壹幕:スパークリング・スカイサマー。
壹幕前書き ルゥダちゃんは僕の腕の中。
「返してくれ…。」
暗闇の中、どこからか声が聞こえる。
その声は何かに縋り、泣き啜りながら懇願するような、悲痛な男性の声だった。
「返してくれえ…。」
また聞こえる。
時間が経つにつれ、次第に近くで聞こえ出す。
「誰っ!?」
暗闇の中、呼んではみるが、自分の声が響くだけで返事は返ってこない。
気のせいか、妙に血生臭い気もする。
それに何かがゴロゴロと転がる音が聞こえた瞬間、
「俺の頭、返してくれええええ!!!」
頭だけになった血塗れの男性が、鋭い目でこちらを見据え、口からは血のような赤黒い液を滴り落としながら、僕の目の前で叫んだ。
「うわあああああ!!」
冷や汗が背中を伝い、僕は飛び起きた。
僕を悪夢から覚ましたのは、右手に走る痛みだった。
被っていた掛け毛布を払うと、僕の右腕にコアラのように抱きつく少女が、寝ぼけながら噛みついていたのだ。
「わあ!ルゥダちゃん!!」
「まゃ?」
右腕を振り払うと、べったりとついたよだれが垂れる。
「なんで僕のベッドに!?つかここどこ!?」
「ここ、ワタシのベッドだよ…?」
「嘘っ!?」
周囲を見渡すと、やけに可愛い装飾がついた部屋で、僕は机の上に備え付けられた二段ベッドにいた。
足も伸ばせられないくらいに狭い。
「ご、ごめん!すぐ帰るよ!」
「帰るってどこに?」
「えと…、あ…そうか…。」
このモモバースに僕のベッドどころか、部屋すらない事に気づいた。
じゃあどうすりゃいいんだ…?
「昨日の事、覚えてないの…?」
「はい…。」
ルゥダちゃんはクシャクシャにシワついた緑のパジャマの裾で目を擦り、ゆっくり体を起こす。
「親衛隊の寮に着いて、呑み会で呑めなかったヘキザさんと一緒に二次会したんですよ。ヘキザさんの部屋で。んでセツ兄に部屋がないよなあって話になって、ワタシの部屋に住む事になったんですよ。」
「…まじ?」
「まじですね。」
「ごめん…。全然覚えてないや…。」
「悪酔いする人嫌いです!酒臭いし!!」
「うーーー、ごめん!!」
「むぅ。」
ふくれるルゥダちゃんを宥めているうちに、悪夢がどんな内容だったのか、もう思い出せなくなっていた。
何か重大な内容の夢だった気がするけど、断片的に思い出しかけては、掠れてるように遠のいていく…。
「まあいいか…。」
「何が!!?」
「いや違うっ!」
こうして僕とルゥダちゃんの、幸先の悪い同棲生活がスタートした。
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