第3話 嫌いなこと。
佐々木さんと他愛無い話をして、会社に戻る。いつも通りの書類の山。嫌気がさすが、早く帰りたいのでサクサクとPCを動かしていく。
「早見さん、おつかれ」
「部長、お疲れ様です……」
はい、っと渡された書類に目をおとす。『部長、社長と不倫してるらしいですよ』の、佐々木さんの声が脳内に流れる。
佐々木さんが、くすりと笑う声が聞こえてきた。フルフルと頭を振って、ウワサをかき消す。集中をしようと、渡された書類を眺める。
(日常に飽きると、そんな変なことをしはじめるもの?? 私は、楽しくないこの毎日だったとしても……理解できないなぁ)
マーカーで、必要なところだけに線を引いていく。なんだか、疑問を感じた。指で、その文字をなぞる。
赤の蛍光ペンで引いた文字の頭文字……『うしろに注意』の言葉が浮かび上がった。
少し、背筋がぞくりとする。背中をピシッと伸ばし、少し周りを見渡した。もちろん、先ほどと何も変わらないオフィス風景。すこし安堵をして、ため息をつく。
(うしろに注意なんて、少し不気味。いやいや、こんなことに気を取られるなんて!)
たまたま、出来上がった言葉。そんなものに、うつつを抜かしていられないのだ。そして、就業のチャイムが鳴った。
「早見さん、どうです?」
「佐々木さん、もう終わりますよ!」
笑いながら、グラスを傾ける仕草をする。本当に、私と正反対なのにどこを気に入ってくれているのやら。その笑顔に私も笑顔を返した。
サクッと業務を終え、部長に提出をした。私は、コピー機にいる佐々木さんをチラッと見る。すると彼女は、ホチキスで留めて部長の席に向かった。
無表情で部長の机に、出来上がった書類を置いて振り返る。
その強い姿勢に、ごくりと喉をならす。私は、そんな彼女を見て”こういうタイプは敵にまわしたくない”と強く感じた。
先ほど見せた冷たい無表情とは違って、普段の柔らかい笑みに戻っている。その温度差に、鼻がムズムズしてきそうだ。
「早見さん! さあ、いきましょ〜」
私の腕に絡めて、ズンズンと外に向かう。周囲の人から挨拶をされて、背中を向けてエレベーターに乗り込んだ。
「早見さん!」
「ん?」
絡めた腕に力を入れられ、顔を近づけられた。じっと見られるその瞳の中には、静かに怒りを滲ませている。
「お昼に言った話ですけど。結構、情報回っているんですよ?」
私は、頷いておいた。1皆に到着して、腕を外されて私を置いて先を歩いて行ってしまう。
「それなのに、廊下で……あの2人、キスしてたんですよ!?」
「うわぁ」
私の
佐々木さんは、腕を組んで私の一歩前を歩いていく。私はその行く先を、ついていく。それに、私たちが行くお店はいつものお店なのだ。
「あり得ませんよね!」
「そうだね〜」
適当に流しておく。こういうのは、当たり障りない返事が一番なのだ。もしかしたら、佐々木さんにとってそれが心地よいのかもしれない。
タクシーに乗って、行きつけのお店に向かう。
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