて祈りを捧げるポーズをとるホリィに俺はどうしていいのかわからなくなった。
幼女と美女に囲まれた俺の異世界生活はどうなる!?
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