第11話 私はその手をとる。

 身体全身が、冷たくて重たい。頬にちくりと砂が、刺さって痛みを感じる。

 その痛みで、頭をクリアにしていく。



「えっと?」


 どっぷりと海水を服が吸い込んで、重さを増す。身体がそのまま海の中に沈んでしまいそうだ。


 身体は海に浸かっていて、顔だけが砂浜に出ている状況だ。身体を起こし、海から離れていく。

 そうして、歩いて進んだ海の中に視線を動かした。



「誰もいない……?」



 陽気な音楽が、海の波に負けない音を立てた。

 先ほど私が座り込んでいた、コンクリートの階段で何か光る。



「あ、スマホが鳴ってる?」

 


 私は、海水まみれでベタつく手でスマホを手にした。そこには、"佐々木さん"と書かれてる。



 重たくなった服が、どんどんと冷えて身体の温度を奪う。指先が冷えて、震え始める。

 震えた指で、スマホをタップした。




「はい……」


 

 ――大丈夫ですか? 飲ませすぎちゃいましたよね。……なんか、海にいます?



 佐々木さんは、私を心配した声をさせる。海の音を拾ってないと思っていたのに、居場所がバレた。



 ガタガタと音を立てて、慌てているような音がスマホ越しに聞こえてくる。




「海にいます……二日酔いになりましたよ」



 ――声が震えてますよ。どの海ですか?




 手短に会話をして、切られた。スマホのそばに置いたままのカバンから、タオルを取り出した。

 濡れそぼった髪を拭いて、タオルを肩からかける。



 地平線から太陽が顔を覗かせた。寒さに負けて、鼻を啜る。




「早見さん! なんでこんなところで……って、風邪引きますよ?」



「佐々木さん……」



 緩い茶色の髪を一つに結んで、私に着ていたカーディガンをかけてくれる。

 そして、ふわっと抱きしめられた。



「冷たすぎです。早くシャワー浴びましょう」



「佐々木さんも濡れちゃいますから」


 

 私は、力を込めて離そうとした。寒さで冷え切った私の身体は、思うように動いてくれない。

 さらには、佐々木さんの温度が伝わってきてその暖かさに身を委ねたくなる。



 朝日が私たちに当たって、黄色の光に包まれた。ふたりでその太陽の明かりを見つめた。



「さぁ、帰りましょう!」



 私は、佐々木さんの手をとった。

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